25 凡庸的ゲーマーの俺は沼の中を垣間見る。
俺はあの時の天使様の言葉を思い出す。大事なのは、知ったあとどう向き合うかという話。単純に拒絶するだけでなく、ちゃんとそれに目を向けて考えろというありがたいお言葉を。
「別に、俺はなんとも思わないけど。俺自身も普通にソシャゲしまくってるし」
犯罪行為に手を染めているならともかく、そうでもないのに他人の趣味に口を出す権利なんて俺にはない。
「……嘘。そんなの嘘に決まってる」
「どうして、どうして嘘だと思ったんだ?」
やっぱり俺みたいな奴は信用されないのだろうか。それもそうか。毎朝話しかけてくるだけの危ない人を信用しろという方が難しいか。
早くこの会話を終わらせてしまいたい。お互いに傷つけあうだけになってしまうだけだから。誰も得することなく永遠の終わりを迎えてしまいそうだから。
「それは……」
「別に、答えたく無ければ無理に言う必要は無いけどさ」
『まどろっこしいな、おい。代わりにあたしが教えてやろう。感謝するんだ……へぶっ』
俺は天使様の方を見ることなく平手打ちをかます。当たったのは手の甲だから裏拳ってやつ……なのだろうか。
沸き上がってきた感情は感謝ではなく謝罪。少々乱暴な手段に出てしまったという自覚はある。でもこれだけは譲れなかった。彼女の気持ちを彼女自身の口から聞くことだけは。
『ひっど! なにも裏拳かます必要はなかったっしょ。裏拳かますならかますで、もっとラッキースケベ狙ってよ。具体的には三十センチくらい下の』
復活したチンピラ……ではなく天使様に意味もなく絡まれ、俺の頭の中のシリアス系の空気がどこかに吹き飛んでしまう。
シリアスをカオスに置き換えられたところで、俺の考えが変わったりはしないのだけれど。
合意あるセクハラも人として駄目……じゃなくて、花咲さんの気持ちは本人から聞きたいというやつ。危うく変態に流される所だった。恐るべし天使様。
「だって……既存のキャラクターでいろんな妄想してるなんて知ったら、かなり引くでしょ?」
「いや、普通でしょ」
いろんな妄想の内容が気になったが、それはそれ。
なぁ、天使様。お前は間違いなく既存のキャラクターだったよな。そんなどうでもいいことが頭を支配していく。
この論理だと完全に俺もアウトな人種になってしまうのではなかろうか。妄想の中の天使と混浴したり、妄想の中の天使に黒板もどきの掃除をさせたり。他にも昼飯をパシらせたり。
『今とっても失礼なこと考えてるよね? あたし、お前の妄想の産物じゃないから。リアル天使だし。背中から羽とかもちゃんと生えるもん』
「それも、ちょっとエ……な妄想とかもするし……」
「うん、思春期だからそれくらいするよな」
花咲さんもそういうのに興味があることにどこか安心しつつ、やかましい天使様をどうしようか考える。
『誰が中二病だっての、あほっ! 天使なんだから羽くらい生えるし。頭の上に輪っかとかも出るし。なんなら今から出そっか? といった出しちゃうよ?』
折角の真剣な空気をぶち壊しにしやがって。それも一度だけでなく二度も。三度目までは大目に見るとして、四度目以降はどうしてやろうか。
「それに、今は既存のキャラクターだけじゃ満足出来なくなって……」
「なって……?」
これはとてつもない地雷を踏んだような気がする。
このまま話を進めるべきか、それとも折角のヒートアップをクールダウンさせるべきか。何を言おうとしているのか。
進行形で俺の心を読んでいるだけの天使様にはわからないと思うが、俺自身にも実際わかっていない。つまり詰みだ。
「……Webで妄想ぶちまけてます、はい」
これでもうお互いに後戻り出来なくなった。助けて天使様と言いたいところだが、変なスイッチが入ってしまった彼女に頼る訳にはいかない。
肝心な場面で役にたってないな、この堕天使。クーリングオフ制度とかを使って天界的な場所に送り返してやろうか。いや、大事なのはそっちじゃない。
「あー、うん。だとしても……俺はなんとも思わないが? 趣味に口出し出来るほど俺は偉いわけじゃないし」
セーフ。ちゃんとシリアスな空気を壊さずに答えられた。雑念だらけの状態で言っている時点で人としてアウトかもしれないけど。
「……重度のオタクで、それに自分で下手な小説書いてるとか聞いても本当になにも思わないの? 私がその立場だったとしたら、多分かなり引く」
「だとしても…花咲さんがそう思っていたとしても。俺は好きなことに向かって全力で進むことをカッコいいことだと思う」
人としてアウトな俺が言ったところで、言葉の重みも信憑性も無いか。というかこれ、遠回しな告白になっていないだろうか。
とりあえずこの台詞は黒歴史になること間違いなしである。天使様もここは空気を読んで、なにも言ってこない。そんな空気読まなくていいのに。働けシリアスブレイカー、早く笑い話に変えてくれ。
「あー、その。時間も無いし、さくっとこの黒板綺麗にするか……俺たち二人で」
「……」
『あたしを仲間外れにするなしっ!』
天使様よ、もうちょっと天使らしいことをして欲しかったのだが。例えば俺の台詞を考えるとか。
『うぐっ。だって仕方ないじゃんか。今日こうなるなんて知らなかったんだし』
「話の続きはお昼休みってことでとりあえず手を打ったのであった、まる」
『はぁ。だとしてもあたしは問答無用で授業中に話しかけるけどねー』
駄目だこいつと思ったのは公然の秘密であった。




