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悪役令嬢の品格-読者様への感謝を込めた短編集-  作者: 幸路 ことは


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一味違うとか、そういうレベルの話じゃない

三題噺の題を募集した時に、悪役令嬢の品格もリクエストを頂いたので更新しました(*´ω`*)

二話連続のお話と、そのうちあと一話投稿します。

 そよそよと温かな風が吹き込む昼下がり。ラルフレア王国は春が過ぎ、夏の気配が近づいていた。クリスはふっと覚醒して、ゆっくり目を開けた。半分寝ている頭で周りを見回し、仕事をしていて眠くなったから仮眠を取ったことを思い出す。


(眠気覚ましに、エリーを誘ってお茶をしようかな……)


 エリーナは今年学園に入学したばかりで、今日はお休みのため屋敷にいる。きっと大好きなロマンス小説を読んでいる頃だろう。クリスはソファーから起き上がると、体を伸ばした。


(本格的にゲームのシナリオが始まったし、誰が本命か探りださないと)


 エリーナは数々の乙女ゲームで悪役令嬢を演じてきた自称プロの悪役令嬢であり、今回はヒロインとして生きている。クリスも同様に多くのモブキャラとして乙女ゲームを経験し、今はエリーナの幸せのために側で見守っていた。そのため、エリーナがどの攻略対象と結ばれたいかが重要になってくる。


(全員攻略キャラは出たし、ラウル先生とも再会したから、気になる人くらいいないかな)


 それによって今後のクリスの行動も変わってくるのだ。そんなことを思いながら、水差しから水を一杯飲んで頭をすっきりさせていると、ドアがノックされた。


(エリーかな)


 そう思いながら返事をすると、ドアが控えめに開けられた。そこからひょこっと顔がのぞく。


「クリス~、ちょっといい?」


「……え?」


 入って来た見知らぬ人物に、クリスは目を丸くする。あやうくガラスのコップを落としそうになった。見覚えのない男の子に、クリスは首を傾げた。


「誰?」


 プラチナブロンドの髪は首筋で整えられ、動くたびにさらさらと流れる。瞳は紫で、くりっと大きい。顔は小さく全体的に細身で、身長はクリスより少し低かった。少年から青年に成長している途中という感じで、可愛らしいという表現が似合う。そんな男の子の目が、びっくりしたように見開かれた。


「何言ってるのさクリス~。エリオだよ、エリオ・ローゼンディアナ。何の冗談なの?」


「え、えぇ?」


 言われてみればエリーナに似ているので親戚のようにも見えるが、ローゼンディアナ家に男の子はいない。その辺りはしっかり調べがすんでいる。だからクリスが養子として迎え入れられたのだ。


「あ、さては寝てたんでしょ。クリスはすぐ寝ぼけるからな~」


 あははと笑うエリオという謎の人物に、クリスは大混乱だ。


「え、エリーナはどこ?」


「エリーナ? 誰それ。ねぇ、それより、聞いてほしいことがあるんだよ。サロンでプリンを食べながら話そうよ!」


 エリオは照れ臭そうにはにかみ、クリスの手を引っ張った。上機嫌でぐいぐい引っ張っていくエリオのプラチナブロンドの頭を見ながら、クリスはじわじわと嫌な予感がしていく。


(プリン? こいつもプリンが好き? というかエリーナがいないってどういうこと?)


 不安に襲われながらサロンに入ると、エリオが先程までいたようでティーセットとプリンがテーブルの上に並べられ、ソファーには本が積まれている。なんだか見たことのある光景だ。


(エリーナの休日スタイル)


 休みの日はサロンでロマンス小説を熟読し、プリンとお茶を堪能する。それが至福の一時だと話していた。その本の間にエリオが座り、向かいにクリスが座った。すぐにサリーがお茶を淹れてくれる。サリーはエリオに何の疑問も持っていないようで、「お代わりもありますよ」と声をかけていた。


(あの本、エリーナが好きなロマンス小説だ……)


 エリオの脇を固めるように積まれた本たちは、全てエリーナがローゼンディアナ家から持ってきたものだ。


「クリスもプリンをどうぞ。休みの日は、ロマンス小説を読みながらプリンを食べるのにかぎるよね」


 満面の笑みでプリンが入った器に手を伸ばし、愛おしそうに眺めてからスプーンでひとすくい。ぷるんとした弾力を返すプリンは、カフェ・アークから取り寄せたものだ。


(カフェ・アークはエリーナのために買ったのであって、こいつのためじゃ……ん?)


 ぱくりと口の中に入れたエリオは、目をぎゅっと瞑っておいしさに震えていた。


「ん~! おいしすぎる~! 最高のプリンだよ」


 蕩けるような笑顔になったエリオはエリーナの表情にそっくりで、クリスは固まる。勘のいいクリスは理解してしまった。


(……え? まさか、エリーナ? 男になっているの!?)


 髪と瞳の色が同じである上、ロマンス小説とプリンが好きな人物はエリーナ以外考えられない。


(え、なんで? ここは乙女ゲームの世界だし、何が起こっても不思議じゃないけど。あの可愛いエリーはどこ!? 一味違うとかそういうレベルじゃないんだけど!)


 乙女ゲーム世界の中には魔法が使えるところもあったので、クリスは不可思議なことへの耐性はある。それでも衝撃のあまり言葉が出なかった。その間にエリオはプリンをぺろりと平らげ、器を置くとクリスに視線を向けて恥ずかしそうに口を開く。


「あの、それで聞いてほしいことなんだけど……」


「…………え、何?」


 クリスは現実に引き戻されたが、顔を赤らめているエリオを見てエリーナは男になっても可愛いなと思うほどに、まだまだ混乱していた。そんなクリスの状態を知らないエリオは、もじもじしながら「えっとね」と話し始める。


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