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悪役令嬢の品格-読者様への感謝を込めた短編集-  作者: 幸路 ことは


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恋の駆け引きは上級者向け

 たっぷりネフィリアから微笑ましいエピソードと、無駄に高度な駆け引きを披露してもらった翌日。バレンティア家で開かれた茶会にてエリーナは情報収集をしていた。


「お兄様ったら、ネフィリアさんのためにアスタリアの料理を料理人たちに覚えさせているんですよ」


「ですから、最近は三カ国の料理が楽しめて旅行をしている気分になれますの」


「まあ、とてもネフィリアさんのことを思いやっておられるのね」


 ソファーに横並びに座り、可愛く育った双子に挟まれ相槌を打ちつつ、本命のルドルフに声をかけるタイミングを伺っていた。当然のことのように彼の隣にはネフィリアもいるため、自然と二人を離さなくてはならない。


「ねえ、リリー、ローズ。二人はルドルフさんとネフィリアさんが結婚してほしい?」


「えぇ、もちろんですわ。お兄様が張り合える方ですもの」とローズ。


「私たちに優しくしてくれるから好きです」とリリー。


 さらに詳しく訊けば外堀はしっかり埋まっており、あとは本人たちの問題なのだ。


「なら後は追いたてるだけね。リリー、ローズ。ルドルフさんとお話しがしたいから、お願いできる?」


「もちろんですわ。わたくしがお兄様を連れて来るから、リリーはネフィリアさんの相手をして」


「任せて~!」


 そう打ち合わせをするなり二人は行動を開始し、エリーナは近くの小部屋でルドルフと話すことになったのである。




「それで、話はいったい何だ?」


 一人がけ用のソファーに座り、丸テーブルを挟んで向かい合う二人。

 部屋にはルドルフとエリーナにバレンティア家の侍女がおり、ルドルフは口調をくだけたものに戻していた。南の国の紅茶を飲みながら、ルドルフは鋭い目をエリーナに向ける。


「あら、お心当たりぐらいあるでしょう? 私は上質なロマンスを求める姫なので」


 ルドルフの険しい表情にもひるまず、エリーナはおほほと笑ってじっとルドルフを見つめた。するとルドルフは深々と溜息をつき、ひじ掛けで頬付けをつく。


「最近はすっかりプリン姫になったと思ったのに……」


 とエリーナに聞こえるか聞こえないかの声で呟き、かのプリン姫の前に並べられた各種プリンへと視線をやった。丸テーブルにはマンゴープリン、ココナッツプリン、王道プリンが並んでいる。

 だが今のエリーナはロマンス姫。さっそくココナッツプリンに手を付けつつも、好奇心に彩られた瞳をルドルフに向けた。


「それで、ネフィリアさんとはいつご結婚されるおつもりなの?」


「……時期を見てする」


「何の時期を見ているのかしら。ほら、白状しなさいな。本当は困っているのでしょう?」


 意地悪な笑みを浮かべればため息が返って来た。ルドルフは気まずそうに少し黙ってから、額に手を当てて呻く。


「結婚をしたいが、実は告白もまだなんだ……」


「まぁ、ルドルフさんは行動が早い印象だったけど、どうして?」


 エリーナは知っているがあえて訊いた。腹黒眼鏡キャラ。悪役令嬢時代に何度となく煮え湯を飲まされたため、ルドルフを困らせたくなったのだ。


「知っているくせに……少々意地を張った結果というか」


 そしてぽつぽつと断片的に話された意地っ張りな駆け引きを聞いたエリーナは、おおげさに溜息をつく。好意をほのめかしつつ、相手に決定的な一語を言わせようと言葉を操る。


「そんなところに頭のよさを使わなくてもいいのに」


 ぜひとも外交の場で発揮してもらいたいものだ。


「引くに引けなくなってな……最近はそれ自体を楽しんでいるところもある」


 エリーナは最後の王道プリンを食べ終わりスプーンを置くと、恋の先輩顔になってルドルフを見据えた。


「ルドルフさん。恋のかけひきもいいけど、時に素直になりネフィリアさんを立てるのもいいと思うわ。ネフィリアさんに最高のものをプレゼントしたらどう?」


 含みを持たせた言い方をして微笑めば、ルドルフは観念したかのように息を吐いた。


「……まったく。エリーナ様には敵わない。姫から命を受ければ遂行するしかないな」


 おそらくルドルフも着地点を探していたのだろう。そう言うなり狩人の目になって、腹黒さが増した。きっとどう一手打つかを頭の中で算段しているのだろう。


「では、ロマンス姫の加護をいただいても?」


 そう冗談めかして言えるくらい余裕があることに、恋愛初心者だったエリーナはむぅと内心膨れる。


「成功したら、たっぷりとロマンスを献上してね」


「もちろんよい語り手を献上しますとも」


 つまり、自分は話さずにネフィリアに丸投げするつもりだ。少し互いの話を聞いただけでも、尊重し合い刺激し合っているのがよくわかる。お似合いの二人だ。


「待ってるわ」


 エリーナは口直しに紅茶を飲んで、お淑やかに手を振った。ルドルフは主催の一人。あまり引き留めても悪いからだ。


「数多く出ているエリーナ様のロマンス小説を参考にさせてもらう」


 だが意地の悪い笑みを浮かべて立ち上がったルドルフはそう言い置いてドアへと向かう。


「ちょっと、どれだけ持ってるの!?」


 その一言に、余裕の笑みを浮かべていたエリーナは、顔を引きつらせた。エリーナが知っているだけでも両手の指では足りないぐらいの本が出ている。


「全て揃ってるぞ。ロマンス姫のおかげで妹たちもロマンス小説が好きになったからな」


「待って、中にはかなり脚色されたものがあって!」


「そんなもの、読めばわかる。妹たちも、エリーナ様がこんなに恋愛レベル高いわけがないって言ってたからな」


 自分のことを分かってくれているのは嬉しいが、微妙にけなされている気がするエリーナだ。そしてルドルフは広間に戻り、一息ついていたエリーナの下に茶会に飽きた双子が突撃するまであと五分。話題は双子が読んだエリーナをもとにしたロマンス小説となり、事実かどうかを確認するという恥ずかしい展開なるまであと三十分である。


恋愛レベルひよこが、いっちょ前にアドバイスなんかして。成長したなぁ。

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