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300時間のシンデレラ  作者: 小塚彩霧
13/50

第13話 なんとなく秘密

 徳永さんとお付き合いすることになった。

 それは望んでいたことだから喜ばしいのだけれども、それをまだ誰にも言えてない。

 マミさんやワタナベくらいには言っても良いかな?と思いつつ、私と徳永さんは部署が違うこともあって、普段はほとんど接点がない。接点がないのだから、誰も私達が付き合っていると気付かないし、そう勘ぐられることもない。

 徳永さんも元々は寡黙な方なので、彼女ができた!笹本と付き合っている!と公言するタイプでもなさそうだ。


(もしかしたら、すぐ別れちゃうかもしれないし、聞かれるまで黙っとこうかな……。)


 ヴヴとスマホが震える。メール通知だ。差出人は徳永さんだ。

 ドキッとしながら、背後に人が居ないことを確認しつつメールを開ける。


『今日は残業、遅くなりそう?良かったら、家まで送るよ。』


(どどどどうしよう??)


 仕事は一時期に比べるとマシになったとはいえ、まだ忙しい。終電までには終わるつもりだが、徳永さんも遅いならそれもありかもしれないが、待たせるとなると申し訳ない。いっそ早く切り上げてしまおうか?それだと多分、二人でご飯食べたりするだろうし、それはそれで結局帰るのが遅くなってしまいそうな気がする。


(一緒に居たいけど、私も徳永さんも、仕事に支障が出ると困るなぁ。)


『今日は22時位に退勤予定です。電車で帰れる時間なのでお気遣いなく(汗)』


 すぐに返信が来た。


『俺も残業あるし、ちょうどそれくらいの時間だから、家まで送るよ。』


(ああ……、断れなかった。)


 営業企画部の繁閑がどの程度なのかわからないけど、システム開発部は年柄年中人手不足だ。とはいえ、今は終電まで仕事するのは私のプロジェクト位だけども。営業企画部はどれくらい人が残ってるんだろう?あんまり二人でいるところを会社の人に見られたくない。何故かって、徳永さん自体、浮いた噂のない人だけど、何だかんだと仕事のできる人なのに、私みたいな女子力ゼロの地味子と付き合っているなんてバレたら噂になること間違いなしだし、私への報復がないとも限らない。ワタナベ程でないにしろ、多分、多少は人気がある人だろうから。

 一度二度送ってもらったが、あの時は終電も過ぎていたし、家の方向が一緒だったから仕方ない、という大義名分もあった。流石にそう何度も送ってもらうのはおかしいし、もしかしたら、まだ人が居て、一緒に居るところを見られちゃうかも。別に、付き合ってるんだし、悪いことは何もしていないんだけど。


『わかりました。ありがとうございます。』


 さて。どうやって他の人に見られず、一緒に帰るか……。


◆◇◆


 約束の時間が迫る。今日のノルマはなんとかこなせそう。本当はもうちょっとやった方がキリが良いけど、浜野さんも帰ったし、人もまばらになってきたので、最後にならないうちに退散しようと思う。

 営業企画部はどうだろう?人がまだ居るのかな?


『お疲れ様です。こちらもうすぐ終わります。会社の近くのコンビニで待ってます。』


 後片付けをして、さっさと部屋を出る。他の部署に人が残っていないことを確認しつつ階段で降りる。


『駐車場の前で待ってたらいいのに。』

『ちょっと買いたいものがあるのですみません。』


 メールでの攻防。徳永さん、不思議に思ってるだろうな……。

 駐車場は会社ビルの立体駐車場で、会社ビルの裏口を出てすぐ横だ。そんなところで待っていたら、誰かに会ったときに何て言えば良いか分からない。いちいち、『彼氏を待っている。彼氏は徳永さんだ。』と説明したりしたくない。


 そそくさと会社ビルを出た。ここまでは誰にも会わなかった!その足で、駅とは反対側のブロックにあるコンビニにダッシュする。炎上しているプロジェクトがあれば、ここは夜食の調達場所になったりするが、今は大丈夫なはず。大抵の人は電車で帰るから駅前のコンビニに行くはずだ。

 コンビニでお茶と明日の朝御飯を買って、道路に面した雑誌売場で雑誌を物色しつつ、通りかかる車を確認する。


『今、車出すから、コンビニ前で待ってて。』

『はい。』


 徳永さんからメールが来て数分。コンビニ前で待つ私の前に徳永さんがやってきた。


「おまたせ。あすか。」

「お疲れ様です。徳永さん、ありがとうございます。」

「……まあ、乗って。」


 私の言葉に徳永さんはちょっと怪訝な顔をした。車に乗り込みバタンとドアを閉め、シートベルトを締めたところで車が走り出す。


「なんで、そんなよそよそしいの?」

「そ、そんなつもりじゃなかったんですけど、なんかちょっとまだ慣れなくて。隼人さんって呼ぶの、恥ずかしい……。」


 自分でも、そんなしおらしい台詞を言うことになるとは思っていなくて、一気に顔が熱くなった。


「うう。なんかこっちまで照れてきた。なんだこの初々しい感じ!中学生みたいだ!」

「中学生!?た、確かに私、ちゃんと彼氏居たことないので、そうかも……。」


 語尾に向かって声が小さくなる。自分で言ってて情けない。彼氏が居たのは中学生のときの一瞬でそんなもん彼氏と言って良いのかどうかも分からないくらいだし、処女なんだもん。その後も恋はしたけど、告白までたどり着けなかったり、告白しても振られたりで。


「……そう、なんだ。急にドキドキしてきた。」

「うう、からかわないでくださいよ。隼人さんの彼女がこんなのってバレたら笑われちゃうんじゃないかって心配してるのに。」

「あー、なるほど。それでコンビニね。」


 徳永さんはフフッと笑って言った。


「じゃあ、しばらくは俺達が付き合ってること、みんなに秘密にしておこうか。二人だけの秘密な。」


ぎゃー。書いてて恥ずかしくなってきたー。

徳永さんは奥手ながら学生時代に一人、彼女がいて、一通り経験アリ。

あすかは、恋愛知識は全て友人とドラマや漫画で入手。中学生の頃の彼氏とは当然キス止まりw

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