他国の第三王子
「おかしい。なんでこんなことに……」
ポツリと呟いたアタシの言葉にサミュエルがにこやかな笑顔で答える。
「どうかしました? リュシエンヌ嬢」
「いえ、その、わたくし一人でリンネル国に留学するのだと思っていたものですから」
ふふっ。と、それは楽しそうにサミュエルが笑った。
「先程も申したではありませんか。僕も留学生としてリンネル国に赴くことになったのですよ」
「それは伺ったのですけれど……」
リンネルへと向かう馬車の中で、サミュエルとアタシは向かい合って座っていた。馬車の外には護衛騎士としてパトリックが騎乗している。
パトリックがリンネルでも護衛騎士をしてくれることは、昨日お父さまに聞いて知ってたけど……。
「他国への留学はプレタール国にとって今回が初めてですからね。王族として僕も行くようにと父上から申しつけられたのですよ」
「えぇ。それも伺いましたけれど……」
事の発端は今朝、留学に旅立つ前の挨拶を両親と交わしたあと馬車に乗り込んだ時だ。にっこりと微笑むサミュエルと、したり顔のシルが馬車の中にいたのだ。
留学が王族案件になることは叔父から聞いていたけど、サミュエルの耳に留学の件が届いて、なおかつサミュエルも留学生としてリンネルに赴くことになるなど、どうして考えられただろう。
「驚きました?」
悪戯が成功した子供みたいに笑うサミュエルが言うには、アタシを驚かそうとアタシの両親やシルには口止めをしていたということだった。
それだけでびっくりなのに、もっと驚いたのはフロリアンとアニー以外は、アタシが留学することをダニエル事件の頃にはもう知っていたことだ。
サミュエルは留学するためキュレール学院で予定していた社交ができなくなる。他の学院生についての情報収集をシルにしてもらうためにシルには伝えた。カンタンとセヴランはルネとの業務連絡の中で知った。パトリックはアタシの父から留学中の護衛の打診があり知ったとのことだった。
……誰にも内緒で進めていたはずなのに、ここまで情報は簡単に漏れるのか。
「サミュエル殿下も二年半もの間、リンネル国に滞在なさる予定なのですか?」
「リュシエンヌ嬢、いえ、リュシエンヌ。僕も留学生の一人としてリンネル国に入るのです。サミュエルと呼んでください」
「それは、王子に対して失礼では……」
「僕はリンネル国の学院生からも色々と情報を得たいと思っています。そんなときに王子だからと、身近な者が特別扱いをしたらどうなります? リンネル国の学院生に距離を取られることになると思いませんか? そうなると情報収集は難しくなるかもしれません。留学を実りあるものにするためにも協力してくださいますね?」
微笑んでいるはずのサミュエルの目に妙な圧を感じて、アタシは無言でコクコクと頷いた。
「留学期間についてですが、僕も二年半を予定しております。仲良くしてくださいね」
「は、はい」
高貴たる所以なのか、押しが強い……。
死亡フラグ回避のための留学作戦だったのに、攻略対象の五人のうち二人が一緒に留学してしまったではないか。
……アニーがいないから死亡フラグからは逃げ切れたとは思うけど、なんか納得いかない!
納得がいかず「うー」と唸っているとサミュエルが悲しそうに表情を曇らせた。
「僕と一緒じゃ不満ですか?」
「いえ。そんなことは……。ただ、みなさまと離れるのを心細く感じていたものですから、サミュエル殿下……いえ、サミュエルとパトリックも一緒だというこの状況がまだ飲み込めていないだけです」
そう。サミュエルと一緒なのは心強いと思う。それは本当だ。一身上の都合で死神扱いしていたが、サミュエルはずっとアタシのことを気にかけてくれていた。
……もうそれでいいじゃないか。それでいいことにしよう。うん。
考えたところで馬車はリンネルへと向かっている。グチグチ考えたところで状況は変えられないのだから、サミュエルもパトリックも一緒にリンネルに行けることを心強く思おう。
「リンネル国の学院は、通学が認められているそうですが、サミュエルはどうなさるご予定ですか?」
「僕はリンネルの城で滞在予定です。確かリュシエンヌはエマニュエル公爵の屋敷にお世話になるそうですね?」
ちなみにエマニュエルとは叔父の名字だ。ファビアン・エマニュエルという。
「えぇ。部屋を準備していただけるそうです」
「パトリックも一緒だと聞いていますが」
……何それ。アタシは聞いていないけど?
