第37話 看病
翌日。私は平気だ、と言ったのに、大事を取って一日休むことになった。
「あすか。俺は会社に行くけど、ちゃんと寝てるんだぞ。何かあったら電話して。じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
布団の中から隼人さんを見送る。
昨日の深夜、病院から隼人さんの部屋に来て、軽くシャワーを浴びた後、そのまま客用布団で寝かせてもらった。
今朝は、隼人さんがお粥を作ってくれて、起き上がってそれを食べた後、もう一度布団に寝かされた。自分ではわからないけど、顔色が悪いらしい。確かに血液検査では大抵軽い貧血と出るのだけれども。
(寝てろって言われてもなぁ。退屈だなぁ。)
リビングに敷かれた布団の中でモゾモゾと寝返りを打つ。あまり使っていない布団だろうけど、思った以上にフカフカだ。
(あんまり寝てばっかりだと、夜、眠れないと思うのよね。)
ちょっと掃除とか洗濯とか?と思って、起き上がってみる。
が、自分の想像以上に体調が悪いらしい。
(なにこれ。めちゃくちゃクラクラする。)
確かに朝ごはんも隼人さんに食べさせてもらった。大袈裟だと思っていたけど、そんなことはなかったらしい。いつも、朝起き抜けはフラフラしているけど、ご飯を食べてしばらくすると動けるようになるのに。
(ダメだー。大人しく寝てよ。)
自分の部屋ではない場所。彼氏の部屋のリビングで惰眠を貪ることになるとは。
(それにしても、なんだろなー。迷走神経反射って言われても意味分からないし。こんなに長時間、気持ち悪いものなの?)
最近、仕事は楽になってきてたはずなのに。疲れてたのかなぁ。にしても、まだ二十代なのに、過労で倒れるとか考えられない。
考え事をしているうちに眠ってしまった。
◆◇◆
「ただいまー。」
玄関から聞こえる声で目が覚めた。足音が近づいてきて、カチャっとリビングのドアが開いた。
「あすか?寝てた?」
「おかえりなさい。……寝てた。」
もう夕方なの?どんだけ寝てたんだ?と思い、部屋の中を見渡した。まだ明るい気がする。この時期なら、会社が終わる頃には外は暗くなっているはずなのに。
「……今、何時ですか?」
「今、十四時半。」
「え?」
「午後半休にした。あすかが心配で。」
「ええ!?」
隼人さんは着ていたジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けた。
「お昼食べてないよね?うどん食べる?」
「はい。」
普段着に着替えた隼人さんがキッチンに立つ。そのうちうどんの出汁の匂いが漂ってきた。
「おまちどお。起きれる?」
「うん。」
「じゃあ、こっちにおいで。寒くない?」
「大丈夫。」
朝は起きれなかったけど、今はどうだろうか?
恐る恐る起き上がってみると、多少フラフラしたものの、朝よりはずっと調子が良かった。
隼人さんに借りたパジャマのまま、布団から抜け出して、ダイニングテーブルのうどんの丼鉢の前に座った。
「うん。だいぶ顔色良くなった。朝、マジで顔色悪くて真っ白だったから、心配してたんだ。」
私の顔を見つめた隼人さんが微笑みながらそう言った。
「心配かけてすみません。」
「まぁ。昨日はほんとに焦ったけど。死んでるんじゃないかって。」
「……。」
「今日もずっと付いててあげたかったんだけど、どうしても片付けないといけない案件があったから、それだけやっつけにね。」
「すみません……。」
「謝ることないよ。体調悪いときは無理しないの。ほら、冷めるし、早よお食べ。」
「いただきます。」
隼人さんも私の向かいに座り、うどんをすすり始めた。お昼を食べないで仕事をしていたようだ。
柔らかめに炊いたうどん。ちくわと卵と刻み葱。優しい出汁の味が身体に染み渡る。
「おいしい。隼人さん、ありがとう。」
「いいえ。こんなときくらいは甘えなさい。」
上げ膳据え膳で、食べ終わったらまた布団に寝かされた。
「隼人さん、こんな至れり尽くせりで……。」
「俺が倒れたときは看病よろしく。」
「……一生懸命させていただきます。」
一人暮らしだと、病気の時とか心細くなる。隼人さんも風邪で一人寂しく寝込んでたりしてたのだろうか。
(結婚、したいな……。)
二十五歳を過ぎてから、いつかは結婚したいと漠然と思っていた。普段から強く思っていたわけではないけど、時折、ムクムクとその願望が立ち上がっては消え、立ち上がっては消え、としていたのだ。それが、昨日今日の隼人さんの献身的な看病のせいか、今、物凄く強く、その思いが沸き出している。
(こんなだらしない彼女でもこんなに丁重に扱ってもらって……。私にはもったいないくらい。)
隼人さんと結婚したら、こんな生活なんだろうか?とか、そういう妄想が増えてきた気がする。
(隼人さん、私のこと、どう思ってるのかな?結婚してもいいって思ってくれてたらいいな……。)
さてさてこの先どうなるのか!?




