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星降り島の薬師 ~おいでませ金平堂~

星降り島の薬師 ~おいでませ金平堂~ 〔短い話〕

作者: ラウンド

 とあるところに、人々から星降り島と呼ばれている離れ島があった。

 魔法の力が関わるという特別な気象が、まるで星が降るような様相であったことから魔法を志す人々にそう名付けられた島には、何という事か、病院と言う代物がまるで無かった。医者と言う職業に就く者はおろか、その職業について知っている者もさっぱりと少なく、民間療法を用いる診療所がその主軸となっていた。

 軽い病であればそれでも問題にならなかったが、重い病、特に土地特有の風土病は手の施しようが無く、一度罹ってしまえば一生病を背負わなければならないとさえ言われていた。

 だが、ある人物の登場を境に、風土病の重くなる者は殆ど居なくなった。

 それまで、不治の病とされてきた風土病を解決するに有効な方法について、必要な知識を有する魔法師が、その噂を聞きつけて、医師代わりとなるという志のために、遥か大陸から星降り島に渡ってきたのである。

 その人物の名はナズナ。齢十六、見た目華奢というような少女だった。

 彼女は、訝しむ島民の視線にも怯むことなく、持ち前の明るさと人を驚かせるような行動力で、風土病についての情報を集め周り、そして、その原因と解決法とを瞬く間に提示して見せたのである。

 これによって、長年、島民を悩ませていた風土病は治癒できるものとなり、ナズナは島民からの信頼を勝ち得たのだ。

 その後、ナズナは島の空き家の一つを譲り受け、そこに一軒の薬屋を開く。当初の目的であった、医師の代わりとなるために。


 そんな大騒動から、少し経った頃。

「はい。キヨスお爺さん。今週の分のお薬です。苦いですが、しっかりと飲んでくださいよ?」

ナズナは、定期的に薬屋を訪れる事になっている島民の相手をしていた。慣れた手つきで、箱から白い星印の付いた巾着を取り出し、中に錠剤を包んだものを必要分だけ収め、目の前に訪れている島民へと手渡す。

「おう、いつもすまないねぇ」

 差し出された巾着を受け取ったのは、いかにも農業を営んでいるという風貌をした老齢の男性。ただ少し腰が曲がっているようで、背中も軽く猫背の状態になっていた。

「しかし。今はこいつのおかげで農作業が捗ってな。二十は若返ったような気分だわい!」

「だからと言って無理だけはしないでくださいね?前にそれで腰やっちゃったんですから」

「わっはっは!まあ、そうさな。嬢ちゃんの手を煩わせないよう気を付けるさ」

 そう言うと、キヨス爺は自分の巾着を提げてゆっくりと腰を上げ、外に向かって歩き始める。一瞬、ナズナはそれを助けようと立ち上がるも、直ぐに思い直し、爺を笑顔で見送るだけにした。

 爺が扉を開ける。それに合わせて、からんからんと言う出入りを報せるベルの音が響いた。外の光が程よく屋内に入り、少しだけ全体の明るさが強まる。

「そんじゃ、ありがとよ!また来る!」

「はい!お気を付けて!」

 扉を潜り、光の中へと出ていく爺の背に向けて、ナズナは手を振って見送った。

「さて、と…」

 ナズナも腰を上げると、手近に置いている棚から、愛用の鞄と腕輪型の装飾品を取り出し、鞄は肩から反対へ交差するように提げ、腕輪は左腕に装着する。

すると、鞄のベルト部分に付いている装飾に彫り込まれている幾何学模様と、腕輪に彫り込まれている模様とが共鳴するように淡く輝き、そして、その光はナズナの体を薄く包み込む。

『光よ。古よりの盟約に従い、我に活力を与え給え…』

 それを確認したナズナは、先ほどのキヨス爺と話していた言葉とは全く異なる発音を口にした。その言葉に反応したのか、彼女の体を包んだ光が露出している肌から浸透を始め、言葉の意味をそのまま刻み込むように、体全体に紋様を広げていった。ただ、装飾の光が収まると同時に体の紋様も消えた。

 これが彼女の扱う魔法の一つである。他にも複数の術を扱うことが出来る。

「よっ、ほっ。うん。術の効力よし。さあ、準備準備!」

 数度体を動かし、体の隅々にまで術が馴染んだことを確認すると、先に倍するとも感じられる速度で火の始末等の片付け、戸締りを済ませると、最後に保存庫に入れてあった葉包みを鞄に収め、そのまま外へと飛び出していった。

 外へと出た時に真っ先に目に飛び込むのは、青々とした森の木々と、色取り取りの小さな花たちが占める道だ。その先には人の手によって綺麗に整えられた道が下向きに見えるように続く。そこから、ナズナの方へと向けて爽やかな風が送られ、通り抜けていった。

「うーん!良い感じ!今日も、良い天気だね」

 通り抜けた風に髪を弄ばれながらも気にせず、しかし誘われるように大きく両腕を広げ、空を仰いだ。どこまでも続く空は、森の力強い青にも負けない雄大で清々しい青を見せて、そこを行く雲を何処へかと誘っていた。

 それを、ナズナは引き締めた表情で見送った。

「……うん!」

 風が緩み、髪が優しく舞う様に鎮まった後。ナズナは一度小さく頷き、微笑みと共にその場から森へ、或いはその向こう側へと歩き出した。

 そして誰も居なくなった空間に、彼女の薬屋は静かに佇む。軒先には「くすり屋 なずな堂」の焼き印がされた看板が示され、その近くに金平糖の形に整えられた色付き装飾三個が飾られているのが見えた。

 その金平糖の飾りは、実は単なるナズナの趣味だったのだが、島の人々はその飾りと店の名前から、この場所を「金平堂」と呼んだ。



ここまでのお付き合い有難う御座いました。短い話でありますが、お楽しみ頂けたでしょうか?

続きを書くかは未定ですが、ご意見、ご感想等あれば、お気軽にコメントして頂けると作者が喜びます。

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