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悪役令嬢の品格-読者様への感謝を込めた短編集-  作者: 幸路 ことは


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悪役令嬢レッスンを開きましょう

「お~ほっほっほっほ~。高笑いは悪役令嬢に必須ですわ」


 ここはバレンティア家。天使のような双子の前で、エリーナは悪役令嬢の高笑いを披露する。ローズとリリーは目を輝かせ、口元に手を当てて胸を張った。声が揃う。


「お~ほっほっほっほ~!」


 可愛い鈴のような声なのに、しっかり棘があった。さすがルドルフの妹とエリーナは感心する。エリーナは17歳、学園二年目であり、本日はルドルフにバレンティア家へ招かれていたのだ。だが肝心のルドルフに外せない用事が入ってしまい、エリーナは双子ちゃんと遊ぶことになったのだった。


「次は、次は~?」


 二人はベロニカのような悪役令嬢に憧れているらしく、エリーナに悪役令嬢ごっこをしようとせがんだ。エリーナの得意分野であり、断るはずがない。しっかり悪役令嬢に育ててさしあげますわと、こうやって悪役令嬢レッスンが開かれているのだ。


「次は表情も付けますわよ。斜めを向いて、首に角度をつけて見下ろすんですの。背の高い相手は睨みあげてもよろしくてよ。御覧くださいませ」


「……ひゃっ!」


 エリーナが本気の悪役令嬢面を見せると、双子はびくりと肩を震わせた。可愛そうなのですぐ笑顔に戻す。


「おほほほ。これぐらい、練習すればできるようになりますわ」


 それがどこで必要になるのかというツッコミは、ここには存在しない。そしてしばらく表情やセリフの言い回しを練習し、配役を決める。じゃんけんで負け、ヒロイン役になったリリーは不満げに頬を膨らませていた。後は男役を待つのみだ。

 双子からやりたいシナリオを聞いていると、ドアが開く。


「エリーナ嬢、遅れてすまない。どうしても断れなくて……」


 と急いで部屋に入って来たルドルフの足元に、リリーがしがみついた。


「ルドルフ様!」


「え、リリー?」


 いつもはお兄様と呼ぶのにどうしたと、ルドルフは目を白黒とさせリリーに、ついで二人へと視線を向けた。二人は威圧的な笑みを浮かべ、ローズが一歩前に出る。


「あらリリー。そうやっていつもルドルフ様に泣きつくのね。エリーナ様に恐れをなしてるんでしょ」


 ローズは取り巻き令嬢役である。


「ローズも、どうした……?」


 戸惑うルドルフには一切説明をせず、悪役令嬢劇場が幕を開けた。エリーナが扇をパサリと開き、憐れみの眼差しをルドルフに向ける。


「ルドルフ様。そんな小娘に付きまとわれては迷惑でしょう? 早くわたくしと婚約しないからですわ」


「……エリーナ嬢」


 小道具の扇子を持って意地悪な笑みを浮かべるエリーナに、ルドルフもやっとこれがお遊びだと理解する。一つ間を置いてから、リリーを見下ろしてその肩に手を置き引き寄せた。頭の良いルドルフは瞬時に自らの立ち位置を理解する。


「リリーは俺が心を預けた人だ。君のように冷酷な女と婚約する? 馬鹿なことを言わないでくれ」


 順応の速さにエリーナは驚き、にんまりと口元に弧を描く。ルドルフには見えなかったが、隣に立つローズはしっかり見ており、真似て表情を作った。そしてルドルフにすり寄ると、腕を掴む。


「ルドルフ様、リリーは卑しい女ですわ。これはルドルフ様のためを思って言っているのですよ」


 ローズは真剣な目をしており、迷いが無い。迫真の演技にエリーナは素質があると内心拍手を送っていた。そのローズをリリーが睨みつける。


「誰が卑しい女ですって!? 確かにわたくしの母は庶民の出ですわ。でも、その心は半端な貴族よりは気高いものよ!」


「おだまり! あなたがルドルフ様の側にいるだけで、虫唾が走るわ。あなたがエリーナ様の前に立つことも許されないのに!」


 姉妹とあってお互いに一歩も引かない。妹が可愛いルドルフは腕に絡みつくローズを振り払うこともできず、二人の間で揺れ動いていた。そこにエリーナの愉快そうな声が割って入る。


「ローズ、お猿のリリーに何を言っても無駄よ。その子には、貴族の格を教えないと」


 そしてゆっくり扇子を閉じ、すっと先を三人に向ける。


「ねぇ、ルドルフ様。そんな貧乏人の手を取ったら、貴方の人生は真っ暗ですわ。でも、わたくしなら公爵家の娘として恥じない働きをしますし、父は持参金代わりに鉱山でもとおっしゃってますわ。貴方の伯爵家にとってもいい話でしょう?」


