004 煙の香りは好きですか?
窓の外、遠くに、白い煙が上がっているのが見える。
おそらく、畑で、刈った草を燃やしているのだろう。
涼は、草や枯れ木を燃やした煙の香りが、好きだった。
白煙、あるいは薄い紫煙。
大量に吸えば気持ち悪くなるが、ほんの少し香る程度……。
なんともいえない郷愁を誘う。
窓の外には、そんな平和な光景が広がっている。
振り返って部屋の反対側を見る。
うんうんうなりながら書類をめくり、サインを繰り返す一人の剣士が。
そこには、平和とは程遠い光景が広がっていた。
「平和は、平和ではない人たちによって支えられている」
涼は、そう呟いた。
涼は、普段はなんだかんだ言いつつも、アベルの真面目さには敬意を払っている。
ただ、時々、甘い物が食べたくなるだけなのだ。
「アベル、あまりこんを詰めすぎるのは良くないですよ。休憩してはどうですか?」
「あ? ああ……」
「休憩と言えば、ケーキとコーヒーですよね。さあ、侍従さんを呼んで注文しましょう」
「リョウ……自分が、ケーキを食べたくなっただけじゃないか?」
「何を言っているのですか。すべては、アベルのためを思ってですよ。決まっているじゃないですか」
涼は、しっかりとアベルの目を見つめて言い切る。
ここで目を逸らしてはいけない。
視線の動き、表情筋の強張り具合……そういった情報から、嘘を言っているのか、何を頭の中で想像しているのかなどが、分かってしまうことがあるのだ!
「うん、目はしっかりと俺を見ているが、手がそわそわと動き過ぎだ」
「くっ……」
涼は恥じた。
己の欲望を見抜かれたことを。
「まあ、いいか。少し休むか」
アベルはそう言うとデスクの上の鈴を鳴らして、ケーキとコーヒーを注文した。
ちゃんと二人分。
「アベル、二人分注文しましたけど、片方は僕の分ですよね? アベルが二人分じゃないですよね? ケーキはそれなりにカロリー高いから、でぶっあべるになっちゃいますよ?」
「なんだよ、でぶっあべるって。片方がリョウのだよ」
「わ~い」
アベルの言葉に、涼は喜んだ。
アベルは真面目で、いい奴なのだった。
なんか、すごく短くなってしまったので、明日も21時に「004.5」とかで、投稿します。
読んでもらえると嬉しいです!