プリン姫の冒険 お正月スペシャル
お正月短編です。
ここはスイーツの世界。おいしいスイーツがたくさんあるところです。プリンが大好きなプリン姫はふるさとの国を出て、バニラビーンズ女騎士と旅をしています。世界中の人たちをプリンで幸せにして、いなくなったお姫様を探す旅です。
プリン姫はゆるふわの髪はプラチナブロンドで、瞳はアメジストのようなきれいな紫。可愛く愛されるお姫様です。小さくて茶色いベレー帽を頭に乗せ、クリーム色の白いレースがふんだんに使われたドレスを着ています。
バニラビーンズ騎士は茶色く長い髪をポニーテールにして、動きやすい騎士団の服を着ていました。パンツ姿はかっこよく、いつも姫を守っています。
そんな二人は、ワガシール帝国にやってきました。竹林を抜けると、見たこともない世界が広がっています。
「わ~。すごい、変わった服に家だわ」
ワガシール帝国に入ったプリン姫は、自分の国と違う文化にびっくりしました。
「姫、あれは着物というんですよ。それに屋根に乗っているのはかわらと言います」
「すごい、バニラビーンズは物知りなのね!」
姫がすごいすごいと褒めると、騎士は照れくさそうに笑いました。
二人はにぎわっている道を歩きながら、並んでいる屋台を見ていきます。どれも初めて見るものばかりで、かわいい小物においしそうな食べ物。何を食べようかなと思いながらプリン姫は、広場のほうへ歩いていきました。人がたくさんいて、言い争うような声が聞こえてきます。
「……何かあったのかしら」
世界をプリンで平和にするプリン姫は、争いごとを見逃せません。人をかき分けて進むと、広場の中央に男の子が二人いました。周りの人は心配そうに二人を見ています。どうやら口喧嘩をしているようで、ここまで二人の声が聞こえてきます。
「だ~か~らぁ! もちは、スイーツだって!」
「いや、もちはご飯だろ。主食だ!」
二人の男の子顔はよく似ていて、双子のようです。ぷっくりとふくよかな体形で、着物の上に布団のような羽織をはおっています。プリン姫はとてもやわらかくて、あたたかそうだと思いました。
「だから兄さん、もちはスイーツ! だって、砂糖醤油にあんこ、きな粉も甘いでしょ! 甘いからスイーツだよ」
「いいや、お雑煮は味噌汁にもちを入れるんだぜ? 味噌汁はスイーツか!? もちろんすまし汁でもいい」
二人はもちについて言い争っているようで、プリン姫はもち? と首を傾げました。バニラビーンズ騎士は姫専用のプリン椅子を出して姫を座らせると、「少々お待ちください」とどこかへ姿を消しました。その間にも言い争いは激しくなっていきます。
(もちって、何なのかしら)
二人の話を聞いていると、お腹が空いてきました。
「姫、ただいま戻りました。もちセットでございます」
ちょうどいいところにバニラビーンズ騎士が戻り、木のトレーにはいくつかの食べ物が乗っています。
「あら、それがもちなの?」
「はい。お汁粉、お雑煮、焼きもちはクルミ、大根おろし、きな粉、砂糖醤油を選びました。それにお団子も勧められたので、みたらし団子を買ってみました」
さすがバニラビーンズ騎士。プリン姫が食べたくなると考えて、用意したのです。
「変わった食べ物ね」
まずはご飯だと言われていたお雑煮を食べてみます。お箸が使いにくいですが、プリン姫は頑張ります。はむっとかじりつけばみょーんと伸びて、姫はびっくりしました。
「すごい!」
この国伝統の料理である味噌汁もおいしく、健康そうな味です。そしてスイーツと言われていたもちはどれも甘く、団子はもちもちとした食感がたまりません。全部食べたエリーナはお腹がいっぱいになりました。双子の言い争いはまだ続いています。もちはご飯と叫ぶ兄が、もう一人にビシッと人差し指を突きつけました。
