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「あるの?」


 大学からの女性は思わず身を乗り出すようにした。高校からの女性はバッグを引き寄せてスマホを取り出して操作した。


「ほら、これよ。去年の夏ごろの写メなんだけど、綾子ってば間違えて私のところに送ってきてさ」

「これが……って、どれがそうなのよ」


 それはいかにも親睦会っぽい写真だった。綾子を中心に十人ほどの男女が集まってポーズを決めて……というより、写メるのに乱入してきた雰囲気がバレバレの女子が何人かいた。乱入された側は肩を組んでいて、いかにもチームっぽい雰囲気に見える。


「えーと、確か綾子の後ろにいるこれが『谷口君』だったと思う」


 指さしたのは、移っている男たちの中では一番若くイケメンといえなくもない顔の男だった。


「ねえ、なんで、これを持っているのよ」

「だから言ったでしょ。綾子が間違えて送ってきたのよ。ほら、こっちの女子たちに送ってくださいと強請(ねだ)られて、送ったら間違えたそうよ」

「それで、なんでそのままにしていたわけ。他人の写メなんていらないじゃない」

「いや、だからさ、いきなりこんな写メが送られてきたら驚くでしょう。問いただしたくなったっていいじゃない。そのあと綾子を揶揄っていたら削除(消す)のを忘れちゃったんだよね。でも、そのおかげで顔が分かったじゃない。で、どうなの。バイト君と後輩君は同一人物なの?」


 元同僚の女性は食い入るように画像を見ていたけど、しばらくして緩く首を振ってスマホを返した。


「違うと思う」

「ほら~、考え過ぎだって~」

「うん、そうだね……」


 それでも、まだ何か気になるのか歯切れ悪く答えた元同僚の女性。だけど、高校の友人はそちらは終わったこととして、別の問題を提議してきた。


「でもさ、問題なのは三好って子のほうじゃない?」

「あー、それは言えるかも。絶対総務の何とかっていう子をだしにして、本当は自分が狙っていたんだと思うわ」

「でしょでしょ~。綾子ってば仕事モードになると、そういう機微に気がつかなくなるもの」

「あー、高校の時になんかあったの?」

「うちの高校は生徒会とは別に文化祭実行委員会が作られんのよ。綾子ってば三年間それをやってね、三年の時には実行委員長にまでなっちゃってさー」

「あー、なんかわかる。綾子も真面目だから、しっかりきっかりやり切ったんでしょ」

「わかってくれる? というか大学の時にもなんかやったの?」

「こっちはサークルの模擬店だけどさ、先輩たちも頼りにするくらいの活躍よ」

「一年から?」

「一年から!(苦笑)」


 しばらく高校の友人と大学の友人は学祭のことで盛り上がった。ふと、元同僚の女性が黙っていることに気がついた。


「ねえ、まだ気にしているの」

「あっ、違うのよ。ただね、綾子が元カレとのつき合いのことを話していたことを思い出しちゃって」

「へえ~、綾子の愚痴?」

「愚痴……というより、心情の吐露だったと思うの。別れる寸前と別れた後に言ったことなんだけどね」


 ため息を吐きだしてから元同僚の女性は言葉を続けた。


「仕事が忙しくてドタキャンを三回連続した直後だったかな『カレカノってわかんない』って言ったのね。これはさ、元カレに申し訳ない気持ちから出たものだったんだけどさ。自分が忙しいせいで、恋人としてのつき合いが出来ないって愚痴ったあとに、ぽつりと言ったのよ。そうしたら結局別れることになったわけでしょう。元カレに言われた『恋人より仕事ってどうかと思う』という言葉は、本当に堪えたみたいで『やっぱり私には恋愛は向かないのかも』なんて言ったのよ」

「それは……」

「なに、あいつってばそんなこと言ったの? これは吊るし上げ案件だわ」


 大学の友人が憤慨したように言った。


「まだ(元カレを含めて)会っているの?」

「私だけね。というか、たまたま去年の暮れに忘年会を兼ねたプチ同期会をしたのよ。……本当は言わないつもりだったけどさ、あいつってば未練たらたら発言をしたのよ」

「それって……ねえ、まさか寄りを戻す手伝いを頼まれてないでしょうね」

「頼まれそうになったけど(あいつが)言う前に『ん?』と笑顔で圧をかけたら、顔を引きつらせていたわね」

「おー! さすが!」

「そりゃそうでしょ。綾子を振るなんて何様よ。仕事が忙しくて会えないなんて、海外遠恋の私からしたら贅沢な悩みよ」

「あー、そうだったわね」


 このあと大学の友人の惚気&愚痴になり、もう遅い時間だからと二人も泊まることになった。軽く片付けて布団を敷き大学と元同僚の女性はリビングで休むことになった。


 ◇


 寝室に使っている部屋に戻った家主の女性こと、高校からの友人は床に敷いた布団に眠る綾子の顔をしばらく見つめた後、おもむろにスマホをいじりだした。



 満足した? ストーカー君


『ストーカーは酷いなー』


 じゃあ、陰険盗聴男で!


『それも酷いだろ』


 どこがよ。本当のことでしょうが!


『だけどきっかけをくれたのは……』

『( ̄▽ ̄)(スタンプ)』


 わかっているわよ。だから、綾子を幸せにしなさいよ。


『もちろん。それにしてもあれ(・・)の本性って友人も知らないんだな』


 知ってたら綾子とのことを取り持つようなことはしないって。


『それもそうか。いろいろサンキュー。これからもよろしく!』

『(=゜ω゜)ノ(スタンプ)』


 はいはい!

 (=_=)/(スタンプ)



 ◇


 スマホを閉じた女性は深々と息を吐きだした。布団に潜り込みながらこの十四年のことを思い出す。

 ……いや、ヤツと初めて会った時のことからだからもう二十四年前になるか。


 ヤツとは叔父の結婚式で初めて会った。そうヤツの叔母と叔父が結婚したから親戚となったのだ。そこから中学の時に綾子に一目ぼれしたと聞くまでは、あまり会話をしたことがなかった。


 二歳の差は大きい。結局高校の一年では綾子に認識されなかったヤツ。大学を同じにしたかったようだけど、諸々の事情で無理だった。

 バイト先で出会えたのは、行幸だったろう。でも素性を隠していたから、大っぴらに口説くことができなかった。


 綾子の元カレは……大学の友人も気がつかなかったくらいの、裏表があるやつだった。綾子とつき合うのだって、本当は賭けをしていたからだ。それを突き止めたヤツの手腕が怖ろしかったりする。

 まあそれであれこれ手を回してデートの妨害をしたのだ。


 大学の友人はいいけど元同僚の女性の鋭さには、冷や冷やさせられた。否定したけど、ほぼその通りのことが行われていたからだ。


 綾子が言った『神様もサンタクロースもいない』には激しく同意したい。


 いるのは……拗らせ気味のストーカー盗聴男だもの。

 ……いや、見方を変えれば一途よね。

 ずっと綾子一筋でいたもの。

 余所見はしないと思うから……がんばれ、綾子―!


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