第十話 二つの貴族
「…ほう、双子だったのかお前ら。単に顔の似た別の血筋なのかと思っていたが。」
「お父様がお亡くなりになるまでは僕らは双子として育てられていました…」
昔々。ダイヤモンドの翼を持つ奇代の王がこの国を治めていました。その名をディアマンテと呼ばれていました。
ディアマンテは一族のしきたりによって一人パートナーを選ぶことになりました。この国ではパートナーを選ぶ際、男でも女でも、性別を気にしません。異国のモノには少し違和感を感じるでしょうが、二人が仲睦まじく幸せであれば、民も祝福してくれる。それでいいのです。
彼は紫色の美しい宝石の首飾りを付けた女性をパートナーに選びました。彼女は王の幼馴染で御座います。
そして生命の樹はご存じでしょうか?この世界では結ばれた夫婦が祈りを込めて印をその樹の枝に一つ結ぶことで子を授かるのです。
双子が生まれることは滅多にないのですが…僕らは一つの実から生まれた二人なのです。父からは宝石の翼を授かり、母からは赤と青に分かれたこの翼の色を授かりました。
先ほども言ったように、お父様がお亡くなるまでは僕らは二人とも一緒に育てられていました。
そのあと僕らは議会の貴族たちによって引き離されてしまうのです。権力争いの内戦がおこったのです。炎は上がりませんでしたが、議会は酷いものでした。僕はその時、手を回していた貴族たちにやとわれた盗賊に誘拐されて、お兄様と離れ離れになってしまったのです。僕はもう悔しくてたまらず、そして何よりお兄様が心配でいても立っても居られない日々を過ごしました。
この時僕らを世話してくれた執事さんも追放されてしまったらしく、即位したばかりのお兄様を支えるの貴族は議会の中に数人しかいません。後は全員何とか引きずりおろそうとする欲張りモノばかりです。
逃げ戻らない様にと、暫くは貴族たちの地下牢に鎖で繋がれていましたが、なんとか番人から錆びた鍵を盗んで、万人が無くした鍵を探している間は自分の口の舌の裏や上顎に隠していました。あの味は二度と口に入れたくないモノです。
何とか逃げ出しても、向かう先は城なんかじゃなりません。服はひっぺ返されて奴隷服を身にまとっていましたから、こんな状態で城に戻れば泥棒扱いかまた貴族たちに連れ戻されるオチです。執事が居ない今、代理が居るだけでそこは本当は未だ空席でした。
なら、執事の資格を取ればいい。まだ僕らは勉強盛りの年でしたから何が何でも勉強に嚙り付きました。そしてようやく僕はお兄様の執事として戻ってこられて、今また王の衣装を着させてもらっています。
「…もうあの貴族共も居ないからな。あの火事で何人死んだか。」
赤い瞳の王はそう呟いた。
「失礼だが、名前も思い出したのか。」
「あぁ…クレイノッド族のルビーノ。」
「僕はザフィーロって言います。前まではサピロスと名乗っていました。」
玉座に向かう一行。硬い革靴が大理石の上に敷かれた絨毯の上を鳴らす音が高い天井に反響する。
「この城を乗っ取ったのは、お兄様の記憶を奪ったのはお父様とその昔、長年権力争いをしてきた僕らとは違うもう一つの貴族の生き残りです。」
「この先にその生き残りが?」
「いいえ、彼女も死んでいる。魔術によって蘇生されたのでしょう。先程の彼によって。」
あぁそうか。あの青薔薇はそういう意味でもあったのだ。
青薔薇の花ことばは「奇跡」、「神の祝福」である。この世界で神でなんて見たことはないが…彼女は覚えもない記憶の中に一人の神を見ていた。そして共に歩いていた人狼や仲間たち…しかし彼女はやはり思い出せなかった。
「…忠誠による行動、か。皮肉なもんだ。」
「彼もまた仕える側として潜り込んでいたのです。お父様の時からずっと辛抱強くチャンスを待っていたのです。」
目の前に見えるのは大きな金属の飾りが施された重たそうな両開きの扉。
ゆっくりと押し開いていく。
中は紅い炎が灯り、真っ赤な月の灯りが中を照らしていた。
高い階段の上にある金の枠に真っ赤なクッションの玉座に、釣り合わないモノが足を揺らして座っている。その足は床に着いておらず、腰幅も余っている。赤を基調としたドレスに白と、青と星が混ぜられている。胸には大きな朱色のリボンがあしらわれ、三十の魔よけの赤珊瑚の首飾り、頭には月の飾りが着いたカチューシャが付けられていた。
少女は逆光でほとんど影しか見えない。目は紅く輝くだけでその目に生気はない。背丈は少し小さめだが中学生くらいだろうか。
「あら?お客様?…うれしい!沢山遊びましょう!」
幼げな声を発した少女は元気よく椅子から飛び降り宙を舞う。
その直後に降りてきたのは、攻撃性のある魔法弾だった。
ついに決戦。飛び回る少女の奇怪な動きに翻弄された一行が出した手段とは?
次回「獣人と夜の国 Night王国」




