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17 能動的中二病の俺は非リアと連呼される。

『やっと終わったな!』


 リア充は意味もなく群れて、週末にお隣の県にある夢の国へ行こうなどといった計画を立てているらしい。


 お隣の県というか、ぶっちゃけ俺の家のそこそこ近くなのだが。いつも乗っている電車が遅延や運休したときに目の前を通っているのだが。


 デンマークの某有名作家の名前が付けられたテーマパークの方ではなく、ちゃんと世界的に有名なキャラクターがいる方。そんなところに大勢で行くとか、俺には絶対に出来ない。


 だって陰キャだし。


 というか彼らの元気はどこから出ているのだろうか。それを考えるのすら面倒になってきた。


「今日もほとんど何もしてないのに疲れた……」


『何もしてないだってぇ? お昼に花咲ちゃんとお弁当食べてたじゃんか!』


「あれ……今日だよな? 夢じゃ無かったんだよな?」


 ああ、思い出した。質素な手作り弁当を食べている花咲さんの隣で、天使様にパシらせた菓子パンを貪る俺。よくわからない所で話が合って、盛り上がったんだっけ。


 また明日と言われて落ち込んでいる所に、天使様があんなことを言い放った所は完璧に覚えていたのだが。


『今からストーカーするんだろ、むっつり系主人公くん?』


「そっちのイメージが先行し過ぎて忘れてた。あと、ストーカーはしないから。むっつりでもないし」


 何度薦められたって答えは変わらない。基本的に俺はヘタレ野郎なのだ。犯罪に手を染める以前の問題として、ただの根性なしなだけ。そしてむっつりスケベではない。


『早く行かないと花咲ちゃん帰っちゃうよん』


 ぐいぐいと俺の背中を押してくれる天使様。それが八十パーセントの善意と残り数十パーセントのR指定になる感情なのは、今までの行動からなんとなくわかっている。


「……だから?」


 だからのらりくらりと追及をかわして。


『ちゃんと行きな』


「だが断る」


 時にはきっぱりと断って。


『なら帰れ』


「なら帰る」


 いつもならあり得ないような速度で結論を出して。さくっと教科書をリュックサックに放り込んで、そこそこ重いそれを肩に掛ける。


 通学路から聞こえてくるのは青春の甘酸っぱい声ではなく、老朽化したガス管工事の音。コンクリートを砕く爆音だけが鼓膜を震わす。


 あとは、とんでもない圧力で道路を固める機械の振動か。頭蓋骨を揺さぶられ、ちょっとだけ視界がふらつく。痛い。思考回路が超高速で回転している。


『そんなところで頭なんて押さえてなにしてんのさ。……もしかしてアレなのか? 三半規管がブラック企業なのか?』


「それの雇い主、完全に俺じゃん。俺が三半規管をコキ使ってるみたいに聞こえるじゃん」


 しっかりと自爆しながら歩いていく帰り道。自分で撒いた地雷を踏む気分は一体どのようなものなのだろうという疑問が、今やっと解決した気分だ。


『はぁ……。お前なぁ、そんなこと考える前にやることがあるだろうが。もっと重要なことがさぁ』


「宿題か?」


『はぁ? なに言ってんのさ。宿題くらいならあたしが代わりにやるし。でさ、花咲ちゃん今信号待ちしてるみたいだから、突撃しちゃおっか!』


「……アホなのか?」


 アホである。百億パーセントアホである。百人に聞いたら五十人が肯定するくらいにはアレな考えである。こんなことをして許されるのは、イケメンか小学生の男子だけではないだろうか。


『アホとか言うなしっ、ばかっ!』


「どうせ通学路で出くわして以下略系の甘々なシチュエーションはイケメンに限りますよーだ」


『……うん。そうだったね。お前が平凡フェイスなの忘れてた』


「そこはちゃんとフォロー入れてくれよ……。普通に俺のメンタル木っ端微塵なんだけど」


『そんなん知ったこっちゃないし』


 ラブコメの王道展開が始まるかもしれないと少しでも期待してしまった俺が馬鹿だった。この堕天使にそれを望んでしまう時点で俺は間違っていたんだ。


「ぐはっ」


『吐血する演技とかいらんから』


 それから何事もなく電車に乗り込む。もちろんストーカーなんかせずに家に帰るために。ただ、そこでちょっとしたアクシデントがあった。たったそれだけ。


 電車に乗り込んでから、彼女の姿が別の車両にあることを見つけてしまっただけ。


「おい天使」


『なんだ人間、用がないなら呼ぶなし』


 いまだにちょっと怒っている天使様。ツンデレからデレを引いてから濃縮したような態度をとってくる。


「花咲さんの家はこっちじゃないだろ?」


 ただ、それも一時的なものでしかない。恋愛系の、それも俺からのそういう話に彼女が食いつかないはずがないのだ。


『それなー。……ほにょっ、お前が帰り道で他の人の話をするなんてなぁ? 初めてのことじゃないかなぁ? むむっ、これはちょっと興味深いですなぁ、ワトソン君?』


 それも、俺が一歩進もうとする姿には。この天使様、流石にちょろすぎないだろうか。あと、誰がワトソンじゃ。お前の助手になった覚えはないぞ。


 まぁ、これにつっこんだら負けだし。ここは綺麗にスルーというわけで。


「あいつ、どこに行くつもりなんだ?」


『ふむふむ、そうだなぁ。バレないようについていくとするか』


「結局ストーカーじゃんか」


『ちゃうちゃう。これはミステリーなのさ。いわゆる追跡調査ってわけ。わかったかね、ワトソン君?』


「だから俺はワトソンじゃねぇっ!!」

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