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2 平均的陰キャの俺は手紙を見つける。

「ただいまー」


「お帰り、快斗。あんた宛ての手紙、机に置いといたからね。どうせ図書館の本とかでしょ。あとは……留年?」


 いつものように母親がキッチンで料理をしている。この匂いはもしかしなくてもカレーライスだろうか。それも、高校生にとっては嫌がらせでしかない甘口。


「そんなに成績悪くないし、ウチの高校、救済あるから留年とか存在しないし。どんだけ留年させたいんだよ……」


 母は俺のことをなんだと思っているんだ。彼女どころか友達すらいない悲しい奴だとでも思っているのだろうか。残念ながら全部事実だけれど。


「んで、俺宛ての手紙ってどれさ」


 からっからに乾いた青春に絶望しながら、適当に置かれた紙の束に手をつける。新聞の日付が今日だから、あるとしたらきっとこの山の中。


「一番下の……」


「これ?」


「それよそれ。その……茶色い封筒。あんたの名前しか書いてないけど」


 母が言った通り、俺の住所と名前しか書いていない。明らかに怪しいお荷物。これは開けていいのか少し迷ってしまう。というか、親の前で開けてもいいものなのだろうか。


 身に覚えのないアダルトな写真とかだったら生暖かい視線を送られるし、ギフトカードとかだったら速攻お肉に変換されてしまう。


「部屋で開けるわ。つーか、俺に取らせるつもりのものをなんで一番下に入れるんだよ。嫌がらせかっ!」


「いいからリュック置いて早くテーブル片付けちゃいなさい!」


 本当に理不尽だ。大学生になったら、親に縛られない一人暮らしを始めてやる。そんなことも思ったけれど、俺に料理なんて出来ないし。


 少なくともあと六年はここから学校に通うことになるのだろう。憂鬱ではあるが、仕方ないとも思う。


 もうわかっていることだが、俺にはお弁当を作ってくれる幼なじみも、毎朝起こしに来てくれるお隣のお姉さんもいない。隣に住んでいるのは知らないおっさんだけだ。


 現実を思い出してげっそりとしながら部屋に戻る。


 特に趣味といえるような趣味を持っていない俺の部屋。男子高校生とは思えない程に殺風景な場所。男子の部屋にあるべき成人向けのグッズの一つすらも存在しない。


 適当に教科書をリュックから棚に移し、視線をさっきの封筒へと戻す。


 やっぱり変な手紙。切手の類いすらも貼っていない。これは、直接ポストに入れたに違いない。


 ラブレターなのか。やっぱり青春でセンチメンタルでラブ的なサムシングなのだろうか。


 いや、そんなはずがない。


「そんなはずがない……よな?」


 白で横長じゃないし、丸文字じゃないし、何よりもハート型のシールが貼られてない。下駄箱じゃなくてポストに入っている時点でラブなレターという可能性はないのだし。


 やはり督促状の類いなのだろうか。図書館で本を借りた覚えなんて無いし――――


『早く開けろ、ばかっ!』


「は?」


 いきなり喋り出す封筒と関わった覚えもない。よし、捨てよう。これはきっと幻聴だ。


『捨てようとするなっ、あほっ!』


「今日の夕飯はカレーライスかー。楽しみだなー」


 きっと俺の青春が灰色過ぎて、頭が混乱しているんだ。そうだ。よし、夕飯食べ終わったらすぐに寝よう。そして疲れを取ってしまおう。


『見てよぉ……頼むからさぁ。ぐすんっ』


「……」


『幻聴じゃないからっ!』


「これは幻聴これは幻聴。俺は青春っぽいことやって疲れてんだ」


『とりあえず中のメッセージだけでも読めっ! 以上! あと、開けずに捨てるのはなしだからな? 天使様との約束だからな?』


 捨てるなと言われて捨てるほど俺は愚かじゃあない。でも、こんな怪しげなものに積極的に関わりたいとも思えない。


 俺は普通に平均的なただの陰キャなのだ。


 面倒なことは避ける以外の選択肢を持っていない。そういうことは主人公属性を持っている陽キャという人種に任せればいいと思っている。


 でも、灰色の青春に刺激が欲しいと思っていたのも事実。ここは開けるしかないのだろうか。


「はぁ……」


 俺はきっと主人公にも何にもなれない、凡庸な人間だ。


 これを開けたところでリア充にはなれないし、特別な能力を授かれるとかも無いと思う。所詮ただの手紙だ。


「これも、若さなのか……」


 ただの、手紙。でもこれには夢が詰まっているような気がした。だから、カッターナイフを封筒の上部、少し空いている部分にスッと通したのであった。

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