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前世の記憶がショボすぎました。  作者: 福智 菜絵
第一章 悪役令嬢は逃げ切りたい
3/57

とりあえず形から入ります。


「ルネ。わたくし髪を染めたいのだけれど」

「……なぜでしょう?」


 入学式当日倒れたアタシは、なにかと理由をつけてその翌日も休学していた。それも当然のこと。今まで通りでは死亡フラグ一直線だ。取り急ぎ、周りに埋没できるように髪を染めることにしたのだ。


「……わたくし、入学式という大事な式典の最中に倒れてしまったでしょう? とても恥ずかしいのです」

「恥ずかしいから、髪の毛を染めたいと?」


 訝し気に眉を寄せたルネが質問を重ねてくる。主人が髪を染めたいと言っているのだから、さっさと染料を持って来てくれればいいのに。


「わたくし、ただでさえ目立つでしょう? 金髪に碧眼で、美しい容姿ですから。そんな目立っていたわたくしが急に倒れてしまったのだもの」

「髪を染めることで視線から逃れられると?」

「えぇ。何もしないよりはマシでしょう?」

「マシ、とは?」

「……何もしないよりは茶髪に染めてしまった方が、目立たないのではないかと思うの」


 マシって言葉はここにはないのか。そういえば聞いたことはなかったけど、相手の言動から細やかに意図を察するのが側仕えの仕事なのだから、言葉の意味が分からなくても察してほしい。

 

 ……というか、さっさと染料持ってこいやぁー。


「茶髪に? ……そのゴージャスな金髪に自己陶酔していたお嬢様が? きれいで美しくこの華やかな顔立ちによく似合うと自慢にしていたお嬢様が? 金髪以外を平民のくすんだ髪色と蔑んでいたお嬢様が?」

「……えぇ。昨日見た限りでは茶髪の人が多いような気がしました。わたくしも茶髪にして紛れようと思うのです」

「紛れる? 目立つことが大好きなお嬢様が? 何をさておいてもご自身の容姿と優秀さをひけらかしたいお嬢様が?」


 さっきから毒づかれている気がするのはアタシの被害妄想だろうか。なぜそんなにアタシを貶めるような言葉ばかり言うのか。まるでアタシが出たがりのナルシストみたいではないか。


「えぇ。ここは学校……学院ですもの。我が家とは違います。同じようにしていてはいけません。それに、わたくしは公爵家のリュシエンヌではなく、一人のリュシエンヌとして接してくれる友人が欲しいのです」

「公爵家の家格に釣り合わない下々の者は全て切り捨てると言っていたお嬢様が?」


 心底驚いた顔を取り繕いもせずに目を丸くして、アタシの悪癖を突くルネは本当にアタシの従者なのか。失礼にもほどがある。だけど確かに前のアタシはそういう考えだった。今もその片鱗はあるが、自分のポリシーを貫こうとすれば死亡フラグ一直線かもしれない。感情のままに生きるのは三年後の楽しみにして今は我慢が必要だ。


「そうです。わたくしはあまり記憶していませんけど、学院にはお茶会で何度かお会いしたことのある令嬢や令息もいらっしゃるのでしょう? この見た目ではミシェーレ公爵家のリュシエンヌとすぐに分かってしまいます。本当に仲の良い友人を作りたいのなら、まずはわたくしがミシェーレ公爵家の令嬢と周りに分かってしまうのは良くないと思うの」

「では、お嬢様は身分に関係なく、心と心で通じ合えるようなご友人が欲しいと?」

「えぇ。その通りです。ルネも言っていたでしょう? 身分関係なく他の者と付き合うというのは存外楽しいものだと」


 そう、ルネが入学前に言っていたのだ。公爵以下の者との関りを拒むアタシに、平民との触れ合いは学院生活での限られた時間だけ。身分にとらわれず様々な立場の人との交流を持ってほしいと。ここはその言葉を存分に利用させてもらう。