「あのな! 最後に言わせてもらうけど、もちは何からできてんだ? 米だろ! 米はスイーツじゃない。主食だ!」
「……う、うるさい! そんなこと言ったら団子だって米の粉からできてるけどスイーツじゃん!」
「団子はな! けど百歩譲っても団子はスイーツじゃなくて、和菓子だ! 同じ米の団子が和菓子なんだから、もちは主食でいいだろ!」
スイーツの弟がガクリと膝をつきます。悔しそうに拳を地面に打ち付けました。プリン姫はずずっと煎茶を飲み、湯飲みを騎士に預けると立ち上がって二人へと近づいて行きます。
「ひ、姫?」
「ねぇ、二人とも。話は聞かせてもらったわ!」
突然入って来たプリン姫に、兄弟は驚いて顔を向けました。
「な、何?」
「何だよ」
「おもち、おいしいわね。雑煮にお汁粉、焼きもちと食べたわ。確かに主食にもなるし、スイーツともいえるわね」
おかげでお腹がはち切れそうなプリン姫です。
「でもね。こんなことで喧嘩するのは間違ってると思うの。せっかくのおもちがおいしくなくなっちゃうわ」
「勝手なこと言わないでよ」
「お前にもちの何がわかるんだよ」
二人の怒りがプリン姫に向けられ、バニラビーンズ騎士は顔を青くします。止めに入ろうか迷いますが、子ども同士の言い合いです。それにプリン姫は平和を愛する姫。ここは任せて見守ることにしました。
「そんな小さなことで争うなんて、もちが可哀想だわ。いい? ご飯も、スイーツも、無くてはならないものよ! 食べたら人は幸せになれる。おいしいご飯に甘いスイーツ。一番はもちろんプリンよ! プリンはもちろんスイーツだけど、団子やおもちに負けない種類があるし、何より奥深いわ!」
いつの間にかプリン語りに変わっていて、二人は目を丸くしています。プリン姫はつい熱くなったわと、コホンと咳払いをしました。
「ねぇ、弟君。甘いお餅を食べると幸せになれるでしょ?」
「う、うん」
「それに、お兄ちゃん。お雑煮はたくさん栄養も取れてお腹がいっぱいになるわ。最高じゃない」
「当然だろ」
二人は姫の勢いに押されて、頷きます。
「なら、それでいいじゃない。むしろ、ご飯にもスイーツにもなれるもちに感謝しなさい! そして、おもちと団子を生み出してくれるお米を崇めるのよ! ご飯が主食だからなんて考えは捨てなさい。お米がなければ、おもちも食べられないのよ!」
ちょっと強引な話ですが、二人は感じるところがあったようで、ハッと何かに気が付いた顔をして頷いています。そして顔を合わせると、決まりが悪そうな顔をしました。
「兄さん……ごめんね。確かに、磯辺焼きもあるもんね」
「俺こそ言い過ぎた。もちは最高……それでいいよな」
二人は仲直りの握手をして、笑い合いました。それを見たプリン姫もにこにこです。
「そう! それに、さらにもちの素晴らしさを広めるために、もちプリンを作ればいいのよ! 伸びるおもちの中に、プリンが入ってるの。甘いものが合うのだから、絶対プリンもいけるわ!」
「……もちの中にプリン? 大福みたいなこと?」
「いや、プリンってあれだろ? プルプルのやわらかいやつ。んなもん入れたら、かぶりついた瞬間溢れるだろ」
どうやらプリンはワガシール帝国にもあるようで、プリン姫の提案に二人は難しい顔をします。
「あ、でもみたらしみたいに固めにすればいいかも」
「ん~。逆に、プリンの中にもちをいれて伸びるプリンにするとかもありか?」
「それいいね」
二人はどんどんアイデアが湧いてくるようで、仲良く新しいおもちについて考え始めました。これで一安心。周りの人たちもほっとして、その場を離れていきます。バニラビーンズ騎士がプリン姫に近づいて、優しく微笑みかけました。
「すごいですね、姫。これで平和に少し近づきましたよ」
「そうね! プリンは偉大なのよ! プリンがあれば世界中が笑顔になるんだから!」