驚いて目を白黒させているとサミュエルが言った。
「ご存知なかったのですか?」
「えぇ。パトリックが護衛騎士として同行してくれることは、昨日お父さまから聞きましたけど、滞在場所も同じとは……」
「そうなのですか……。パトリックも一緒なら僕も同じ屋敷に変えてもらおうかと思っていたのですが」
どうやらアタシの戸惑いを感じ取ってくれたらしいサミュエルは、その考えを改めてくれたようだ。滞在先が一緒とか肩がこるから、そんな考え思いつくことすらやめてほしい。
「同じ留学生とはいえ、立場が全く違います。他国の第一王子を迎え入れるのですから、リンネル国としても公爵家の者と同じ滞在先にはできないでしょう」
アタシがサミュエルと同じ滞在先が嫌だからではなく、リンネルに迷惑がかかるから変な考えはおよしなさいと暗にダメ押ししておく。
「そうですね……。リュシエンヌはリンネル国でどのようなことを学ぼうと思っているのですか?」
サミュエルの質問に一応建て前を述べておく。
本当は留学してしまえばこっちのものと、適当に学院生活を送る予定だったが、サミュエルとパトリックの手前それは難しくなった。
サミュエルの目があれば、目的意識もなく留学したと思われるような行動は慎まないといけない。パトリックに至っては学院生活を取り上げてしまった手前、キュレール学院の時以上に気を張って生活しなければいけない。
リンネル国に到着する前から気が重くなってしまった。サミュエルと向かい合ったまま半月の馬車での移動が続いた。
***
リンネルに着いてからのアタシとサミュエルは挨拶回りに慌ただしかった。もちろん護衛騎士であるパトリックも一緒だ。リンネルの主要な貴族の屋敷に毎日のようにお茶会に招かれるうえ、二学期から一緒に勉強する同級生たちとの社交の場も設けられた。
そのうえ、叔父に王族の謁見の間にも連れて行かれた。留学の件で尽力してくださったのだから一言お礼を、というのと、叔父がリンネル国国王の義理の息子にあたるため、アタシにとっても親族だからということらしい。ちなみにサミュエルは城にお世話になるため初日に挨拶は済んでいるそうだ。
謁見の間は玉座があり、そこからアタシと叔父が通された場所まで赤い絨毯が敷いてあった。さながら芸能人が手を振りながら歩くあれの様だ。
陛下の隣にはアタシと同じ年の頃の、黒髪に薄い紺色の瞳の浅黒い肌の男子が立っていた。目が合ったので微笑みかけたが、ふいと逸らされてしまう。
気を取り直して陛下に挨拶を済ませると、陛下からその男子を紹介された。彼はニキアス・リンネル。第三王子で、二学期から通う貴族院の同級生となる。分からないことがあれば気軽に聞くといいとのことだ。それと、親族なのだから気兼ねなく接してやってほしいと。
「よろしく」
仕方なしといった感じで、ニキアスはそっけなくそれだけ口にした。
アタシは天使の笑顔で礼をして答える。
「分からないことも多くご迷惑をおかけすることと存じますが、よろしくお願いいたします」
……また、目を逸らされた。なんなのだろうか。一国の王子のくせに社交はどうしたと言いたくなる。
とても仲良くはなれなさそうなのに、お茶の準備をしてあるからと「あとは若い二人で」とお見合いじじのように陛下と叔父が言い、さっさと謁見の間を追い出された。
そう言われては断ることもできず、ニキアスに付いて行くが、歩くスピードが速くて全然ついて行けない。アタシだって早歩きには自信がある。何度もサミュエルから逃げ切った脚力だ。頑張って足を回転させて付いて行くが、息が切れてきた。
アタシの様子に気づいた使用人がニキアスに注意すると、ニキアスはわざと聞こえるようにため息を吐いた。
「田舎者は、領土が狭いからな」
ニキアスの言葉の意味が分からず、アタシは首を傾げた。
「どういう意味ですの?」
「ハンッ。長い距離を歩く必要がないから、このくらいの距離でそれほど息が上がるのだろうと言っておるのだ」
つまり、歩き回る必要もない小さな国で生活している田舎者は体力がないと馬鹿にしたということか。思わずムッとして言い返す。自国を馬鹿にされては黙ってはいられない。
「リンネル国と比べれば確かに小さな国かもしれませんが、長距離を歩くことくらいあります。息が切れているのは、貴方が女性のエスコートもまともにできないからよ!」
「なんだとっ!」
ニキアスが分かりやすく顔を赤くして声を荒げた。
「女性の歩くスピードもご存じないなんて、王子様なのにおモテにならないのかしら? お気の毒ね」
ハッとして慌てて口に両手を充てる。
言いすぎたー! 初対面でなんてことを!! もうこの口は! フロリアンに自己防衛のためにも言葉には気を付けろと言われたのに!!