 本音としては、アタシに気付いた下々の者がすり寄って来て、人に囲まれるようなことになると目立って埋没することができない。それに、家格に反応してすり寄ってくる下々の者や貶めようと画策する輩、魑魅魍魎モンスターに囲まれるのは面倒だ。それが鬱陶しくて、お茶会の招待状が届いても仮病を使って休んでいたくらいだ。


 イメージは教室の隅でひっそりと本を読んでいる大人しい女の子。もしかしたら、メガネも必要かもしれない。


 アタシの言葉にジーンとしたように瞳を潤ませたルネが、そそくさと退室した。きっと自分の想いが通じたと思ったのだろう。そういうわけではないけど、染料を準備してくれさえすればどう思おうがかまわない。


 しばらく待たされたあと、ルネが木のボールみたいな入れ物に染料を入れて戻ってきた。丁寧に髪を梳いて染料を付けてくれる。アタシの光を帯びたブロンドの髪は染料によって茶髪へと変化していった。鏡を見ると、なかなかに埋没できそうな髪型だ。

 

 うん、こんな感じの子いっぱいいた。あとはこの整った顔立ちが分からないようにメガネがあるといい。


「ルネ。メガネはないかしら?」

「メガネ……ですか?」

「えぇ。できるだけ質素な感じにした方が平民とも仲良くなりやすいと思うの」

「ですがお嬢様。メガネは高級品です。貴族でも上流階級の者しか持ち合わせておりませんよ」


 メガネが高級品だったとはびっくりだ。父も屋敷の執事たちもメガネを使っていたから、ありふれたものだと思っていた。


 学院には制服があって紛れるにはちょうどいいが、左胸に家紋を付ける決まりがある。本当はその家紋も取りたかったけど、それは学院の規則に違反すると言うことでルネに止められてしまった。規則違反をすると親が呼び出されるので渋々了承したのだ。



 ルネが退室して一人になったアタシは、ベッドに寝ころび天井を見つめた。明日からの学院生活に頭を悩ませる。


 ゲームの中では、アタシが一方的に王子に一目ぼれして追いかけまわしていた。だから、アタシが近付かないかぎり接触はないと思う。だけど、すれ違えば立場上挨拶くらいはしなくてはいけない。その時は一礼だけして逃げるように秒で去ることにしよう。


 万が一、言葉を交わす必要があれば猫は被らない方がいいと思う。ゲーム内のアタシが猫を被っていたのだから、逆の言動をした方が死亡フラグの回避率は高くなるはず。何も取り繕わず本音で接して、尚且つ速やかに王子の前から姿を消す。つまり、言い逃げ戦法だ。


 相手が王子だから、失礼にならない程度に本音を出さないといけない。それで処刑されてしまっては本末転倒だから。


 それ以外の攻略対象と接触した場合も、前のアタシだとしなかったことをする必要がある。家格が同等なら淑やかに、下位であれば視界にもいれない。それとは逆のことを常に意識する。

 

 うん。これでイケそうな気がする。


 ……というか、前世の記憶がショボすぎてそれ以外の対策をとれないんだよ!



 翌日アタシは、染めたばかりの茶髪で俯きがちに学院内を歩いた。教室の移動中も休み時間も、誰もアタシの所へやってこない。


 埋没作戦は成功だ。次の作戦、国外脱出作戦だ。この学院にいる限り、何がセーフで何がアウトか分からないから、もう国外に出ることにした。といっても、アタシは逃げるように出るつもりはない。今の身分のまま国外に行くのだ。そこで考えたのが、叔父が婿入りしたリンネル国への留学。リンネルはプレタールとも友好関係にあるから、叔父の力を借りることができれば可能だと思う。


 何より、今と同等の扱いが保障される。ただし、留学してみたいと言っただけで留学できるほど世の中甘くはない。しっかりと下調べをして目的を伝えることができないと。


 アタシは図書室で、プレタールとリンネルの特色について調べた。まずは、両国の強みと弱みを可能な限り調べ尽くす。この図書館は、前世のドラマで見たことのある大学の図書館並みの広さがある。蔵書量はハンパじゃない。それなのに検索システムはもちろんない。


