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13 壊滅的凡人の俺は手作り弁当に夢を見る。

 それから俺は毎日一番最初に学校に来て。


「おはよう、花咲さん」


「……ん。おはよう」


 特に何も進展のない時間が過ぎていった。定期テストは相変わらず全科目平均点プラスマイナス二点で。


 もどかしさを感じなかったと言ったら嘘になる。当然テストの点数ではなく、叶わない片思いの方。


「おはよう。その、今日は一緒に昼飯食べないか?」


「別に、いい。気にしないで。迷惑かけるだけになるから……」


 何回も拒絶されて、心が折れそうになった。でも、ここで終わることなんて出来っこない。何より俺の天使様が許してくれない。


『あーあ。今日も駄目そうだな。そういえばお前、誕生日だっけ。ハッピーバースデー』


「別に。嬉しくもなんともないけど。でも……祝ってくれてありがとな」


『感謝されるのは嫌いじゃないし。というか、感謝されるのを嫌がる人はほとんどいないのさ。それは覚えておくといいよ』


 これは、何かのヒントのつもりなのだろうか。俺が一歩も進めないのを見かねてのことなのか。


「……ごめん、俺が不甲斐なくて」


『いや、あたしのサポート不足だ。……それにね、あたしは「ごめん」よりも「ありがとう」って言葉の方が好きなのさ。お前の口からそんな言葉、聞きたくなかったなぁ』


 いつも後ろにいるはずの天使様がゆっくりと歩いて目の前にくる。俺は条件反射で地面と目を合わせてしまう。目を見て話せないやつも、いつかはどうにかしないといけないのに。


「それは……」


『お前はあの時と比べて格段に成長してるよ。実感は出来てないかもしれないけどさ』


 俺は何も変わっちゃいない。花咲さんにちょっかいかけている奴らに、文句の一つも言えていないのだし。というか青春らしいことは何一つしていないし。


『はぁ。朝から辛気臭いのはやめっ! もうすぐ授業始まるし』


「起立、気をつけ、礼」


 慌てて席に座って、先生の顔と頭頂部を見て、教科書を用意する。何も変わりっこない、日常。なんの変哲もない世界。


 そうやって何も出来ないうちに一日が終わって、また次の日がやってくる。




「おはよう、花咲さん」


「……おはよう」


 今日も他愛のない挨拶をして、素っ気ない返事が返ってくる。本当は俺に絡まれるのが嫌という可能性。それが脳内に広がっていく。


「いつも俺のこんな挨拶(自己満足)に付き合わせちゃってごめん」


 昨日天使様にごめんよりもありがとうの方が良いと聞いたばかりなのに。何をやっているんだろうか、俺は。


「ううん、嫌じゃないから」


「えっと……今、なんて?」


 聞き間違いじゃないのであれば、彼女は俺の挨拶を嫌じゃないと言っていた。俺の自己満足にしかなっていないこれを。


「その……いつもありがとうってこと。このくらい、察してほしい」


「あっ、えっ、あっ……その……」


 ごめんよりもありがとうの方が嬉しい。確かにその通りだ。ごめんなさいは誰も幸せに出来ないけど、ありがとうは言った人も言われた人も幸せにする言葉なんだ。


 というかこの雰囲気、今日ならいける……か?


「その……今日俺と昼ごはん一緒に食べないか?」


『ひゅーひゅー。そのまま押しきっちゃえ! 壁ドン! 顎クイ! バックハグ!』


 それを教えてくれた当の本人がこんな調子だから、感謝を伝えようにも伝えられないのだけれど。


「その、誰かに見られたら迷惑かかっちゃうから……」


 こんなとき、王道ラブコメなら屋上に誘うところだ。だが、とても残念なことに屋上は閉鎖されている。とりあえず助けてくれ、天使様。


『あっ、お助けが必要なようですな。にやにや。ご所望の品は床ドンしてもバレない所っしょ。なら、屋上は駄目でも屋上に向かう階段とかどうだい? わくわく』


「その……屋上に向かう方の階段。そこに集合でいいか?」


「わかった。天文部の人も、部活の時以外にはあの辺には来ないはずだから」


「じゃあ、それで決定だな」


「うん、そうだね」


 そこからの四時間あった授業。一日千秋の思いというように、千日の六分の一、つまり約百六十日くらいに感じられた。


 物理の公式は頭に入らないし、古典の文法もさっぱりわからない。脳味噌が真っ白になっちゃったみたいだ。


『ひゅーひゅー、ついにゴールインしちゃう?』


(ゴールインってなんだよ。俺にそんな勇気なんて無いし)


 茶化してくる天使様には口パクで適当に返事をして。


『あることは証明出来ても無いことは証明出来ないって、さっき物理の先生か誰かが言ってたよ?』


 そのまま正論をぶつけられて撃沈する。正論というよりは、屁理屈に近い使い方だったけれど。


(あの物理教師、こんなタイミングにそんなこと教えやがって……)


『悪態つきながらニコニコしてるってのは、結構……アレだよ。客観的に見るとさ。まっ、お前のことはあたししか見てないから問題ないんだけどね』


 それはそれでちょっと悲しいものがある。せめて先生くらいは俺のことを見ていてくれたっていいのに。


 あっ、これは問題で当てられるフラグになりかねないのか。なら早めに折っておかなければ。オッケー天使様。フラグの折り方を教えてくれ。


『人が心を読んでいる前提で話をするなし。……人じゃなくて天使だけどさ。で、あたしは知らないよー。でも、今日は当てられないんじゃないかな? 二流フラグ建築士さん?』


 つまりフラグは立っていなかったと。そう言いたいのだろうか、この堕天使様は。


 ――――キーンコーンカーンコーン


 ちょうどチャイムがなり、白いチョークを動かす先生の手が止まる。


『ふっ。どやぁ。フラグなんてどこにも立ってなかったのさ』


「セーフってことか……」


 誰にも気付かれないような声で、ポロリと本音を漏らす。隣と前が当たっていたからいつ当たるかヒヤヒヤだった。


 ドヤ顔をしている天使様にはしっかりと気づかれていそうだけど。

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