プリン姫の冒険の二次創作が熱い
エリーナプリン姫は行方がわからなくなった、ホルスタインとミルクを探すため、バニラビーンズ騎士と一緒に旅をしていた。そして旅の途中でミルクの娘であるナディヤミルクプリン姫と出会い、やっと魔王の最後の四天王がいる城へとやってきたのだ。
プリン姫が四天王チリパウダーと闘ってる間にミルクプリン姫は、無事二人を見つけ再会を喜んだ。だが、プリン姫は苦戦を強いられていたのである。
「ふははは。こんなごみのような魔法で、私が倒せると思ったのか! 喰らえ! カプサイシン!」
「きゃぁぁ!」
真っ赤な業火がプリン姫を襲い、髪は焦げ服が破れた。熱気に肺がやられ、息を吸うのもままならない。プリン姫はなんとか杖を握り直し、治癒魔法をかけようとするがすでに魔力は切れていた。
(まずい!)
地獄の業火の二波はすぐそこまで迫っていて。
(ごめん、ナディヤ……ごめんなさい、ラウルマスター)
最後に頭に浮かんだのは、師匠であるラウルチョコレートプリンマスター。言えないまま胸にしまっていた想いも、炎に焼かれようとしていた。
「ビターチョコレートプリン!」
そこに、突如水の柱が炎を呑みこみ、水蒸気で部屋は真っ白になる。
「な、何者だ!」
チリパウダーの鋭い声が飛び、水蒸気が晴れ視界がよくなったプリン姫は目を見開いた。目の前に、茶色い大きな背中があったのだ。
「マスター……」
「プリン姫、もう大丈夫ですよ」
焦げ茶色のローブは水蒸気で少し濡れ、藍色の髪は艶が増していた。灰色の瞳を見れば、プリン姫の胸に安堵が広がる。
「ちっ、面倒な。ならば、一気に蹴りをつける。奥義、キャロライナ・リーパー・デステトラソース!」
炎が渦を巻き、収縮していく。色はどす黒い赤へと変化し、熱気が増していった。
「マスター、あれは!」
「プリン姫は下がって! 究極奥義、モロディータ・ゾロ・チョコレート・プリン!」
マスターの足元から水が立ち昇り、津波となってチリパウダーへと押し寄せる。炎の渦と津波が激突し、拮抗する。ゆらりと炎の渦が傾き、回転を速めた。少しずつ津波が蒸発し、威力が弱まっている。
マスターは短い杖を握る手に力を込め、大きく息を吸った。後ろにいるプリン姫のためにも、絶対に負けられない。枯渇しそうな魔力を、全て解き放った。
「プリン姫は、命に代えても守る!」
プリン姫が小さい時から、ラウルは傍で見守っていた。その可愛さと純粋さに守りたいと、心惹かれたのはいつだっただろう。やがて魔法を教えるようになり、師匠と弟子となっても秘めた想いは変わらなかった。
想いと全ての魔力を注いだ津波は威力を増し、とうとう炎の渦とチリパウダーを飲み込んだ。
「な、なにぃぃ!」
津波は城の壁を破り、その衝撃でチリパウダーは大地の果てまで飛ばされた。
「マスター! やりましっ、マスター!?」
マスターの勝利を見届けたエリーナの目の前で、その茶色いローブが崩れ落ちた。
「マスター!」
プリン姫を守るため、魔法を使い果たして倒れたラウルマスターに駆け寄るプリン姫。彼の蒼白な顔を覗き込んだ途端、恐怖に支配される。
「ラウルマスター、しっかりして! 私はマスターがいないとプリン姫として笑えないわ!」
涙を溢れさせ、倒れたラウルマスターの肩を掴んだ。
(お願い、目を開けて!)