 見たい図書を確実に速やかに見つけるには司書に聞くのが一番だけど「だいたい死ぬクソ令嬢」のアタシの敵が司書かもしれない。


 幸いなことに、前世の本屋のように大体の本の分類が示されている。アタシは“異国史”と書かれた本棚の並びに入り背表紙をつぶさに見る。友好国だけあって“リンネル”と書かれた背表紙が多い。いくつか見当をつけて、五冊ほど抱え込み空いている机にドサッと置いた。


 続けて、“歴史”と書かれた本棚に足を運ぶ。自国だけあって歴史の本棚は数が多い。比較的近世のものを選ぶと、また、本を置いた机に戻り席に着いた。とりあえず、ざっくりと斜め読みしていく。留学の言い訳に使えそうな文献があれば一言一句、自分の記憶に落としていった。


 プレタールの特産は農業、自国の身分階級廃止に政務が偏っていて他国との取引は原油に限られている。この国は産油国だ。なるほど。リンネルほどの大きな領土を持つ国が、なんのメリットがあって友好関係を結んでいるかと思えば、プレタールからの資金援助だった。それゆえ、不可侵条約の関係にもあるようだった。


 リンネルは他国との貿易が盛んで、特産品である織物をせっせと他国に輸出していて、真新しいものを軒並み輸入しているようだ。そして輸入したものを改良してまた他国に売る。それゆえ、最先端の技術が揃っている先進国と言われているようだ。国交が盛んなゆえに、物資だけでなく知識も新しいものが入って来る。プレタールとリンネルでは隣国でありながら知識や技術では、プレタールが百年程の遅れをとっている。


 なんと素晴らしい! こんなに分かりやすく弱み強みがはっきりしているなんて! 


 アタシは自室に引きこもると、せっせと隣国の叔父に手紙を書いた。学院の勉学を通して他国にも興味を持ち、ゆくゆくは国の繁栄のため、原油だけでなく、プレタールの特産である農作物を他国に輸出したい。そのために、一刻も早くリンネルに留学して貿易についての勉学に励みたい。という内容である。


 この手紙を読んだ叔父は、嬉々としてリンネルにアタシを呼んでくれるに違いない。


 叔父と初めて会ったのは七歳のときのこと。とにかく優しく接してくれる叔父ににこにこと笑顔で接していると、えらく気に入られたようで、びっくりするくらいアタシのことを可愛がってくれるようになったのだ。


 リンネルに帰国してからも、子どもに流行りの玩具やぬいぐるみ、お菓子などをせっせと送ってくれた。それは今もなお続いている。七歳のアタシは思った。愛嬌を振りまいて取り入れば、自ずといい思いができると。


 それからのアタシは叔父に季節ごとに手紙を書き、叔父からはその返事と、その時のリンネルでの流行りのものが送られてくる。といった実に良好な関係を築いてきた。


 アタシは手紙をルネに送るよう命じて、爽快な気分でいそいそと眠りについた。未来は明るい。



 そうはいっても、アタシが調べた限りではプレタールから留学した前例はない。言い訳は多いにこしたことはない。翌日もその翌日もアタシは図書館に入り浸った。こう言われたらこう返そう。そんな脳内会議を繰り返しながら本を読み漁る。


 もはや留学なんて必要ないのではないか、と自問自答してしまうくらいに知識が豊富になってきた。これで何を言われようと、返答できるはずだとアタシは完璧に調子にのっていた。


 顔を隠すように俯いて歩くことも忘れて、今にも踊りだしそうなウッキウキの軽やかさで廊下を歩いていた。


「あれ? あなたはもしかしてリュシエンヌ嬢ではありませんか?」


 聞き覚えのある声に恐る恐る振り返ると、取り巻きに囲まれたサミュエルがいた。どうやらすれ違おうとしていたらしい。リンネルへの留学で頭がいっぱいで、現実なんか見えていなかった。


