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悪役令嬢の品格-読者様への感謝を込めた短編集-  作者: 幸路 ことは


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黒歴史を胸に秘めて

 南の国ニールゲル王国の王宮で、シャーロットは父王から三国交流の話を聞いて食事をする手を止めた。朝食の席で、王は来月の三国交流にシャーロットとエドガーが出席することと、開催国がアスタリアであることを告げたのだ。

 王は品の良い服に身を包み、険しい紫色の目をシャーロットに向けていた。髪はシャーロットと同じ銀色で、シャーロットは父親似だ。食卓には母と兄、二人の姉たちも同席していた。


「はい……」


 シャーロットはスープを飲んでいたスプーンを、音も立てずに置く。脳内では三国交流に関する情報が組み立てられていき、うっと頭が痛くなってきた。


「アスタリアということは……エリーナ姫がいらっしゃいますよね」


 ラルフレアに留学した時に親交があったエリーナ・ローゼンディアナが、実は前王の娘で西の国の王子クリスと共にアスタリアへ渡ったと聞いて、心底驚いたのが二か月ほど前だ。シャーロットの脳裏にラルフレアでの騒動が思い起こされて、両手で顔面を覆った。


「お前がさんざん迷惑をかけた相手だ。きちんと謝罪をしてくるように……もちろん、それ以上にご迷惑をかけたラルフレアの次期王妃もいらしゃる」


「……ですよね」


 三国の王族による交流だ。ラルフレアには血の濃い王族がジークしか残っていないため、当然式を間近に控えたベロニカも来る。シャーロットはさらに気が重くなった。


 もうラルフレアへ遊学したのは一年前になり、長年想いを募らせていたエドガーと結ばれ素晴らしい時間だったのだが、帰って来てからが大変だった。当然シャーロットが起こしたことは外交問題になりかねないものであり、軽率すぎると両親からひどく怒られた。


 それだけでなく、エドガーは監督不行き届きとして一か月の謹慎となり、恋人に会えないこともあいまってシャーロットは深く反省したのだ。姉たちと兄には若気の至りと呆れられつつ笑われた。


「心を尽くしてまいります」


 消せない黒歴史に、シャーロットは頭を抱えて朝食を再開するのだった。




 そして三国交流に向けた各国のマナーや歴史、文化の復習が始まり、ぐったりとしたシャーロットは午後のティータイムをエドガーと過ごしていたのである。


「エディ、三国交流のこと聞いた?」


 王宮内にある温室で、二人は丸テーブルを挟みお茶を楽しんでいた。春が近づき少しずつ暖かくなってきたとは言っても、庭でお茶をするにはまだ肌寒い。花たちの香りを楽しみながら、シャーロットは紅茶をすする。


「はい、伺いました。ベロニカ様とエリーナ様もいらっしゃるそうで、会えるのが楽しみですね。お二方とも、色濃く覚えていらっしゃるでしょう」


「……的確に古傷を抉ってくるわね」


「陛下からことあるごとに、反省を促せと命を受けておりますので」


「そのせいで、今から気が重いのよ」


 あの時はとにかくエドガーの気を引くことでいっぱいいっぱいだった。それを冷静に振り返るとかなり恥ずかしく、関わった人たちの記憶を片っ端から消したい衝動に駆られる。

 エドガーはくすりと笑い、険しい顔をしているシャーロットの頬を撫でた。


「でも、そのおかげでロティ様の隣にいられるのだから、後悔はありません」


 そんな甘く優しい言葉を囁かれては、シャーロットは赤面するしかない。つい先月婚約したところであり、その時からエドガーは遠慮なく甘やかすようになったのである。時々シャーロットの両親から厳しくするようにと注意されているようだが、元が甘いのだからなかなか直らない。控えめに言っても幸せだ。


「もう、エディ……」


 シャーロットも口元が緩んでしまい、えへへと嬉しそうに撫でられる手の温かさと大きさを感じていた。


「黒歴史は笑い話にするのが一番です」


「ちょっと、あなたまで黒歴史だと言うの?」


 幸せなぬくもりを感じていたところを、現実に引き戻される。


「あれを黒歴史と言わず、何を黒歴史と言うのです?」


「エディにとっても黒歴史じゃない!」


 どんどん鮮明に当時のことが思い出されて、恥ずかしくなってくる。だが共犯のエドガーはどこか飄々としていて。


「私は暴走するロティ様を止められなかっただけですから」


「……ひどい」


 エドガーはニコリと微笑むと、クッキーを一つ食べ紅茶を飲む。


「さて、お二方への謝罪を考えましょうか」


「そうね……できるだけ傷に触れない方向でいきましょう」


 この日から三国交流に向けた作戦会議が何度か開かれ、シャーロットはエドガー相手に謝罪の練習をする。そして交流の場ではエリーナ、ベロニカにしっかりと謝罪を入れ、黒歴史の尾を引きずりつつも胸を撫でおろすことになるのである。


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