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 結局最初のお店を出た後、別のお店に入るのではなく、そこから一番近い友人の部屋へと移動をすることになった。お酒やつまみを買い込んで、なだれ込んだ友人の部屋で、私は最初の虚勢はどこへやらという状態になっていた。


「だからさー、なんで告白から一気にいくわけ? もう少し段階を踏むとかあるでしょう」


 半泣きで愚痴る私に友人たちが宥めるように言った。


「でも、後輩君にとっては千載一遇のチャンスだったわけじゃないの?」

「そうよ。据え膳食わぬは~って、状態になったらさ、いくでしょ。そこは」

「それにもういい歳しているんだから、そういうことになったとしてもドンと受けいれるくらいの度量を見せなさいよ」


 何とも理不尽な言葉に、私はキッと三人のことを睨んだ。


「何よ、他人事だと思って―」

「まあまあ。でもさ、綾子は『神様もサンタクロースもいないと思っている』と言ったけど、これは神様かサンタクロースからのプレゼントじゃないの」

「そうよ。綾子へのご褒美よ、きっと」

「ちゃんと見ててくれているのね~」


 お気楽に良いこととして片付けようとする友人たち。私は立てた膝に顔を埋めるようにしてぼそりと言った。


「はじめてだったのに」


 一拍置いて「「「えっ?」」」と、揃った声が聞こえてきた。


「それを知って嬉しそうにするってなんなのよ。責任を取るってなんなのさ。こっちにだって気持ちはあるんだからー。そういうことを無視すんじゃねえー!」


 そう叫んで、私はワーと声をあげて泣いたのでした。


 ◇


「ねえ、寝た?」

「うん。(泣きつかれて)やっとね」


 綾子に布団をかけていた家主がこたつへと戻ってきた。


「綾子には悪いことしちゃったわね」

「うん。まさかさー、そんなことになっているとは思わなかったし」


 三人は深々とため息を吐きだした。


 ◇


 綾子から聞き出した話はこうだった。谷口に部屋まで送られて、飲ませ過ぎたと自覚があった彼は介抱をするつもりだったらしい。それを綾子が無自覚に煽るようなことを言って……ことに及んでしまったみたいだ。


 頭が痛い状態というのは、残業続きで疲れがピークに来ていたところに、深酒と適度な運動をしたために二人して爆睡。翌朝、寝過ごして遅刻してしまった……ことだそうだ。谷口の服装もそうだけど、前日の二人の会話を残業していた人から聞いた人たちが、昨夜に何があったのか、察するのに……ということだったみたいだ。


 そして、綾子が泣きついてきた理由。実は谷口は現社長の息子だった。会社は実力主義で創業者一族でも実力がなければ閑職に回されるというところらしい。彼は社長の息子という、逆ハンデを背負って頑張っている(つまり見どころがある)そうだ。


 それは説明されて納得したらしいけど、諸々のことからプロポーズをされたそう。ついでに、年末は押しかけてきた彼に甘やかされて過ごし、年明けで社長夫妻(つまり谷口の両親)に挨拶をし、気がついたら了承してないのに結婚することが現実味を帯びてしまい、かといって谷口に抗議しても丸め込まれて逆に話が進みそうになるとか。


 最近はクリスマスイブにサンタクロースもどきをしようとした自分を呪いたい気分の今日この頃だと、さめざめと泣いたのだった……。


 ということで、理不尽だと叫びたくもなるものだろう。


 ◇


「いやー、それにしてもまさか、ねえ」

「うん。本当に驚いたわ。元カレ(あいつ)ってば、そんなにヘタレだったのかしら」

「えっ、そっち?」

「そっちの方が重要じゃないの?」


 綾子の元カレのことを口にした女性は首を傾げた。


「そのことなんだけど……」


 そう言ったものの、続きを言わずに黙り込む女性。何やら考え込んでいるのか眉間にしわが寄っている。


「何、どうかしたの?」

「う、うん」

「珍しいわね、はっきりしない言い方って」


 二人は顔を見合わせてから、言い淀む女性のことを見た。


「えーとさ、先に確認いい? 二人は綾子とは高校からと大学からの友人よね」

「ええ、そうよ」

「仲良くなったきっかけは、私もそうだけど『長女気質』なところが気が合ったのよね」

「まあ、そうね。実際私達には下に弟妹がいるもの」


 高校からの友人と大学の友人は頷いた。もう一人の女性は少し視線をさ迷わせた後、意を決したように、二人の目をしっかりと見つめた。


「私は綾子とは前の会社で一緒だったでしょう。……それでね、私は前の会社の社長と父が遠縁ということもあって、前の会社が綾子が今居る会社に吸収合併された事情とかを知っているのよ」

「ああ、そういえば綾子が言っていたわね。せっかく入った会社が二年で無くなっちゃうって。でも、結局は社員丸ごと次の会社に移れたんでしょ」

「そうなの。前の会社の社長は体調不良から、経営を続けていくのが難しくなって、それを今の会社が丸ごと引き受けてくれたのね。前の社長も相談役として雇ってもらえたっていうし」

「へえー、そうなんだ」


 それが何の関係があるのだろうという顔をする二人。綾子と前の会社で仲良くなった女性は真剣な顔で続きを話す。


「私はみんなと違って専門学校に行ってから働きだしたの。だからあの会社にいたのは四年になるのよ。綾子は大学卒業後だから二年だったけど。それで私が会社に入った年の夏に、バイトに来た大学生の男子がいたのね。その子は社長に気に入られて、夏休みが終わってからも時間が許す限り来ていたのよ。そして三年目に綾子が入ってきて、気がついたらバイトの視線は綾子を追っていることに気がついたの。でもねえ、バイトからは何もアクションを起こさないから、私は何も言わずにただ見ていたのね」


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