「この俺がモテないだと? 俺の寵を受けたい女くらい五万といるわ!」
「そうですわね。ニキアス殿下はとても素敵な方ですもの。おモテにならないはずがないわ」
言ってしまった言葉は取り消せないが、この言葉でどうにか怒りを収めてはくれないだろうか。
にっこりと微笑みながら、けれども、ニキアスの機嫌を探ろうとじーっと顔色を窺う。頬は引き攣り、体がわなわなと怒りに震えている。
マズい。めっちゃ怒ってる。もっと誉め言葉を。誉め言葉をーー! アタシは前世も含めて今まで聞いた好意的な形容詞を脳内に集結させた。
「とても格好いいですわ」
言葉が上滑りになっているのは自分でも分かる……。
「はぁ? モテないと言ったその舌の根も乾かぬうちに……」
「そ、そ、それは、ニキアス殿下を拝見して、素敵な方だなと、うっとりしておりましたのに、つれない言葉をかけられて悲しくなってしまって……。わたくし、悲しくなると悪態をついてしまう悪癖がございますの。お恥ずかしいですわ」
「不甲斐ないです」とため息をついて、視線を下ろす。意気消沈したように視線をおろしたまま落ち込んだ顔を続ける。ニキアスからの返事は聞こえてこない。耳を澄ませども澄ませども、なにも聞こえてはこない。
ニキアスの反応が気になりチラリと視線を上げる。……ぶすっとした顔のニキアスと目が合ってしまった。サッと視線を下ろして、また「ふぅ」とため息をついてみる。
沈黙が流れ、居た堪れなくなったアタシはチラリとまた盗み見る。今度はしかめ顔のニキアスと目が合ってしまい、また慌てて逸らす。
覚悟を決めて今度は堂々と視線を合わせる。その時にはニキアスの顔は鳩が豆鉄砲を食ったような表情になっていた。
「そ、そう言えば、リンネル国は貿易が盛んなのですよね? どういったものを輸入していらっしゃるのですか?」
呆然とアタシを見つめていたニキアスが我に返ったようにハッとして「まぁ、よい」とボソリと呟いた。
「輸入したパイがある。準備させるから食べてみるがよい」
取り繕えたかは分からないが、陛下に命じられているだろうアタシの相手はこなすようだ。その間になんとか友好関係を築けるようにしておかなくては学院が始まったあと困る。
サミュエルが一緒なのは心強いけど、あくまでサミュエルは他国の王子。リンネルでの庇護者がいるに越したことはない。
今度はスピードを落として歩くニキアスに付いて行き、使用人がドアを開けてくれると陽気の射す明るい部屋に通された。中庭に面していて、プレタールでは見たことのない色味の花が咲き誇っているのが見えた。
ニキアスに窓辺の椅子までエスコートされて席に着いたアタシは、見たことのない花々にうっとりとする。
椅子までエスコートしてくれたのは、先程のアタシの言葉がひっかかっているからに違いない。
「まぁ、きれいですわね。プレタール国では見たことのない花ばかりですわ」
ふふん、と得意気に鼻を鳴らし、アタシを見下ろしているニキアスが答える。
「南国から輸入している花だから、リュシエンヌは見たことがなくて当然だろう」
「まぁ。他国との交易があるのは、こういった利点もあるのですね。素晴らしいですわ。目が贅沢を憶えてしまっては帰国した時に困ってしまいますわ」
とにかくニキアスを持ち上げようとアタシも必死だ。学院での後ろ盾が欲しいから、どうにか友好関係を結びたい。
「ふんっ。リンネルにいる間にしか味わえない贅沢だ。とくと味わってゆくがよい」
「えぇ。そうさせていただきます」
お花に夢中になっていると、正確にはフリをしていると、お茶とパイが運ばれてきた。
