008 念ずれば通……じないこともある
「なあ、リョウ」
「なんですか、アベル」
「部屋の隅で、現れたり消えたりしている、あの氷の造形物は……リョウがやってるんだよな?」
「よくわかりましたね。時々やっている、魔法の訓練です」
ここは、いつものアベルの執務室。
いつも通り、アベルはデスクで書類をめくりながらサインをしている。
いつも通り、涼はソファーにぬべ~っと寝転んで、錬金術の本を読んでいる。
だが、部屋の隅では、氷で作られた東京タワーが、できあがっては消え、消えてはできあがりを繰り返していた。
それも、一隅だけではなく、多いときは四隅同時に……。
「魔法の頂ははるか遠いのです。常に練習あるのみです」
涼は胸を張ってそう言った。
「お、おう。それは偉いなと思う」
「いやあ、それほどでも……」
アベルは称賛し、涼は照れた。
「ただ……その、塔みたいなやつはわかるんだが……なぜ、それに交じって、巨大なケーキが作られているんだ?」
「え?」
「それも、イチゴのショートケーキ……だよな?」
「よく気づきましたね!」
「うん……。塔は部屋の隅なのに、人間大の巨大ケーキは、俺の机の真ん前で作られているからな。嫌でも気づくな」
アベルが言う通り、アベルの机の前には、巨大な氷製イチゴのショートケーキが、何度も何度も、作られては消えを繰り返していた。
「魔法の練習なので、気にしないでください」
「そうか、気にしなくていいのか」
「もちろん! アベルが、ケーキを食べたいな~疲れてくると甘い物が欲しくなるんだよな~というのなら、僕も一緒にケーキを食べるのに、やぶさかではありません」
涼はそう言うと、今まで以上のペースで、氷製イチゴのショートケーキを生成してみせる。
「ああ……今日のリョウが、イチゴのショートケーキの気分なのはわかったから……」
三分後、目論見通り、涼はイチゴのショートケーキを食べることに成功した。
思っているだけでは相手に伝わらない。
きちんと言葉にしなければ。
言葉にできないのであれば、形で伝えればいい。
念ずるだけでは、道は通じないのだ……。
来週12月25日(金)正午に、本編「水属性の魔法使い」の方にも、SSを投稿します。
(もちろん、21時には、こちらにも投稿しますが)
そのSSの、あとがきには、とても重要なことが「二つ」書いてあります。
一つは、まあ皆さんも想像されているであろう書籍……。
もう一つは、ここを読んでいる皆さん全員が、知ると嬉しい情報……のはずです。
読んでいただけると、嬉しいです。