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24 凡庸的ゲーマーの俺は修羅場を経験する。

「今日も俺がーいっちばんのりー! いぇいっ!」


『最近の高校生ってのはここまで阿呆なのか?』


 教室の電気は付いていない。もちろん廊下の電気も。いつも俺が一番に来てスイッチを押すのだから。


 天使様が呆れているのは、きっとこれの良さがまだわかっていないからだろう。早起きは三文の徳という言葉があるように、早く来て教室を綺麗にすることは先生のパフォーマンスの向上に繋がるのだ。


 黒板の件で先生を不機嫌にしないこと。それがいい成績を取る秘訣だったりする。俺自身の成績は平均の中の平均みたいな数字だけれど。定期テストは当然のごとく全科目平均点。


「今日はアレ試してみよっかな」


『スルーかよ。んで、アレって?』


「それは教室に入ってからのお楽しみってことで」


 はよ教えろという天使様の言葉を無視して、一番に来た人に与えられる特権を行使する。具体的には中二的な台詞が言い放題という誰得な特典を。


「おはよう、グッドモーニング、グーテンモルゲン。このとおり俺はめちゃくちゃバイリンガルだが、ここはあえて日本語で言おう。やあやあ皆さんごきげんよう、って誰もいな……」


「……おはよう」


「……いと思ってました、はい」


 グッバイそしてダスビターニャ(また会おう)俺の青春。一番見られたくない相手に見られてしまった。今すぐ穴を掘っておうちに帰りたい。むしろ墓穴を家にしたい。


 それはいつも通りで、でもいつもとは逆で。一瞬なにが起こっているのか理解が追い付かなくて。


 とりあえず俺のクールで知的なイメージが崩れ去ったのだけは理解できた。もともとそんなイメージはどこにも存在しなかったけれど。


『いきなり修羅場ってやつじゃん。ドンマイ、そしてざまぁ』


 天使様からの哀れみの視線。どうしてだ。どうしてこうなった。あした会おうと言ったのは誰だ。俺は脳内のアルバムを必死でめくっていく。


 確か花咲さんは昼休みが終わる頃に「じゃあ、明日の朝会おうね」と言っていた。今はここでの明日の朝という時間。つまり彼女が指定していたのは現在。


 ……頭がこんがらがってきた。


 もうどうにでもなれ。俺の頭脳に致命的がバグが生じ、俺の体はとんでもない行動にでる。主に声帯と肺が。


「ボンジュール・マドモアゼル?」


「えっと……」


 なに言ってんのこいつ、という視線が前後から浴びせられる。俺のメンタルは阿鼻叫喚の地獄絵図。フランス語よりもイタリア語の方が良かったのだろうか、なんかナンパしてるっぽいイメージあるよな。知らんけど。


「その……話があったんだけど、お昼でいいかな」


 花咲さんはスッと俺から目をそらし、教壇の辺りにある黒板のようなものに目を向ける。なにか俺に言いづらいことでもあるのだろうか。


「今……で大丈夫だけど?」


 さっきの挨拶でシリアスな空気をぶち壊しにしてしまったのは間違いなく俺だ。せっかくの彼女の決意を水の泡にしそうになったのは俺だ。


 いや、なにが起こるのかの予想は全くつかないのだが。


「……その、ちょっと聞きたいことがあって」


 彼女の視線の先にあるのは黒板もどきだったり、教室に規則的に置かれた椅子だったり、教壇に貼られた座席表だったり。


 当然のことかもしれないが、俺と目を合わせようとはしてくれない。俺自身もそっちの方が楽だから一向に構わないのだけれど。


「俺に答えられることならなんでも」


 聞きづらさのハードルを下げる魔法の言葉なんて俺は知らない。天使様に頼るなんて言語道断だ。奴は大事な時も下ネタしか言わなそうだから。


「う……うん。その……」


 挙動不審としか思えないほどに動いているのは、彼女の眼球と左右の手の指。


 根っこの部分は俺と同じように陰キャでコミュ障なのだから、こうなってしまう理由もなんとなくわかる。なぜかはわからないが、何を言えばいいのかわからなくなってしまうのだ。


「言いにくいことなら無理に言う必要は無いと思う……けど」


「今、というか今日中に言わなきゃ駄目なの。後回しにしたらずっともやもやしたままになっちゃうから」


「そっか」


「うん……その、昨日の放課後どこかに行ったりした?」


 なにがなんだかよくわからないけれど、とりあえず俺の青春が終わった。このタイミングで言ったということは、十中八九昨日のストーキングがバレたのだろう。


「イッテナイデスネー」


 棒読みの次元を超えた棒読み。ここまでくると、肯定とほとんど変わらない。


「……秋葉原」


 行った。間違いなく昨日天使に嵌められて行かされた。


「アニメとかゲームとかの聖地だな、うん。で、そこがどうかしたのか?」


「……同人誌」


 弁解のしようがない。世の中の大人に(なら)ってアレをやってしまおう。必殺・論点ずらし。


「自分の好きを形に出来るってスゴいよな。で、それがどうした?」


「……美少女フィギュア」


 言い逃れすらも許してくれないのか、花咲さんは。決定的過ぎる。俺が真っ黒というのはもう覆らないらしい。


 神様仏様、あと後ろにいる天使様。出来ることなら俺を一日前に戻し……


「幻滅した……よね? 私の趣味がこういう系って知って。ドン引きだよね? ああいうのでニヤニヤしちゃう人って」

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