お茶といってもリンネルでは紅茶ではなくコーヒーが一般的なようだ。現世でコーヒーは飲んだことがない。一口飲んでみると酷く苦かった。準備してくれた砂糖を入れてもらおうと城の使用人に目配せをするとニキアスが言った。
「このパイは甘いから、砂糖は控えた方がいいぞ」
ニキアスから忠告を受けたアタシはパイに視線を投げる。パイはパイでもなんとなく湿った感じのするパイだ。ナイフとフォークで一口サイズに切り分け、パクリと口に入れる。すかさずコーヒーを流し込んだ。
甘っ! くそ甘っ!!
ニキアスは平然と食べている。このシロップ塗れのパイを。辛党のアタシは無理だけど、好きな人は好きなのか。
「ニキアス殿下。このパイはニキアス殿下のお好みですか?」
「あぁ。少し甘いが、このコーヒーとよく合う」
パクパクと頬を綻ばせながら食べ続けるニキアスに反して、アタシのパイはあまり減らない。それに気づいたニキアスはきょとんとした顔だ。
「なんだ。リュシエンヌの口には合わなかったか?」
「い、い、いえ。あまりにおいしいのでよく味わって食べようかと思いまして。このコーヒーもすごくおいしいです。プレタール国では見たことがありませんの。あ、コーヒーのお代わりをいただいてもよろしいかしら?」
流れるように使用人にコーヒーのお代わりをお願いする。本当はこんな小さなコーヒーカップじゃなくて、ピッチャーで準備してほしいくらいだ。辛党のアタシにこのパイはきつい。すでに胃がもわっとしている。
ククッとニキアスの笑い声が聞こえて視線を上げると、ニヤリと片方の口角を上げた。
「そんなに気に入ったのなら、これから城に来たときはこのパイを馳走しよう。土産にも持って帰るといい」
「え、え、え、え、えぇ。嬉しいですわ」
かなりどもってしまったが、ごまかせただろうか。
アタシは心の中でそっと、二度と城には来ないことを誓った。
「ぶはっ。冗談だ。苦手なのだろう?」
目を丸くしてニキアスを見ると「先程の仕返しだ」と鼻に皺を寄せて笑った。
人が悪い。
「人が悪い」
ヤバッ。口から零れた。聞こえてないよね? 恐る恐る視線をあげれば、ばっちりと目が合う。
「ほぅ。人が悪いと?」
「……まぁ! 誰がそんなことを?」
「リュシエンヌの口から出た言葉だと認識しているが?」
どうしよう、どうしよう、どうしよう。なかったことにはできないか。
「まぁ! ニキアス殿下にはそのような言葉が聞こえたのですか?」
「あぁ。しっかりと」
「まぁまぁまぁ! 大変ですわ! ここには人ならざる者がいるのかもしれません!」
「はぁ? 何を言って……」
アタシは「しっ!」と口元に人差し指を当ててニキアスの言葉を遮り、無言で辺りを見回した。
「……大丈夫です。わたくし、こういうときの対処は心得ております。さぁ、ニキアス殿下。わたくしに倣ってくださいませ」
そう言って、ニキアスを無理やり椅子から下りて跪づかせる。おもむろに身に付けていたたネックレスを手に巻き付けてこすり合わせる。頭をフル回転して、それっぽいことを唱えた。
「帰られませ、帰られませ。あ、ニキアス殿下! なにをポカンとしておいでです? さぁ、ご一緒に!」
ネックレスを巻き付けた両手を擦り合わせながら、再度呪文ぽい言葉を唱える。チラリとニキアスを見れば、何が何だか分からないがとりあえずやっておこう、という感じで、アタシを見ながら両手を擦り合わせていた。
意外と素直だった。
そっと視線を巡らせれば、呆然と立ち尽くした城の使用人たちが見える。……何か言いたそうに口をパクパクとさせている。
今は何も言わず黙っていてね。使用人たち!
