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300時間のシンデレラ  作者: 小塚彩霧
49/50

第49話 プロポーズ

 ゴールデンウィーク初日。隼人さんの部屋で鼻歌混じりで掃除機を掛ける。


「今日はちょっと暑いなぁ。」

「そうねぇ。お昼、素麺にでもする?」

「素麺?早くない?」

「じゃあ、麺つゆはちょっと温かいのにしたら良いよ。」

「そうだな。素麺、あったかな……?」

「備蓄用に買ってたヤツがあるよ。賞味期限もアレだし、食べちゃおうよ。」


 新緑の初夏を思わせる陽気だ。バルコニーの開けた掃き出し窓から爽やかな風が入ってくる。


「そういえば、あすかがこの部屋に初めて来たときから、ちょうど一年くらいじゃない?」

「そうだったっけ?」

「違ったっけ?餃子作って、ケーキ食べて……。」

「イヤぁっ!ストップ!ストップ!思い出したら恥ずかしくなっちゃうから!!」

「ふふ。かわいいなぁ、あすかは。いじめたくなる。」


 洗濯カゴを持った隼人さんが近付いてきて、床にカゴを置いた。どうしたのかなと思っていると、後から抱き締めてきて、耳元にキスを落とす。


「もお!隼人さん、掃除の邪魔しないで!」

「ヤダヤダ!あすかがかわいいのが悪いんだ。耳、真っ赤になってるし。」

「怒るよ!」

「ふふ。早く終わらせて、お昼ご飯作ろ?」

「……うん。」


 なんだかんだ言って、私はずっと隼人さんにベタ惚れだ。隼人さんの顔も声も人柄も、その触れる体温も手もキスも全部大好き。

 掃除機を仕舞って、バルコニーで洗濯物を干す隼人さんの背中に抱きついた。


「おわっ!?ビックリした!」

「お返しだからね!」


 隼人さんの顔は見えないけど、多分、ニコニコしてると思う。鼻歌混じりでハンカチのシワを伸ばして干している。


「隼人さん、大好き。」

「俺も、あすかが大好き。」


 二人で、ふふ、うふふと笑い合った。端から見たら新婚ラブラブバカップルなんだろうなぁ、なんて脳裏で考えて、余計ニヤニヤしてしまう。


「なぁ、あすか。」

「ん?ごめん、邪魔だね。」


 背中から腰に回した手を解こうとしたら、その手をぎゅっと握られた。私は隼人さんの背中にくっついたまま離れられない。


「あすか……。あのさ。」

「ん?どうしたの?」

「あのさ。俺達、結婚しない?」

「へ?」


 何て言われたか、聞こえたけど頭が理解できなかった。気の抜けた変な声が出た。


「結婚しよう。」


 固まった私に向かって、隼人さんはもう一度言った。


(なんで今!?こんな状態で!?お掃除とお洗濯の途中で?バルコニーで?背中にくっついてる状態で?)


 凄まじい勢いで脳ミソの中をいろんな疑問が駆け巡っている。

 もちろん、返事はイエスなんだけれど、何の心構えもなく、唐突すぎて。息が止まって声が出せない。

 別にプロポーズに特別な思い入れがあった訳じゃないけど、もっと何かあるんじゃないの?と思ってしまう。

 海外の動画なんかだと、跪いて婚約指輪のケースをパカッとするし、日本のドラマなんかでは、二人でちょっといいレストランで食事をしたあとに婚約指輪指輪のケースを出してきたりとかするし。


(こんなシチュエーション、想定してなかった!)


「……イヤ?」


 沈黙が続きすぎて、隼人さんが心配そうな声を上げた。


(何か答えないと。)


 ずっとずっと好きだった徳永さんと、お近づきになって、付き合って、半同棲して、もう新婚夫婦同然の生活で。今、こうして彼がプロポーズしてくれている。


(ばか。全然ムードもないし、カッコよくないし。でも、すごく私達らしい。)


「ううん。」


 腰に回した腕に、さらにぎゅっと力を込めて隼人さんの腰を締める。


「ふふ。結婚してくれる?」

「うん。結婚して。」


 ちょっと涙が出そうになって、鼻声になった。


「あすかの腕力に負ける気はないけど、流石にちょっと痛いから離して。」

「やだ。今、顔見られたくない。」

「えー、そんなん言われたら、めっちゃ見たい。」

「絶対ダメ。」


 隼人さんが落ち着かなさそうにモゾモゾしている。私を振りほどこうとしている。


「わかった、わかった。見ないから離して。洗濯物、干しちゃうから。」

「むぅ。絶対こっち見ちゃダメだからね!」

「言われると見たくなるよなぁ……。」

「んー?」

「なんでもないです!」


 そっと隼人さんから離れてリビングに戻ったところで、背後から声が掛かる。


「あすか、お茶飲むの?俺の分も入れといて。」

「はーい。」


 キッチンにコップを二つ並べて、冷蔵庫のドアを開けた。


「!?」


 冷蔵庫の中に見慣れない小さな箱があった。

 一度ドアを閉めて、一呼吸置いてから、もう一度開けた。


「これ……。」


 そっと手を伸ばし、その小箱を手に取った。

 静かにゆっくり箱を開けると、小さな石が付いた銀色の指輪が入っていた。


「驚いた?」

「うん。」

「やったあ。サプライズ大成功!」


 リビングに戻ってきた隼人さんが、私の手から箱をそっと抜き取って、その中の指輪を私の左手の薬指に嵌めた。


「これはおまけだから。今度一緒に本物を買いに行こう。ね?」

「うん。」


 お茶を注いだコップをダイニングテーブルに並べた。椅子に座ってコップに口をつけながら、左手を空にかざした。


「ねぇ、これ、いつの間に冷蔵庫に入れたの?」

「んー?あすかが掃除機を片付けに行ってる間。」

「え!?早!?」

「はは。間に合わないかもと思ってちょっと焦った。それに、ベランダに出てくると思ってなかったから。指輪見つけた時にプロポーズしようと思ってたんだけど。」


 お茶を飲んで一息。

 これから結婚に向けて色々忙しくなるなぁと、現実が少し怖くなった。


多忙すぎて投稿が遅くなりました。m(__)m

実質、今回が最終回。次回、エピローグの予定です。


プロポーズのシーンが日常の延長なのに極甘過ぎて、ニヤニヤしながら書いちゃった。

末永くお幸せに!!♪ヽ(´▽`)/

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