 設定を理解したルドルフは眉間に皺を寄せ、怯えるリリーを強く引き寄せた。心を鬼にして、優しくローズの手をほどく。目でごめんと謝っておいた。


「そんなもの、愛しいリリーと比べれば意味はない。リリーの心は美しい。俺の苦しみを理解してくれたのはリリーだけだ。だから俺はリリーと共に生きる!」


 そう高らかに声を張り上げたルドルフに対し、距離を置かれたローズが悲壮な顔になって睨みあげる。


「血迷ったのですか!? 歴史ある家を継ぐ貴方が、そんな女を選ぶなんて!」


「歴史がなんだ。リリーの方がよっぽど大切だ。俺は、リリーがいるなら市井でも生きていける!」


 そう強く言い切ったルドルフに、リリーが満面の笑みで抱き着いた。だがすぐさま二人に向けて勝ち誇った笑みを浮かべる当たり、悪役令嬢よりのヒロインになっている。

 悪役令嬢の二人は悔し気にリリーを睨みつけた。それに対し、ルドルフがすっと表情を引き締めて鋭い視線を向ける。


「そして、今まで散々俺の邪魔をし、リリーを苛めたお前たちを許すつもりはない。お茶会でリリーを池に突き飛ばし、夜会では他の男をけしかけてリリーを攫おうとした。この罪は重く、明らかになっている!」


 ルドルフがしかけ、劇場は終わりに向けて突き進む。悪役令嬢の二人は驚いた顔をして、視線を交差させる。ローズが目を潤ませて、二人を見上げた。


「そんなことしておりませんわ。リリーの勘違いです。エリーナ様はルドルフ様を想って……」


 切々と訴えるローズに対し、エリーナはふんっと鼻で笑って、好戦的な表情をしている。


「やるならやってみなさい。伯爵家にどうこうできると思えませんけどね」


「俺もそこまで馬鹿ではない」


 ルドルフは懐から封筒を一つ取り出し、ローズに手渡した。ローズはそれを開けて目を通し、真っ青な顔でエリーナに顔を向ける。


「どうしましょう! 殿下の名前で私たちを拘束するように書かれていますわ!」


 もちろんその手紙の中身は、あとでエリーナに渡すつもりだった次の夜会の招待状だ。エリーナは大げさに驚いて、ローズに駆け寄る。


「何ですって!?」


 そしてローズから手紙を受け取って目を滑らせ、崩れ落ちた。そこにルドルフが冷たい視線をぶつける。


「分かれば大人しく家へ帰れ。夜にでも迎えがいく。それまで反省して待っているんだな!」


 ルドルフがびしっと悪役令嬢を指して言い放ち、リリーが拍手を送った。これにて劇場は閉幕である。


「大成功~」


 ローズとリリーはパッと表情を明るくして駆け寄り、ハイタッチをしていた。ほほえましい。


「……エリーナ嬢。妹たちをそちらの道に連れ込むのは止めて欲しいのだが」


 だがさすがに兄から苦言をもらい、エリーナは「おほほ」と笑ってごまかした。エリーナから誘ったわけではないのだが……。


「でも、ルドルフ様もとてもお上手でしたわ。ロマンス小説にお詳しいのですね」


 ルドルフとは勇者物語などの大衆小説で盛り上がったこともあるが、ロマンス小説はあまり読んでいなかったと思ったのだが。

 エリーナが立ち上がり、そう問いかけるとルドルフは微妙そうな顔をして、近くの本棚から一冊の本を取り出した。


「二人が最近はまっている本でな……」


 手渡された本は簡素な装丁で、ロマンス小説のような煌びやかな表紙でもない。パラパラとめくっていくと、劇の台本のようだった。悪役令嬢が出て、たいてい断罪のシーンが多い。


(あれ……? え? これ……)


 読み進めるにつれ既視感が強くなる。ヒロインや悪役令嬢のセリフ、シチュエーションに覚えがある。


「これ……わたくしがやってた悪役令嬢劇場に似てるんですが」


「やはりそうか……ある令嬢の小劇短編集だそうだ」


「待ってください。誰が、誰が作ったんですか!」


 まさかクリスが!? と慌てて奥付を見ると、侍女Sと書かれていた。


「サ、サリー……」


 幼少期からのネタを知っているのはサリーくらいだ。エリーナは顔から火が出るほど恥ずかしくなり、へなへなとその場にしゃがみこんだ。黒歴史もいいところだ。だが、エリーナはその黒歴史を現在も更新中なのを理解していない。

 羞恥に悶えるエリーナを見て、ルドルフはにやりと口角を上げる。そして自分もしゃがみこんでエリーナの肩に手を置くと、不敵な笑みを浮かべた。


「いい弱みを握れたな。これからはエリーナ嬢をヒロインにして、かわいい二人にいじめてもらおうか。俺が助ければエリーナ嬢と結ばれてハッピーエンドだ。それに、先ほど婚約したいと言っていたしな」


「そ、それは、プロの悪役令嬢として譲れないといいますか……それに、さっきの言葉は劇の中です!」


 ルドルフの目が本気だ。本気で獲物を狩りに来ている。そこに双子がエリーナに両側から抱き着いて来た。


「エリーナお姉様がヒロインもいい~。すてきなお嫁さんになるの。ね、リリー」


「お兄様が助けてくれるのー。苛めがいがあるのです」


 うふふと楽しそうに笑う二人に、三方向から固められ逃げ場のないエリーナは、断腸の思いでエリーナがヒロインの悪役令嬢劇場第二幕をするのだった。その後、ローゼンディアナ家に飛んで帰ったエリーナは、サリーを問い詰め発刊部数と売られた先を聞いて気が遠くなるのだった。


出来立てほやほやの悪役令嬢劇場です~。レッスンって書いてから、ナディヤを思い出したけど学園二年目のお話です。短編集の時間枠については、緩くやっているので気にしない方向でお願いします(*´ω`*)


さて、ストックはあるけどラウルばかりで……。ラウル贔屓がひどい(*'▽')

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