第四話 探し物
「名前が思い出せない?」
「らしいんだよぉ。他にもいろいろ聞こうとしたんだけどぉ、何も覚えてなかったぁ…。」
「困ったな。それじゃどうしようもないぞ。」
この男、killer(以後K)が、一階の真っ白な診察室で腕を組んで困り果てていた。情報屋は連れてきたのにもかかわらず平然とその場に立っている。
「記憶喪失だろう。何かしらの刺激で案外ポンと思い出すかもしれない。」
情報屋は青年が寝ているベッドの横にあった丸椅子に座って脚を組んでいる。膝の上には薄いノートPCがバランスを取ってぐらぐらしている。
「そうは言うが、どういう刺激だ情報屋。お前は何か策はあるのか?」
「容姿で幾分か住処の検討は付くだろう。連れて行けば思い出すんじゃないかと思うんだが。」
「って言ってもねぇ…龍人みたいな尻尾とか角の痕跡はないしぃ…怪我の具合から見て龍人が化けているわけじゃないねぇ。人間っぽいよぉ?」
三人でじーっと青年を見るが、何もわからない。その顔はなんだか似ていてまるで兄弟そのものだ。特に情報屋とKは双子のような、ポーズさえも立っているかか座っているかの違いだけでほぼ一緒だ。
「…。」
青年は戸惑いを隠せず、布団の端を握って少し縮こまってしまう。
「でかい耳もない…いや待て、耳尖ってないか?」
「あ、ほんとだぁ。人間じゃないんだねぇ君ぃ。」
「いーってしてみろ。いーって。」
とKが歯を見せる仕草を見せる。肉を引き裂くような太く鋭いキバが四本ほど見えた。
青年が歯を見せると、ほっそりとしたしかしながら鋭いキバがあることが分かった。Aは顎に手を当てて、不似合いなサイズの大きい白衣の裾を床で引きずりながらうろうろしている。
「この牙はねぇ…えっとねぇ…吸血鬼ぃ?」
「吸血鬼だと血筋まで絞れるぞ、そいつの耳の後ろに黒い髪はあるか?」
この中で一番幼いであろう白衣を着た男子Answer(以後A)が青年の耳の後ろを覗き込んだ。その間、情報屋はPCのキーボードを叩いて何かを探している。
「あぁ!あるよぉ。すっごく短いけどぉ。」
青年の耳の後ろには隠すように短く切った黒髪が生えていた。まじまじと見られて青年は少し恥ずかしそうに顔を布団に隠している。
「決まりだ。」
Kが指をパッチーンと鳴らしてすっきりしたような表情を浮かべたが、情報屋はPCを見つめながら顔を曇らせた。
「…本当に何も覚えていないんだな。」
PCの画面には、燃え上がり崩れる城が一面を飾る新聞が写されていた。場所は「Night王国」と呼ばれている獣人が主に定住している昼のない空間、もとい地域である。何の前触れもない事件に自然的な発火なのか、故意の放火なのかはまだ原因分梨乃為圧覚に至っていないらしい。しかし、たとえその地域の住民でさえ城に入ることすら現在は不可能である為、初歩的な調査すら難航している、と言う事だった。
「Marsの新聞はやっぱり伝達が早いよねぇ。」
「あの女王の包囲網から逃れられているのは俺らぐらいだ。」
「なにか分かったんですか?僕にも教えてください。」
青年がPCをのぞき込む。が、頭には「?」しか浮かばなかったようで、すぐ引っ込めてしまった。
「これだけじゃ何も思い出さないか。ならこれならどうだ?」
情報屋はキーボードをタップし、ある人物の画像を表示して見せた。青年と同じような白い髪と、耳の後ろから伸びた黒い髪、執事服を纏った彼は、青年とそっくりの貴族服を着た人物の斜め右後ろに立っている。場所は煌びやかな装飾がされた白いバルコニーのような場所に見える。
青年はこの画像を見て固まった。
その執事服の人物は、先程目覚めかけた時に見えた人物とそっくりだったからだ。
獣人、私達で言う空想の生物たちが住むという魔性の国。真っ暗な夜の中、宝石のランタンを持って進む情報屋と青年。燃えたはずの城は別の何かに変化していた。
次回「黒魔族の城」