「帰られませ、帰られませ。悪霊退散! さぁ、ニキアス殿下。これを三度繰り返すのです」
さぁさぁさぁ! と勢いで押し切り、ニキアスにも同じことをさせる。そして、アタシは立ち上がり、掻いてもいない汗を拭い「ふぅ」と息をついた。
「ニキアス殿下。これでもう大丈夫です。人ならざる者はあるべき所に返しました。ご安心ください」
「……そ、そうか」
跪いたままのニキアスは、ぽかんとした顔でアタシを見上げていた。
「……ですが、ニキアス殿下。大変申し上げにくいのですが、今ほど追い払った人ならざる者の欠片が、ですね……」
「欠片が……?」
「わたくしに少し残ってしまったようで、あのパイは、その、言いにくいのですが、あまり好みではなかったようです」
「すんごく食べたいのに残念で仕方ないのですが……」と、困った顔で頬に手を充ててニキアス殿下をチラリと見る。
ニキアスが笑いを堪えられないように「ぶはっ」と吹き出した。
「その人ならざる者のせいで、リュシエンヌの嗜好も変わったと?」
「えぇ。人ならざる者の影響は思いのほか大きいようです」
「そうか。人ならざる者の影響であれば仕方がないな。土産はよしておこう」
「ご配慮痛み入ります」
「わたくしは食べたくて、食べたくて仕方ないのですが」と、もう一度ダメ押ししておく。城で出されたお菓子が口に合わないということで外交問題にでも発展したら大変だ。リンネルの情勢は全然分からない。注意が必要だ。
ニキアスに席に着くよう促され、再び席に着いた。ニキアスが何事もなかったかのように学院の話をしてくれる。リンネルのティノス学院は武芸や文筆など授業科目はプレタールと変わらないが、貴族のみが通うそうだ。
「平民は学院には入れませんの?」
「平民は平民用の学校があるからな。我々とは学ぶべきことが違う。平民に武芸は必要ないだろう? それに平民は体力仕事が多い。学院に通えば一日中拘束されて人手を失ってしまう」
「では、平民は授業のカリキュラムが違うのかしら?」
「詳しいことまでは分からないが、平民の学校は午前で終わって、午後からは家業に勤しんでいるようだ」
リンネルでは外交に力を注いでいて、プレタールのような国内部の身分差社会の改善には全く興味がないようだった。
まぁ、内部も外部も広く変えようとすると軋轢が生じたときに抑えきれないもんね。
「それはそうと、ティノス学院のランチはうまいぞ。リュシエンヌはどんなものが好みだ?」
「そうですね。リンネル国の食事がどのようなものかはまだよく分かりませんが、好みで言うと辛いものが好きですね」
「辛いものが好みなのか。甘いものはどうだ?」
「甘いものはあまり好きでは……」
そこまで言ってハッと気付いて、バッと視線をあげるとニキアスがしたり顔で笑った。
「ほぅ。甘いものは苦手か?」
「え、え、えぇ。欠片が……」
額から汗が一滴流れた。目ざとくそれに気付いたニキアスが楽しそうに指摘する。
「どうした? 暑いか?」
「えぇ。陽気が……。それはそうとニキアス殿下、リンネル国の貴族は何をして遊ぶのですか?」
しれっと話題を変えるが、ジト目で見つめられ、わたわたしてしまう。それでも、ニキアスは貴族の遊びについて教えてくれた。貴族の遊びについて聞いていると、叔父の使用人が迎えに来て、やっと解放された。
できれば、もうちょっと早く呼びに来てほしかったと思ったのは言うまでもない。