こうして、ワガシール帝国での小さな騒動は終わりました。プリン姫の冒険はまだまだ続きます。
「めでたし、めでたし」
パタンと絵本を閉じて、エリーナは瞼が閉じかかっている5歳の息子の頭を撫でた。すぐにユアンはすやすやと寝息をたてる。
「お母様、わたくしも寝ますね」
隣のベッドでは、ユアンの姉であるアイリスが読んでいた本を閉じて、ベッドの中にもぐりこんだ。アイリスは8歳で、少し分厚い本は子供向けのプリン姫の冒険だ。
アイリスは布団の中から顔だけを出して、眠たそうな声を出す。
「ねぇお母様、聞いていたらおもちが食べたくなりましたわ」
「あら、いいわね。ちょうど明日マルクが餅つき大会をすると言っていたから、たくさんおもちが食べられるわよ」
「ほんと? 楽しみにしますね」
もうすぐ年明けで、ここ数年マルクはこの時期になると若い料理人たちを誘って餅つき大会というものをしていた。もち米を輸入し、きねとうすは特注品だ。少し食べにくいが好評で、保存食にもなると屋敷の冬の風物詩になっている。
エリーナはアイリスにふわりと笑いかけ、側に寄って頭をなでた。嬉しそうに笑う姿を見ると、まだまだ子供だと思う。
「さぁ、早く寝て」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
アイリスが目を閉じたのを見届けると、エリーナはサイドテーブルに置いてあるランプを消し、静かに部屋を出た。隣の部屋が二人の寝室で、入ればソファーに座って赤ワインを飲むクリスがいた。
「子どもたちは寝たの?」
「えぇ、アイリスがおもちを食べたいって」
エリーナはクリスの隣に座り、肩に寄りかかる。結婚して時間が経てば、甘えるのも自然になる。
「あぁ、もちつき大会は明日だっけ……ほんと、どんどん日本文化が増えるね」
リズとマルクは子どもが出来てから、屋敷とは別棟の家族用の住居に住んでいる。複数の家族が住める大きな家であり、二人は長屋みたいと言っていた。そしてその内装は自由に変えることができるため、二人はお金を貯めて徐々に日本風にし始めたのだ。
「あの畳とこたつはびっくりしたわね。家の中で靴を脱いで、床に座るだなんて」
「うん……でも悔しいけど、あのこたつは魔界だったね。あの温かさはずるいよ」
今は冬。暖炉に火が入り、部屋は暖かいがこたつには負ける。さすがに電気はないので炭を使ったこたつだ。
「文化って色々なのね」
友達として一緒にいた時はあまり気づかなかったけれど、専属の侍女になりさらにマルクと結婚したことでさらに日本の色が強くなった。だが決して嫌ではなく、新しいものを知ることができる喜びが大きい。
「まぁ、僕たちも色々な文化があるところを体験してきただろ?」
それこそ、魔法があったり時代が違ったり色々だ。
「……それもそうね」
そこでエリーナは一度言葉を切り、じっとクリスの顔を見つめた。クリスはどうしたのと小首を傾げ、ワイングラスをテーブルに置く。
「今まで色々な世界を見てきたけど、やっぱりクリスがいるこの世界が一番好きだわ」
少し照れた顔でエリーナが伝えれば、クリスは嬉しそうに微笑んでそれ以上の愛を返す。
「……もちろんだよ。今までいろんな悪役令嬢のエリーを見てきたけど、今のエリーが一番好き」
今日もクリスの愛はストレートで、エリーナは頬を赤らめた。
「赤くなってるエリー、かわいい」
クリスはおもしろそうに喉の奥でくつくつ笑い、そのおいしそうな頬に軽く口づける。どれだけ時が経っても変わらない。むしろどんどん甘くなる幸せな二人だった。
あけましておめでとうございます。浮かんだので更新しました~。皆さま、今年もよい年になることをお祈りしております! お体に気を付けてお過ごしください!




