第七話 黄炎のレストラン
「はぁ…なるほど。装飾品に何かしらの仕掛けがありそうだな。ただもう壊れてるが。」
情報屋がピアスの金具を拾い上げたが、何も起こらなかった。
*紫炎の門番を倒した!
…
あの時、彼とずっと走っていた気がする。がむしゃらに敵を倒そうと狂ってしまった彼と。
あの時の私は私ではないが、懐かしい香りは覚えている。
繰り返す。これは…
…
廊下に積まれた瓦礫のまえにしゃがみ、その下を調べる。血の匂いも誰かが居る気配はなく、触れればただガラガラガラと脆く崩れていくばかり。
「潰れては居なさそう。向こうに留まっても居ないか。」
廊下はこの通り天井近くまで瓦礫に塞がれて通れない。と、横に扉がいくつかあるのを発見した情報屋は、一つ一つ開くか調べていった。
「開かない。…開かない。…蹴り飛ばしてしまおうかな…。こっちも開かないか。おっ。」
瓦礫に一番近い扉。ギギギギギギ…とゆっくりと開いていく。
…
そこは食堂だった。長い長いテーブルの上に敷かれた真っ赤なクロスを、テーブルと壁に備えられている蝋燭に照らされている。
黄炎だ。
「いらっしゃいませ、お客様。」
情報屋が入ってきた扉側から見て、その奥に。テーブルに乗ってワインを持った目を瞑った金髪のメイド女が姿勢良く立っていた。
「本日の夜食メニューはレアのカニバリズム、青髪添えで御座います。」
ネーミングセンスが直球過ぎて情報屋は突っ込むことも出来ない。
「わ、私は食べることは出来ないぞ!?」
動揺してさらにノイズが混じった変な声が出たのは、恥ずかしいので言わないことにしよう。うん。
「それでもあなたは此処で終わるんですよ。」
女はにっこりと笑って、スカートの中からS&WM19を取り出して弾幕を張ってくる。弾を間一髪のところで躱すと、ジリジリと熱気を感じた。
前回の男に比べれば、ヒールを履いている為かあまり動きがない。片手がお盆に乗せたワインとワイングラスでふさがっている為二丁になることもないだろう。驚くことは無駄のない、目を閉じているはずなのに最小限の動きで躱し、ワインは一滴も零れていない。焦げた着弾点が正確に情報屋が居た場所であることだ。そして前回と同様に、ダメージは回復してしまう。糸目であるのかは確認できないが、何かしらの方法で情報屋を認識しているのだろうか。
「(音を消してみるか…)」
やられれば添えられる長い髪を全てネックの中に仕舞い、足音を消し素早く動き回る。
紫の男の音は、鈴の音しか聞こえなかった。それは膝を柔らかく曲げ、つま先だけの着地で衝撃音を消していたからである。材質が違う為完全に足音を消すことは出来ないが、物にぶつからなければ大きな音は聞こえないだろう。
女は獲物を見失ったかのか、顔を小さく振って探しているような仕草をする。情報屋は既に目の前に立っている。
「(音で感知するタイプか…目は見えていないんだな。そんじゃまぁ今のうちに…)」
静かにきょろきょろと容姿を探る。あの男と同じ仲間ならば、何かしらの仕掛けがあるはずだ。
「…ないなぁ…。」
「!…そこですね!」
「(あ、やっちまった。)」
目の前の弾幕を躱し、女も後ろに引き下がる。テーブルから降りた拍子に、黄宝石のネックレスが服の中から宙に浮いた。チェーンの長さは目測50cm。女はそれに気が付き、また仕舞いこもうとするが、ボタンを上まできっちりと閉めているおかげで中々入れられない。
チャンスと言わんばかり。女は銃に当たるチェーンの音で周りの音は聞こえていない。
「近距離戦に持ち込んでしまえばこっちのものだ。」
振りかざしたサバイバルナイフが胸めがけて振り下ろす。とっさに薙ぎ払われた果物ナイフが金属音と火花を散らす。だんだんと情報屋が女を壁際へ押していく。まだネックレスを仕舞い切れていない。だんだんと宝石に亀裂が入っていく。
ついには内開きの扉に背が付いてしまう。女は、ままよと情報屋の額に銃を突きつけようとした。
しかし、その銃が火を噴くことは二度となかった。火を噴く前に、刃がネックレスのチェーンを破壊していたからだ。
テーブルの蝋燭が儚く燃え尽きていた…。
二人目の刺客を倒し、奥へと進んでいく情報屋。玉座のまえの大広間で待ち構えていた刺客に上手を取られ追い詰められる。
そこへ現れたのは…
次回「青炎の忠誠」