27 受動的リア充の俺は愛妻弁当(?)の夢を見る。
『ほい、今日のお昼ごはん。どうせ買ってないでしょ?』
お昼休みが始まった頃。不機嫌な天使様がこっちに向かってコッペパンを投げつけてくる。俺はそれをあたふたしながらキャッチし、さっと確認する。
上に切り込みが入っていて、間にはソーセージらしきものが挟まっている。ケチャップやマスタードはかかっていないけれど、多分これはホットドッグ。
色々言いたいことはあったが、最初に口から出たのはこの言葉だった。
「すまん」
『違う。何度言わせるわけ?』
顔を見なくてもわかる。これは逆鱗に触れてしまった系のアレだ。下手すれば教室ごと灰になる系のアレだ。
俺は突破口を見つけるために天使様の今までの発言を振り返る。
ごめんよりも以下略。いつか聞いたそのフレーズが脳裏に浮かんできた。つまり正解はこっちということだ。
「あ、ありがとう?」
『褒めてもなにも出てこないし。どうせ今日も行くんでしょ? 愛しの花咲ちゃんの所にさ』
まんざらでもない顔をする天使様。直接見たわけじゃないけれど、声を聞けばなんとなくわかる。少し高かったのだ。その後ジェットコースター並みに下がっていったけれど。
「はぁ、ちゃんと行くって朝も言っちゃっただろ?」
教室の扉をそっと開けて、誰にも気付かれないように外に出る。今の時間廊下にいるのは遠距離カップルくらい。遠距離と言ってもクラス間の壁しか無いのだが。
『ぶーぶー』
「ここでまさかのブーイングって。お前は単純なお子さまか」
それが昼間からいちゃつくカップルに向けられたものなのか、あるいは女子の尻を追いかけるだけの陰キャ野郎に向けられたものなのか。
どちらにしても言動が幼く見えてしまったことに変わりはない。
『少なくともお前の百倍は生きてますしー』
その後に年齢でマウントを取ろうとするのもいかがかと思った。百倍、つまり少なくとも筑波山の標高の二倍以上は生きているということか。
「実は末期高れ……」
『は?』
耳を刺す高周波。窓際で愛を囁きあっている男女が驚いて窓を見る。でもそれもつかの間のこと。彼らは何事もなかったかのようにまた愛を囁き始める。
ちょっとは自重しろ……ではなく。
「ちょっ、落ち着けって。ガラスがビリビリいってるから」
羞恥心が圧倒的に足りない人達には聞こえないように、口パクだけで天使に話しかける。どうせ俺が大声を出したところで気付かれないとは思うけれど。
『はぁ。自重しろと、このあたしに。いつもならやなこったーって言うところだけどさ、そこまでお子ちゃまじゃないからね。もちろん高齢者でも無いけどさ』
後ろから聞こえる指パッチン。横からの不快な音がそもそも無かったかのように消える。窓の外の景色もいたって普通、日常そのもの。
『はぁ……なんで――――じゃないのかな』
「なにか言ったか?」
『いや、なんでもないし。これ以上余計なこと言ったら物理的に消すから。だから寄り道せずにはよ行け』
本当によくわからない。天使様がキレるタイミングも、その原因も。わからないからとりあえず前に進む。わからないなりに前に進む。
「花咲さんは……っと。いた」
さっきも登った階段。天使様とも話した場所。そこに彼女は、花咲さんはお行儀よく座って待っていた。いつ教室を出たらそんなに早くたどり着けるのだろう。
「……ん。隣、早く座ってくれると助かる」
彼女は二回ほど彼女自身の隣の床を軽く叩き、俺をそこに招く。膝の上にはこじんまりとしたお弁当。
「えっと、恋人でもなんでもないのに良いのか?」
確実に互いの息すらも感じ取れる距離。数ヶ月前は赤の他人だったはずのに、そんな場所に入ってしまって良いのだろうか。
「内緒話をするにはこっちの方が都合がいい。それに、誰かに聞かれると困るから」
「その……誰かに聞かれるっていうのは?」
普通に考えて、その理由に合理性は感じられない。こんなところに来る先生なんてほとんどいないからだ。
「恥ずかしながら……テンションが上がると声のボリュームのコントロールが全く出来なくなります、はい」
「そ、そっか。そりゃ大変だな」
納得……は出来ないけれど、とりあえず話を進めるために花咲さんの隣に座る。こうしていると、恋人になったような気分になるから不思議だ。
「うん……大変。で、朝の続きなんだけど」
「あー……そう、うん。微妙に気まずいままにしておくのもアレだな」
「その……小説のくだりだけは秘密にしておいてくれると嬉しいんだけど……」
『それには一つ条件がある。俺の言うことを一つ聞いて欲しいーって言って。こういうのは、条件付きにした方がお互い納得しやすいわけさ。具体的にはセッ……』
久しぶりに天使様がまともなアドバイスをしてくれた気がする。最後以外はちゃんと合理的で論理的だし。うん、最後以外は。
そして俺は彼女の指示通りに言葉を紡いでいく。




