表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/47

15 壊滅的凡人の俺はストーキングを決意する。

「うん、すごくわかるっ!」


「だよな!」


 そしてその数十分後には意気投合していた。意味のない会話の数々、その中に見えかくれする彼女の本音。


「……うそっ、もうこんな時間」


「明日もここで話せばいいだけの話だろ?」


 俺達は小さな約束をした。毎日ここでランチを共にしながらおしゃべりするって感じの、すごく曖昧な約束。


「その、最後に……LIME教えて貰ってもいい?」


『振って登録するやつはオススメしないよー。なんか上手く反応しないこと多いから。ぶっちゃけ公式アカしか引っ掛からん。あと、ID検索は未成年には出来ないからー。無難にQRコード出すということでオーケー?』


「いいけど……QRコード出すからちょっと待ってて」


 天使様にやり方を教えてもらいながら、LIMEを交換しちゃったりして。公式アカウント以外では初めての友達かもしれない。


「で、出来たっ!」


 ただし、こっちにはなにも表示されていないが。


『そのままだと片想い状態だから、何か送って貰えよな。そうしてくれないとこっちから連絡出来んし』


 片思いっ!? じゃなくて、こっちからなにも出来ないのはちょっと困る。


「その、記念に何か送ってみたら……どうだ?」


「うん、スタンプでいい?」


「あ、あぁ」


 まさか、一発オーケーを貰えるとは思っていなかった。


 ……ピロリン。


 スマホの着信音が鳴る。多分俺のLIMEから。


「この、『わか』って人を登録すればいいんだな?」


「そう、だけど。あんまりアカウント名を大きな声で言わないで欲しいな」


 届いたのは白いアカデミックキャップを被った、銀髪のキャラクターのスタンプ。背景には水色の星が散らされていて、「よろしくですよ!」というオレンジ色の文字が入っている。


 俺は何を送ればいいのだろう。教えて、天使様。


『大きなイチ●ツ?』


 年末に何か見たのか、それとも年始にノーカット版を見たのか。


 どちらにしてもアウトだ。花咲さんに嫌われるどころか、社会的にエンディングを迎えてしまう。死ぬよりも辛いという伝説のエンドを。


『ほんとごめんってば。冗談に決まってるじゃん。はぁ。面白くはないけどさ、適当にクマかネコのスタンプでいいんじゃないの?


「あはは、そうだよな。じゃあ、こっちからもスタンプ送るから」


 この堕天使というか淫魔(サキュバス)、あとでしばきたい。


 そんな雑念だらけの指でスタンプを選ぶ。


 買った当時と同じ、デフォルトのスタンプしか入っていない状態。一番最初に目についたのは、I love youという文字だけのスタンプ。


『I love you.俺はお前を愛してるぜ、ハニー。ひゅーひゅー!』


 そんなものヘタレな俺に選べるはずがない。無難な、ネコが両方の手を挙げているだけのスタンプを二度押しして送信する。


『ちぇーっ。面白くないの。抱き合ってる奴とかいっぱいあったじゃん。あれ絶対画面の外でにゃんにゃんしてるって』


「それじゃ、また明日」


 そう言って弁当箱をまとめていく花咲さん。本当は明日よりも早くお話したい。そう思っていると、グニグニと頬っぺたをつねられる。もちろんその辺の超常現象に。


『放課後誘っちゃいなよ、you!』


 そうか。待ちたくないなら、自分から踏み出すしかない。そんな天使の後押しで、なんとか自分の言葉を紡ぎだす。


「その、今日の帰りもいい?」


「えっと……ごめん、寄りたい所があるから一緒に帰るのは無理かも。じゃあ、また明日の朝会おうね」


 新刊がどうとか聞こえた気がするのは気のせい……だと思いたい。うん。なんか色々聞き捨てならないワードが聞こえたような気がしたのもきっと気のせいだろう。


 なんか今日だけで色々なことがありすぎて疲れてしまったのだろう。


 隣で昼御飯を食べられるようになった。普通の人だったらなんてことないやつだけど、俺にとってはすごく大切なこと。


 でもまだ教室で話す勇気など俺にはないから。教室へと戻っていく花咲さんの背中を見ることしか、今の俺には出来ないのだ。


 どこまでいっても俺は、ただの非リアで陰キャなのだから。


『……はぁ。放課後にストーカーでもするのかい?』


「当然……しないさ。だってストーカーは犯罪だろ?」


 いくら彼女と一緒にいたいからって、ストーキングは到底許される行為ではない。物理的には近づけても、精神的にかなりの距離が開いてしまうことになるから。


『遠くからの見守りくらいなら許されるんじゃね、知らんけど。偶然同じ場所に向かっちゃったとかも多分セーフだし。だってまだまだ一緒に居たいんだろ?』


「そうだけどさ、迷惑防止条例とかに引っ掛かってアウト判定になるんじゃないのか?」


『いいか? アオハルに犯罪はつきものなのさ』


「全く良くねぇよ」


 思わずツッコミを入れてしまった。そんな暴論が許されるのなら、今頃先生の顔は真っ青である。始末書とかその辺の処理に追われて。


『要は子どもの内に善悪の判断基準を自分の中に作っておけって話さ。責任を誰かが取ってくれるうちにな』


「だからってストーキングが許されるわけじゃないだろうが」


『人畜無害なお前のことだ。実害が発生する状況にはならないだろう? 大丈夫さ。あたしが全力でサポートしてやるから。お前を立派なストーカーに育て上げてやる』


「そこはかとない犯罪臭がするんだよなぁ。……これ、俺はどうすればいいんだ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