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011 奴隷制

「なあ、リョウ」

「なんですか? 何度言っても、僕はアベルの奴隷にはなりませんよ!」

「いや、俺、そんなこと要求してないだろ……」

「その目が言ってます! だから、機先を制して拒否したのです!」

「なんでだよ……」

「ふんっ。僕が機先を制して言ったから、何も言えなくなったでしょ。僕は自らの言葉で、自らの身を守ったのです」

なぜか威張る涼。


もちろん、アベルは涼を奴隷にしようなどとは、一ミリも思っていない。

そもそも、王国に、奴隷制度は存在しない。



アベルは、ふと涼の手元に目を向けた。

涼が読んでいる本は、いつも通り錬金術関連の本なわけだが……、


「『錬金術と奴隷制 ~その黒き歴史~』……? えっと……読んでた本に影響されたか?」


読んでいた本や、見ていた映画に影響される人は、いつの時代、どんな世界にもいるものである。


「アベルが何を言っているのか、意味が分かりませんね。僕は、ただ、こう思うのです」


涼はそこで、一度間を取ると、立ち上がって言葉を紡ぎ始めた。



「それは、名誉ある戦死者たちが、最後まで全力を尽くして身命を捧げた大いなる大義に対して、彼らの後を受け継ぎ、われわれが一層の献身を決意し、これらの戦死者の死を決して無駄にしないために、この国に神の下で自由の新しい誕生を迎えさせるために……そして、人民の人民による人民のための政治を地上から決して絶滅させないために、我々はここに固く決意するのです!」



涼の演説を聞く者は誰もいなかった。

リンカーンが、ゲティスバーグで演説を行った時なみに、きちんと聞いてもらえなかった……。


涼もリンカーンも不幸だ。


そもそも、この部屋には、涼以外にいたのはアベルだけ。

そのアベルも、いつの間にか、書類へのサイン作業に戻っていた。



「ん? 終わったか?」

アベルは、涼の演説の終了を確認すると、そう声をかけた。


涼は、そんなアベルに絶望した。

涼は、こんな世界に絶望した。

涼は、あんな扉を開けて入ってくる、ケーキとコーヒーに……。



歓喜した!



まさに、音速でソファーに座り、自分の前に、ケーキとコーヒーが並べられるのを待つ。


そして並べられるや否や、

「いただきます」


そこには、美味しそうにケーキを食べる水属性の魔法使いが。



涼はアベルの奴隷にはならない。

なぜなら、すでに別の物の奴隷になっているからだ。


そう、美味しい物の奴隷に。

人は誰しも、美味しい物の奴隷なのである。


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