 それにしても、人間の生存本能とは恐ろしいもので、あんなに自分の物にしたいと思案していたのに、今は死神にしか見えない。


「これはサミュエル殿下、ごきげんよう」

「あぁ。リュシエンヌ嬢、ごきげんよう」

「……それでは」


 アタシはこんなこともあろうかと考えていた、一礼して秒で去る作戦をとる。話が続きそうなら、言い逃げ戦法と決めてある。完璧だ。


 サミュエルを見つめ、にっこりと笑顔を向ける。スカートの裾を軽く上げて、恭しく一礼。すかさず踵を返した。


「お待ちください、リュシエンヌ嬢。お体の方はもう大丈夫ですか?」


 バレてる! 髪まで染めたのに、倒れた事実ごとバレてる!

 なにこの人めっちゃ怖い! あんなに距離があったのに、なんで倒れたのがアタシだと分かるの? 


 取り巻きのどこぞの令嬢を直接見ないように視界の隅に捉えれば、貼りつけたような笑顔だ。


 取り巻きの女の目も怖いから引き留めないでほしい。  

 

 もしかして、今までに参加したお茶会の中にいたのだろうか。正直、自分にすり寄って来る相手には辟易としていたし、自分がすり寄って行こうなどと面倒なこともしたくなかった。だから、適当に最初に挨拶だけして隅に移動していたけど、そのツケが今になってこんな形でやって来たのかもしれない。


 そんな心の中のあたふたがバレないように再び笑みを向ける。


「えぇ。もう大丈夫です。お心遣い感謝申し上げます。それでは……」


 アタシはもう一度、スカートの裾を軽く上げて、恭しく一礼をした。そして立ち去る。……はずだった。


「リュシエンヌ嬢、ミシェーレ公爵はご健在ですか?」


 まだ続くんかい! 放っておいてよ。何回スカート上げれば許されるのよ!


「えぇ、変わらず元気で過ごしております。いつも陛下には良くしていただいていると感謝しているのですよ。それでは……」

「そう……ですか。それでは……」

「ごきげんよう」


 アタシはサミュエルの視界から逃れるように、できるだけ優雅に早歩きをした。


 怖い怖い怖い。一国の王子なのだから王族以外の人間に軽々しく話しかけないでほしい。身分階級廃止のための一つなのだとしたら平民に話しかけなさいよ。平民に!


 今回のことは、本当に心から倒れたアタシを心配して声をかけてくれたに違いない。このままアタシが静かに過ごせば、サミュエルは心から愛する平民と結ばれるはず。


 それにしても平民の名前を知らないのは痛い。ゲームの主人公だから前世の名前『ちづる』と付けていたのだ。


 正直アタシは完璧だと思っていた。家紋も本を抱えることで見えないようにしていたし、顔も……ちょっと今は気が抜けていただけで、なるべく俯くようにしていた。髪も茶色にして、以前のゴージャスさは無いに等しいと思う。それなのに見つかってしまった。


 サミュエルは慧眼の持ち主なのか。……あり得る。王族だ。どんな変装も見抜けるようでないとリスキーだ。とくにサミュエルには使用人に誘拐されかけた過去がある。


 アタシにはサミュエルの慧眼を上回る擬態が要求されるということか。


 今度は何色に染めればいいのか。やはりメガネも必要な気がしてきた。


 自室でルネに聞いてみた。


「プレタール人の髪の色の主流は何色なのかしら?」

「そうですね。お嬢様が染められた茶髪が一番多いのではないでしょうか?」

「そう……。この色もなぜか目立つような気がするのだけれど……」


 アタシはきれいに茶髪に染め上げた髪を撫でた。ルネは困ったような顔で鏡越しにアタシを見つめる。


「なぜ、そのように躍起になって目立たないようにするのです?」

「先日も申し上げたでしょう? 目立たない方が平民も寄ってきやすいと」

「髪の色だけでそれを目指すのであれば、今の髪色で充分だと思いますけれど……」


 アタシは平民と仲良くしたくて髪色を変えたいわけではない。ここ最近で気付いたけど、身分が下になるほど周りから空気のように扱われる確率が高くなるのだ。そう。空気になりたいのだ。殺されないために。


