第二話 雪と宝石の森
「おかえりなさぁーいぃ!」
玄関を開けて踏み込むと、藍色の髪でサイズの合わない白衣を羽織い、こんなに外は寒いのに半そで半ズボンの男子が情報屋に抱き着いていた。
「もぉー情報屋さんどこ行ってたのぉ!?心配したんだからねぇ!?」
「…ちょっとそこまで。」
鬱陶しいと言うように、情報屋は白衣の男子を引き剥がして奥へ入っていった。
「ちゃんと定期健診受けてよねぇー!聞いてるぅ!?」
「気が向いたらな。」
エレベーターと向き合って、男子に背を向けたままぶっきらぼうに返事をして、そのまま灰色の箱の中に消えていった。
最上階の一つ下。電子ロックの金属扉を開き、目の前から飛んできたナイフを手で握り止める。自分で作ったトラップだ。奥の机に座って電源を入れる。目の前の空中に投影されたいくつものPCのようなウインドウが浮かび上がり、その画面の中で動く物体が二つある。
『オ帰リナサイマセ、ゴ主人様。メッセージヲ一件受信シテイマス。』
『ご主人おかえりー!んじゃ早速ウイルスチェック開始ー…大丈夫そう、このメッセージはスパムじゃないよー。』
「そりゃどうも。表示してくれ。」
知らないアドレスの内容は『各国への緊急信号』だった。誰が出したかは分からない。このご時世、どこも助けてくれないだろうに、まぁご愁傷様…
「ん?ちょっと待て。ッどうしてこの緊急信号が、この場所にジャストで送られてきているんだ。」
この世界ではアドレスは相手のアドレスに向かって出すのではなく、国の座標、住所を指定する。国は時期に寄って場所が移動し、予想のみで位置を把握することが難しいこともあり、郵便鳥を飛ばしていたのだが、現在では無線が流通したことで、その位置を把握するための三次元地図が存在する。地図上の国の様子は全く異なる為、間違えて送ることはあり得ない。日に数ミリしか動かないので、その場所に送った時には別の国がそこにあったなんてこともない。そして
「此処にはもう国がないんだぞ。此処に送る馬鹿が何処にいる。」
そうここには国がない。正確に言えば、人間の国が数年前まであったのだが、既に記録上では滅んでいる。記録上では、とはその国を治めるに値するモノが居るかどうかという話で民が残っていてもお構いなしに滅亡と言うのだが、ここはまた事情が違う。ここにあった国は…いや、この森、泉は、長が居なくなったこの国を民をじわじわと殺して土へ埋めていったらしい。そのせいなのか、野生動物と彼女ら以外、この場所に誰一人として居ないし、この森にだけ実る宝石には赤系統が多い。近くの郊外のお陰で気候異変が起こり、ずっと雪が降る此処得た森になってしまった。雪が降っていても葉が付いているこの森は雪と共に夜でも輝いている。
『でも偽物には見えないですよ、これ。』
「欲しい情報に関係なさそうだ…無視でいい。一応ロックをかけて置いておけ。」
そう言って机から離れ、部屋を出ていった。今日も進展はない。
森を散歩、もといパトロールをする。現在の最高国家の付近に存在するこの森は、たとえ雪が降っていて凍える様に寒くてもここに来る馬鹿な人間共は沢山居る。迷い込んでくる異世界人を除くが。
「…喧しい発砲だな。狩人じゃないな…?」
何かを殺すように鳴り響う発砲音。草を踏み荒らす複数人の重い足音と、それに紛れてリズムの狂った足音が聞こえる。
黒い装束に身を隠した青年が走り去る。狂ったように吠える野郎共が森の動物たちを巻き込んでいる。夜、月のない夜。物語が始まろうとしている。
次回。「白い君」