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26 受動的リア充の俺は天使様と口論する。

『あのさぁ、もっとあたしを頼ってくれていいんだよ? というかもっと頼ってよ』


「起立、気をつけ、礼」


 教師が授業をするために教室に入ってくる。同じタイミングに行われる号令。高校生である俺はもちろん授業を優先する。つまり天使様はスルーということなのだが。


『うがぁ、なぜ無視するんじゃい! ちょっといいこと言ったのにさ』


 こいつ、とにかくやかましい。それも一般的な声帯を用いた発声法でないのでなおさら。頭に響く音のせいで授業すら頭に入ってこない。


『誰が騒音の原因だ。誰が。お前が構ってくれないのが悪いんだし。あたしはこれっぽっちも悪くないもん』


「先生、すみません。ちょっとお手洗いに……」


 二、三分ならばともかく、二時間近く拷問のようにこれをされていると頭がおかしくなってくる。


「おう! 行ってこい!」


 ラッキーなことに、今教壇に立っているのはそこまで厳しくないことで有名な数学教師。俺はそのまま教室という閉鎖空間から見事逃げ出したのであった。


 ニコニコしながら便所に送り出す教師というのも変なものだが。トイレに行っトイレと言われなかっただけまだ良いか。


『お手洗いはそこじゃないよな?』


 俺が行ったのは、昨日花咲さんとお昼ごはんを食べた階段。天文部の人達も今は授業を受けている時間だから、誰かが来る心配をする必要もない。


 つまり内緒話をするには最適の場所ということだ。教師が来たら一発アウトになるけれど。もちろんフラグではなく。


「知ってる。というか俺が普通にトイレに行ったとしてもついてくるだろうが」


『それもそっか。サキュバス違うからエネルギーとかは取れないんだけどね。ただ単純に見てるだけだし』


「普通に見るなし。で、なんであんなにやかましくしてたのか教えて貰おうか」


『……ギクッ』


 下手くそな口笛を吹き始める天使様。こいつのせいで保健室に行こうか真剣に考えてしまったのだ。ちゃんと落とし前くらいはつけてもらおうか。


「なんで今日はご機嫌斜めなんだ?」


 まずは事情聴取から始めるとしよう。昨日はこれほど酷くは無かったのに。俺に原因があるなら出来るだけ改善するつもりだが、今のままでは、どうすることも出来ないから。


 しばらくして天使様が口を開く。


『だって……』


「だって?」


 やはり深い理由というのが潜んでいるのだろうか。天使様だからそれくらいあってもおかしくはない。


『お前が花咲ちゃんとワイワイやってるから……』


「……は?」


 いや、ちょっとよくわからない。天使様が俺の後ろにいる理由というのはアレだろう。アレだったはずだ。俺から花咲さんへの恋を応援するためだったはずだ。


 一歩間違えれば地獄、だけれども一歩進めばそのままゴールイン。それが今の状況。天使的には面白いシチュエーションではないのか。


『もっと手がかかる奴だと思ってたんだよっ! それなのにお前も花咲ちゃんもあたしを置いてスタスタ行っちゃうから』


「……え、それだけ?」


 とにかく拍子抜けであったことに変わりはない。よし、教室に戻って真面目に授業を受け直そう。そしてお昼のことをじっくり考えよう。


 俺は階段から立ち上がり、手すりをそっとつかむ。さて、今日のお昼はどうしようか。


『え? じゃないよ、あたしにとっては死活問題だよっ!』


「天使様よ、どこが死活問題なのか凡人の俺にもわかるように説明プリーズ」


『えー、嫌って言ったらどうするのさ?』


「教室に帰るだけだがなにか?」


 下を向いて絶対にコケないような体勢をとる。俺だって階段でジェットコースターなんてしたくないのだ。あと滑り台も。


 それにこの時間にこんなことをしていたと担任に知られたら、ホームルームでお説教が待っているのがわかっているから。


『ちょっと待ってよ! 話すからっ、話すからさ、あと五分くらい待って!』


「五分だけだからな?」


『いやぁ……やっぱり十五分、くらいかかるかも?』


「帰る」


 そんなにかかったら授業が欠課扱いにされてしまう。単位の一つや二つくらいなら落としても進級は出来るけれど、三年生の時に取らないといけない単位数が増えてしまうのだ。


 現在の時刻は大体十一時くらい。二十分以上教室にいなかったら強制的に欠課扱いされてしまうから、タイムリミットはあと五分も無い。


『ちょっ……ほんとに戻っちゃうの!? はぁ、別に良いけどさぁ。ばかっ』


 廊下を超高速で歩き、クラスメイトにバレないように後ろの扉をそっと開けて体を滑り込ませる。ここまでは完璧(パーフェクト)


「おうっ、天宮! 長かったけどちゃんとスッキリしたかー」


「は、はい……」


 教室が笑いに包まれる。それも小二レベルのネタで。大人の階段を登った後だと思われる複数の女子から向けられた視線が怖い。白を通り越して銀色だ。あれは刃物の色だ。アカン、消される。


 女子の陰に隠れて見えない彼女の顔。そもそもこちらを向いていなかったのかもしれない。笑っていただろうか、それともドン引きだっただろうか。


 もやっとしたまま俺は自分の席に座るのであった。

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