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300時間のシンデレラ  作者: 小塚彩霧
47/50

第47話 デスマーチ

 眼精疲労で痛む目をしばたたかせながら、WBSの工数予実と向き合う。


(一月は行って、二月は逃げて、三月は去る、とは言うけれど。どう考えても入らない。)


 どんなプロジェクトでも、毎年毎年、年度末は繁忙期になるのは分かっているのに回避できない。微妙に人を増やすほどではない予算と工数。なんとかなるかなーなんて思っていると、ちゃぶ台返しだったり、時限爆弾的バグだったりで工数が溢れる。


(私の見通しの甘さなのか、要領の悪さなのか、日頃の行いなのか……。)


 何度目かわからないくらいで大きな溜め息を吐いた。


「どうした?」

「三浦さん。進捗遅れが発生しだして。リスケするにしても、最低限必要なものすら溢れそうで。」

「ん?なんで急に?」

「ええ。急という訳でもないんですけど、ちょっとずつ溢れてたのが収集付かなくなりまして。」

「いやいや、おかしいやん。そんなに進捗遅れてなかっただろ?」

「……不具合修正を浜野さんにお願いしてたんですけど、思いの外、影響範囲が大きかったらしくて。それだけなら、まあ、想定内だったんですけど、浜野さんがお客さんからの改善要求を受けてたの忘れてたって、工数見積もりを出してきて……。今日、お客さんからの電話でそれがわかりまして。次の定期リリースに載せるって話になっちゃってるらしくて。謝って後にズラしてもらおうかどうしようかって。それに、もうあっという間に年度末になりますから、保守運用の納品物も作らないといけないし、どうにも工数が足りないなぁって。」

「次回のリリースって、月末か。二月は日数が少ないからなぁ。にしても、浜野のヤツ、そんな状態なのに帰ったのか……。」

「元々今日は通院って言ってましたから。体調も万全ではないみたいなので無理しないようにって。」

「お前が一番年下なのにな。……年度末はどこのプロジェクトも人手が足りないし。」


◆◇◆


 そんなこんなで、やっぱりデスマーチに突入した。

 時々、隼人さんが差し入れを持ってやってきて、「終電じゃなくて、300時間のシンデレラだな!」なんて茶化してくる。

 あまり遅くなると悪いので、隼人さんの部屋には帰れなくて、ゴミ溜めと化した自分の部屋に帰り、シャワーもそこそこに泥のようにベッドへ雪崩れ込む日々だ。


(結婚したらどうなるんだろう?デスマーチから逃れられると思えないんだけど……。)


 今の仕事は嫌いではない。いや、寧ろ好きなんだけど。でも、この調子だと結婚しても寝に帰るだけになって、人間の生活は送れないと思う。


(まだプロポーズもされてないのに気が早いか……。ずっと半同棲で事実婚状態のままかもしれないしな。)


 前回のプロジェクト炎上時よりはまだ、浜野さんがいる分、気が楽だ。やっぱり一緒に仕事をしてくれる人がいると精神的な安定感が違う。浜野さんも本調子ではないと言いつつ、私よりは先輩で場数を踏んでいるので、うまいこと辻褄合わせをしてくれる。

 昼休みに隼人さんに連れ出され、久々にお店でランチを食べる。


「あすか、最近、ちゃんとごはん食べてる?」

「自炊ではないけど食べてますよ。」

「ちゃんと風呂入ってる?」

「え?私、臭い?」


 クンクンと自分の腕を嗅いでみる。


「いや、臭くないけど、最近の忙しさでちょっと顔色悪いというか、肌も荒れてるし、調子悪いんじゃないかと思って。」

「まぁ、この時期は毎年こんな感じだし……。」

「家事もままならないでしょ?俺ん家に帰ってきて、ご飯食べて、風呂に入ったら?洗濯もしてやるし。」

「でも、毎日何時になるかわからないし、あんまり遅いと隼人さんも睡眠時間が短くなっちゃう。……しかも洗濯までって。」

「俺は全然平気なんだけど。倒れられた方が敵わん。」

「うう。洗濯はちょっと気が引けます……。」

「夜、終電間に合ってる?」

「時々間に合ってなくてタクシー……。」

「じゃあ、終電逃した時は電話して。迎えに行くから。」


 心配そうにしている隼人さんに申し訳ない。お父さんみたいな心配の仕方で、ちょっと居心地が悪い。


(だってこれが平常運転なんだもん。部屋の荒れ具合とか見られたら幻滅されそう……。)


 隼人さんのことが大好きなのに。近い将来、結婚したいと思っているのに。こうして優しくしてもらって嬉しいのに。なんとなく、何でもできる隼人さんに気後れするというか、自分との間に深い溝があるような気がして辛かった。


ちょっと短め&ちょっと遅れました。

タイトル回収w

隼人さん、なんだかモラハラ気質な感じもするなぁ(^_^;)

あすかが劣等感抱きまくるっていう。

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