マスターの顔に、涙がポトリ、ポトリと落ちる。その涙がマスターの頬を伝い、その灰色の瞳がのろのろとエリーナへ向けられた。
「プリン姫、甘い君にしょっぱい涙は似合わないよ。さぁ笑って」
優しくプリン姫の涙を指で救うラウルマスター。プリン姫の涙は安堵の涙に変わる。
「マスター! よかった!」
マスターはプリン姫の頬に手を添え、柔らかく微笑んだ。いつだって優しく甘い微笑み。その微笑に何度も胸をかき乱された。
「プリン姫。貴女を失わなくてよかった。私の最高の弟子で、最愛の人。これで、世界は平和になった……こんな無様な状態ですが、どうしても貴女に伝えたいんです」
「マスター」
プリン姫は頬に添えられたラウルの手を握りしめ、涙を流す。
「プリン姫、愛しています。この世の全ての甘いものを集めても、貴女には敵わない。私にとって貴女は、大切なお姫様です」
マスターの告白は、プリン姫を柔らかく甘いプリンで包み込むようで、幸せに身を委ねる。ドクン、ドクンと自分の中にある想いが、伝えてほしいと主張をし始めた。意を決して、その想いを口にする。
「マスター! 私も、私も愛しています! ずっと、好きでした!」
エリーナは掴んだマスターの手に頬を摺り寄せた。温かく大きな手。そのぬくもりにやすらぐ。マスターはプリン姫の告白を聞いて少し驚き、ついで花開くように破顔した。
「よかった。一緒に暮らしましょう。どこか、静かな場所で」
「はい。マスターと一緒なら、どこへでも行けます」
その後、魔力が回復した二人は、母親と乳母に再会したナディヤに別れを告げ、雲に乗ってどこかへと飛んでいった。二人は仲良く幸せに暮らしたと、伝えられている。
おしまい
「ねぇカイル、こんな『プリン姫の冒険』の二次創作を見つけたんだけど。どういうこと? 何? 『魔法使いの弟子エリーナプリン姫とラウルチョコレートプリンマスターの旅路〜プリンと共にあらんことを』って。許せないんだけど」
ある昼下がり、カイルはクリスの訪問を顔を引きつらせて受けていた。目の前に薄い本を突き付けられ、苛立った声で先ほどの言葉を投げつけられたのだ。
カイルは薄い笑みを張り付けて、はははと軽く笑う。
「へぇ、そんなのあるんだね。想像力豊かな人もいるんだ~」
そう誤魔化そうとするカイルに、睨みつけるクリスの凄みが増す。
「これ、ラルフレアで人気になってるんだってね。それを君が知らないって? 馬鹿いうなよ」
「え、いや。そう言えば、そうだったかもしれない。最近、プリン姫の冒険関係の本が増えてたからなー」
早くも冷や汗を背中に感じるカイルだ。なぜこんなにも早くクリスの手元にその本があるのか。カイルは疑問で仕方がない。これは身内に裏切り者がいるに違いないと、カイルはうたた寝から起きたら机に置いてあった胃薬に目をやる。
「そう。この作者、君に預けた子の裏ネームだよね。つまり、君に話がいっていないはずがないのだけど。それとも、年を取ってぼけたというなら、砂漠の国から取り寄せた世界一辛い唐辛子で作った料理を食べさせてもいいんだよ?」
「すみませんでした! 出来心なんです!」
なんとかごまかす手を考えていたがその言葉を聞いた瞬間、カイルは直角に腰を折り、頭を深々と下げた。
激辛料理など、胃を痛めているカイルにすれば毒そのものだ。その先は、死あるのみ。
「あまりにもいいストーリーで、マスター人気も高かったからいけると思って! いや、だってさ。本編はクリスに配慮してカラメル王子で終わったじゃんか。だから二次創作で乙女に夢を見させてって手紙がガンガンうちに来たんだよ~!」
それはもはや嘆願書だった。それほどにマスターエンドを願う読者がいたのだ。
「そんな……」
その答えは少なからずショックだったようで、クリスは顔を強張らせて言葉を失う。まさか自分とエリーナの結婚は支持されていないのではと不安になってきた。それを察したカイルは慌てて言葉を付けたす。
「いや、これはプリン姫とカラメル王子という正統なエンドがあっての、二次創作だから。別に不満があるとかじゃなくて、こっちも食べてみたいっていう欲だから!」
と言ったはいいものの、カイルでも何を伝えたいのかよくわからない。クリスにジト目を向けられ、肩が跳ねる。
「うるさい、もういい……続きは、ゆっくりお茶でも飲みながらにしよう。幸い、僕は今日休みだから……胃に優しいハーブティーを出す店に連れていってあげるよ」
あくまでクリスは穏やかに笑っているが、目が怖い。明らかに仕留めにかかっていた。
「え、いや。ちょっと私はこれから取引がございまして……」
その威圧感に、カイルはつい敬語になって及び腰になった。胃を痛めながらハーブティーを飲むなんて絶対に嫌だ。
「遠慮しなくてもいいよ。後のことはミシェルに任せればいい。それに、西の島国から胃に優しい薬膳粥を取り寄せてね、ちょうどいいから今日はうちでご飯を食べて行きなよ」
クリスに首根っこを捕まれ、強引に連れていかれるカイル。クリスにつきあって胃を痛めながら、胃に優しいものを食すという苦行を乗り越えたカイルは、精気が抜かれた顔をして帰っていったという……。
これを機にカイルは前々から温めていた万能胃薬の開発に着手する。良くも悪くもクリスのおかげで薬学に長けた東の島国と繋がりを持てた。東西の薬学を合わせ、自分の胃で試して最強の胃薬を作るカイル。そして5年の研究の末に生み出された胃薬は、リズの強い希望で『オータ・イサーン』となった。この功績は、後の世の伝記に載るほどである。
・胃薬王カイル
彼は7つの海をまたにかけ20の国との交易を始めた200年前の大商人であったが、彼の功績はその商売よりも、人々を癒す世界各国の胃薬をラルフレア国内に広めた事で有名である。さらに『オータ・イサーン』という強力な胃薬を生み出し、多くの胃痛に苦しめられる人を救った。
そんな彼の功績は、ラルフレアだけでなくアスタリア王家への忠誠の中で築かれたという。古い記録には「うわ〜、魔王が、アスタリアの魔王がやって来る〜!」という言葉が残されているが、意図は不明である。
『世界の偉人100』より




