016 質問とは、質問者の知性が、世界に晒される行為です
「知っていますか、アベル。質問というのは、質問している人の知性が問われているのです。あるいは、質問している人の知性が、世界に晒されているのです」
「お、おぅ?」
「質問された人の答えが、どうこうではないのです。その事を、ゆめゆめ忘れないことです」
「あ、うん……?」
とても知性のありそうなことを、涼は言った。
とても知性を感じさせるっぽいことを、涼は言った。
とても知性的なことであるが……ケーキを食べながら、フォーク片手に力説しても、説得力はなさそうだ……。
「リョウ……なんでケーキを食べながらそんなことを言うんだ?」
「ほら! それですよ、それ! 質問は、質問している人の知性が晒されているのです。後世の歴史家が、アベルの残した質問を見て、『ダメな王様だ』と評価するような質問はしてはならないのです!」
「……あ、はい」
そう言いながら、涼は自分のケーキを美味しそうに食べている。
もちろん、アベルのケーキも準備されているが……手元にはない。
遠く離れた応接セットのテーブルの上にある。
そしてそこは、アベルの支配下ではなく、涼の支配下……。
「リョウ、いちおう言っておく」
「なんですか?」
「……言わなくても分かるはずだ」
アベルはそう言うと、自分のケーキを、ギンと睨みつける。
「き、きちんと言わないと分からないです……」
「俺のケーキには手を出すな」
「なぜ……」
「質問が稚拙だぞ?」
「くっ……。まさか、こんな短時間で切り返されるようになるとは……。アベル、恐るべし」
涼は、アベルの事を高く評価している。
涼はケーキを食べ終えた後、口を開いた。
「アベル、僕に問いたいことがあるでしょう? さあ、何でも問うがいいです!」
「いや……別に何もないが?」
「あるはずです! ないんですか? 本当にないんですか?」
「ああ……ないと思うぞ」
さすがに、アベルも不安になっていた。
ここまで、涼がしつこく言うということは、何かあるに違いないが……思い当たる節はない。
「そうですか……。アベルが食べた、いや、食べようとしたお昼ご飯に関することです」
「昼? 今日の昼はカァリーで……最初、ハンバーグを頼んだら、もうないと言われたな」
「うんうん。何か、質問することがあるでしょう?」
「いや、どうせ、リョウが先に食べつくしたんだろうと思ったからな」
「なっ……」
アベルの答えに、涼は絶句した。
「合ってるだろ? 質問する必要すらないな」
「そ、そうとは限らないと思いますよ……」
「リョウ、無駄な抵抗だ。質問して確認する必要すらない」
「むぐぐ……。次は、カレーとハンバーグ、両方を食べつくしてやるです」
「いや、それはやめろ……」
質問というのは、質問している人の知性が問われている。
だが……。
世の中には、質問する必要すらないことが、星の数ほどたくさんあるのも、また事実である。