 だけど王子に見つかってしまった。取り巻き連中にもミシェーレ公爵家のリュシエンヌとバレてしまった。


 ……もうこの髪色はダメだ。


「だけど、王子にも気づかれてしまったわ。その取り巻きにも気づかれてしまったもの」

「まぁ、王子に! よろしいではありませんか。王子の目にとまるのは栄誉なことですよ」


 王子に気付かれたことを話すのは諸刃の剣だとは思ったけど、やはりそっち方向に喰いついてきたか……。だけど、その時用にもちゃんと答えは用意してある。アタシは賢いからね。


「王子とは、家同士の付き合い上、卒業した後も社交界で顔を合わせる機会がありますわ。だけれど、平民は違うでしょう? わたくしは在学中にしか得られない交流がしたいと考えておりますの」

「それがなぜ、髪を染めることになるのでしょう?」


 ルネは意味が分からないとでも言いたげに目を見開いているが、アタシは自分の気配を消すためならカメレオンにだってなる所存だ。どんな役柄もやってのけるカメレオン俳優にアタシはなる!


「王子に気付かれたということは、他に気付かれてもおかしくないと思うの。そうなると貴族たちが群がって来て、平民が近づきにくくなるでしょう? 先ほども申し上げたように、平民と付き合うことを在学中は優先したいのよ」

「はぁ……さようでございますか」

「次に目立たない髪色は何色かしら?」


 理解は得られないようなので、さっさと髪染めの手配をしてもらう方向に話を進めてみる。アタシだって自分で何を言ってるか分からないもん。ルネが理解できるとは思わない。


「……グレーですかね」

「ルネと同じような色、ということかしら?」

「えぇ。ですが、そう短期間のうちに髪の色をコロコロと変えていては、逆に目立ってしまうのではありませんか?」

「髪の色を変えたわたくしに誰も気づかないのだから、目立つこともないわ」

「そう……でしょうか……?」

「それにわたくし、ルネの髪色に幼いころから憧れていたのよ。わたくしを育ててくれたのも、一番長い時間一緒に過ごしたのもルネでしょう? 髪色が違うのが淋しかったの……」


 眉を寄せたまま視線を下げて淋しそうに哀愁を漂わせてみた。


 頼む。これで『うん』と言っておくれ。ちろりとルネに視線を向ければ、困ったような顔で何か考え込んでいるようだ。何も考えなくていいから可及的速やかにアタシの髪をグレーにしてほしい。


「わたくしの幼いころからの夢……ルネと親子に見えるような外見になりたいって夢と、平民とも関われるように、身分も分からないようにする。いわば髪をグレーにするだけで、二つも希望が叶うかもしれないの。良い考えだとは思わない?」


 どちらの夢も抱いたことはないけど、もうそういうことにした。


「まったく思いませんが。見た目にこだわらなくても、わたくしはお嬢様を大切に想っていますし、平民と関わりたいのなら髪色にこだわらず、早急に話しかければよいだけのことです」


 そう来たか……。うん、分かってたよ。なんとなく途中から雲行き怪しいなとは思ってたよ。その言葉が返って来ることも予想してたよ。


「お願い! お願い、お願い、お願い!」


 作戦は変更だ。拝み倒す。これしかない。


「大事にしていらした髪も痛んでしまいますし、容認できかねます」

「じゃあ、グレーに染めてくれたら、もう染めたいなんて言わないわ」

「……これで最後ですよ」


 ふぅーーと、長いため息をついたルネは呆れたようにそう言って、髪の色をグレーにしてくれた。


 これで完璧だ。あとは床だけを見つめて歩けばいい。バレるはずかない。前世と違ってこの世界では、そう頻繁に髪の色を変える人なんていない。まず同一人物とは考えないだろう。


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