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18 能動的中二病の俺は追跡調査を開始する。

 というわけで追跡調査は始まったのだが。


『なんでいつもの駅で降りてんのさ。馬鹿なの、ねぇ馬鹿なの』


「いや、今から帰るし」


『おいこらぁっ!』


 俺の気持ちや信念といったものが、良くも悪くも曲がることはなく。いつものように非リア非リアと連呼している電車に乗り換えるのであった。


 追跡調査はこれにて終了。お疲れ様ってことで。


 足元に重いリュックサックを置いて、スマートフォンをポケットから取り出す。そういえばまだソシャゲのログインボーナスを貰っていないことに気づく。


 そろそろ連続ボーナスが貰えるから、ここで忘れると今までの努力がパーになってしまうのだ。これを努力と言うのかどうかは知らんけど。


『ふふふ……お前はまだ気付いていないと思うけどな、花咲ちゃんも同じ電車に乗ってるんだぜ?』


「え?」


 天使様の言葉。


 彼女のことだから嘘ではないと思う。思うのだが、ちょっと信じられない。こんな時間にこの路線に乗る意味も意図すらもわからない。


 わからないからこそ俺は日常の象徴であるソシャゲを開いて、ログインボーナスを貰いに行くのだ。このめちゃくちゃな現実から逃げるために。


『マジだよ、こんなとこで嘘つく必要も無いし。疑ってるなら今から確認しに行く?』


「いや、いい。俺はそのまま帰るから」


 明日の朝早くいけばいいだけのお話。わざわざそれをする必要性を感じない。だから俺は地獄の周回クエストに繰り出していく。あっ、攻撃バフかけ忘れた。三ターン周回が……。


『えーっ、ここまで来たら気にならん? 気になるよねっ! 気になりますよっ!』


「気にならんし、俺は忙しいんだ。ほっといてくれ」


 変数のせいですれすれダメージが足りなかったか。数百のHPを残した敵が攻撃してくる。アカン、計算が狂った。三ターン持続バフが次のターンから入るから……。


『むぅ、ゲームばっかりじゃなくてあたしの方も見てよ……』


 ボスは一応倒せるという計算になる。だがこれ以上ミスすることは出来ない。スキルを使うタイミングと順番、これが肝心だ。四ターン目に、決めるっ!!


『天宮快斗っ!』


「はぁ」


 俺は平穏にゲームの中の世界を救済したいだけなのに、なんでこいつは意味もなく俺の娯楽を邪魔するのだろう。


『なんであたしを無視するのさ!』


「無視()してないし。おっ、レアドロップ出たじゃん! ラッキー」


『もう怒ったからな。激おこだからなっ! 周りの人間にダークでスペシャルなオーラ振り撒いて堕落させるからなっ!』


 天使様の周りの空間に火花が散る。


「あっ、それはちょっと困るかもしれん」


 多分他の人には全く見えていない。俺の幻覚だと思いたいのだが、そういうわけにもいかないらしい。さっきから座面が焦げているような臭いが鼻を刺してくるのだ。


 それに彼女の天使としての能力を考えたら結構危険かもしれない。サリエルという名前が本当だとしたら、全ての中二病が大好きなアレを使う気がするし。


『だろっ! ならあたしのお願いをひとつ聞くんだな』


「……俺に、俺に出来ることなら」


 大災害は御免だ。それに事故も。俺だって死にたくはないのだから。……いや、超脇役キャラの俺が寿命以外で死ぬことはないか。


『じゃあ、いつも降りてる駅のいくつか先の駅で降りてくれる? ちょっと見たいものがあるからね』


 そのくらいはお安い御用だ。世界を滅ぼされるよりはずっといい。数駅分の運賃ならICカードに入っていたはず。無くても今日の昼ごはんで浮いた分を入れればいいだけ。


「わかった。着いたら知らせてくれ」


 スマートフォンを見ながら唇だけを動かす。天使様の怒りはどうやら静まったらしい。俺は画面の向こう側にある広大な電子の海へと飛び込んでいく。


 地下鉄は何度かカーブを繰り返し、乗客を決まった時間に決まった場所へ運んでいく。たくさんの人が降りて、たくさんの人が乗る。その繰り返し。


『着いたよん!』


「ここで降りるんだな?」


『もちろん。ちゃんと前見て歩けよなっ!』


 前。


 さらりと揺れる黒髪、見慣れた制服。


「えっ……?」


 人の流れに飲み込まれていく女性、さっきも見たその姿。……嵌められた。


『ふっふっふー、これでお前も立派なストーカーってわけだ』


 天使の発言からも、彼女が花咲さん本人ということがわかる。


「謀ったな……?」



 ****



 というわけで回想終了。色々あって俺はストーキングの片棒を担がされているのであった。他の人に天使様が見えていないから、ストーカーは俺だけなのだが。


『じゃあ、行こっか』


 某大型書店の目の前にて。


「行かん。俺には敷居が高すぎるし」


『むむっ、そんなに高さがあるようには見えないけどな?』


 単純に精神面の問題なのだが、ここでは言えそうにない。というか色々と見えてしまいそうだから、しゃがんだ状態で段差を測ろうとするのは止めていただきたい。


「違う、そうじゃない」


『んっ? なら階段を降りるのが怖いのかい? 高所恐怖症とかじゃないっしょ?』


 頭の中にあるのは恐怖以外の感情。それは新天地への期待かもしれないし、彼女の見てはいけない側面に触れたいという卑しい心かもしれない。


 どっちにしろ俺の自制心とかその他色々を働かせておかなければ。


『そっかそっか。なら、この歩道でずっと眺めてよっか。出口はここだけなんだし、バレないようにしてれば大丈夫さ』

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