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300時間のシンデレラ  作者: 小塚彩霧
21/50

第21話 遭遇(前編)

 段階リリースの納品日が近付き、夜にプロジェクトメンバーでテストと納品準備をしていた。三浦さんと浜野さんと私の三人だ。

 システム開発部ではお馴染みになった隼人さんが、皆さんへ、と差し入れを持ってくる。


「いつも悪いね、ありがとう。徳永、ほんと、申し訳ないから、差し入れ持ってこなくてもいいぞ?」

「三浦さん、徳永さんは笹本を構いたくて仕方ないんですよ。」

「そうなんです。なので気にせずどうぞ。」

「そういうなら、まぁ……。」


 今日の差し入れはドーナツとコーヒーだった。それをモグモグ食べながら、印刷ジョブを流す。


「俺、もう仕事終わったんだけど、適当に時間潰してるから、終わりそうになったら連絡して。」


 隼人さんは私にそう耳打ちしてシステム開発部の部屋から出ていった。


「いやー、徳永さんと仲良いね。」

「まぁ、そりゃ、今が一番楽しい時期でしょ?付き合い始めて、まだ三か月くらいですよ。」


 浜野さんとの会話に三浦さんが入ってきた。


「社内恋愛はあんまり推奨されないから気を付けろよ?」

「そうなんですか?」

「別に悪かないんだけどさ、仕事に支障が出ても困るし。それに、別れたらその後やりにくいだろ?周りも気を遣うしだな。……結婚まで行きついてくれたらいいんだけどさ。」

「なるほど……。仕事に支障が出ない程度にしておきます。」

「応援してるよ。」


 さて仕事仕事!とリリースモジュールの準備とドキュメントの印刷をする。明日の午後、プログラムリリースをするけど、その前にドキュメントを渡すことになっている。

 ドーナツを食べ終えたけれど印刷が続いていたので、ちょっと手を洗うついでに休憩室に降りてみることにした。


(もしかして、隼人さんが居たりするかな?)


 薄暗いエレベーターホールから、休憩室に向かう。この時間帯は自販機の灯りだけが点灯している。誰か居る気配がするので、隼人さんだろうと思って近付いていくとどうやら二人居るらしい。


(誰?何を話しているんだろう?)


 他人の話を盗み聞きというのもどうかと思うけれど、その人は私の彼氏かもしれない。そう思って、向こうから見つからないようにエレベーターホールの壁際に寄り、物陰から息を潜めて聞き耳を立てる。


「徳永さん、お疲れさまです。今日も遅いんですね。」

「お疲れ様です。いや、まあ、大体は作業が終わったんで、ちょっとお茶でも飲んで、一息つこうとしてました。」

「ふふ。私もご一緒してよいですか?」

「どうぞ。」


 やはり、男性は隼人さん。でも、女性社員が誰か分からない。


(どこの部署の人かわかんないなぁ。こんな時間まで、経理?総務?)


「徳永さん、最近彼女できたって本当ですか?」

「えっ!?彼女?」

「はい。総務ではもう蔓延してます、その噂。経理や広報、人事でもそうだと思いますけど。」

「へぇ……。営業企画とシステムは?」

「女性がいないので。」

「なるほど。」


 女性がいないとは随分だな!と思ったけど、確かに営業企画には今、事務の派遣の女性がいるだけだし、システムには私とマミさん。あの辺の人たちとは絡まないから、いない扱いなんだろう。


「で、どうなんですか?彼女。」

「最近というか、もう少し前に彼女できました。」

「そうなんですね、残念。社内では徳永さん、人気あるんですよ。」

「私なんかが恐縮だなぁ。」

「徳永さん、彼女、どんな人なんですか?」

「まあ、可愛い人かな。天然で。」

「写真とかないんですか??」

「写真、あまり好きじゃないみたいで。」

「うわー、どんな人か気になるぅ。」

「はは……。」


 しつこく彼女の事を聞いているので、一体誰なんだろうと壁からそっと休憩室を覗いてみる。

 隼人さんと総務の女の子は自販機前にいくつか並ぶ丸テーブルのうちの一番手前のテーブルの席に座っていた。女の子はこちらに背を向けているので誰か分からない。もっとも、顔が見えたところで名前も知らないと思うけれども。女の子の向かいに座る隼人さんの表情も女の子の身体に遮られ、窺うことはできなかった。

 隼人さんは特に私の事を喋りそうにないし、総務の女の子の方も彼女の事を聞きたいだけのようなので、そっと立ち去ろうとしたその時だった。


「私も、徳永さんのコト、好きだったんです。彼女と別れて私と付き合いませんか?」


休憩室があるフロアの構造が分からない(笑)


エレベーターホールと階段室とトイレと給湯室。

応接用の打ち合わせ室がいくつかあって、休憩室と喫煙室。

って感じです。

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