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失って初めて気付く恋心の小説  作者: 辻野深由
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さよならジレンマ (1)

「で、結局俺が想像したとおりになったってことじゃねぇの、それ」


 週が明け、学校が始まり、サボろうとして学食へ向かった先でばったり出くわした夏目に諸々を打ち明けると白い目を向けられた。


「まぁ、そうだな。そういうことになるな」

「良かったんじゃねぇの。収まるところに収まったって感じがするしよ。おめでとさん」


 あくまで本人たちの問題だと割り切っていた夏目らしい反応だった。素直に祝福しているのかは顔から読み取れないが、それでも体面としてそういう気持ちを示しておくことにしたのだろう。


「で、ヤったの?」

「唐突すぎるだろ、その切り出し」

「いや、ほら、気になるじゃん」

「本人に訊くのは躊躇われるとか言ってなかったか?」

「そりゃあ異性に面と向かってなんてできるわけねぇだろ。だからこうして零央に訊いてるんだろうが」

「……知ってどうするわけ」

「そうだな……、俺より先に大人の階段を登っていったことを表向きは祝福しつつ、丑の刻あたりに零央の名前を札に書いてわら人形と一緒に釘打ちでもしてやろうかと」

「酷い奴だなお前!?」


 そこまで恨まれるほどなのかよ。


「ってのは冗談だ。単に知りたいだけだよ。で、どうなのさ」

「…………いや、実はまだ……」

「はぁー……」


 夏目が盛大に溜息を漏らした。


「ないわぁ……五年越しに両想いが成就したってのに、そのままなにもなくエンドかよっ!」

「なんにもなかったことはないぞ! キス……くらいはしたし」

「恥ずかしがって暴露することでもねーだろそれ。付き合いはじめの中学生かよ」


 一世一代の暴露も、あっけらかんと笑われる始末。


「童貞卒業しても悠二にはぜってぇ教えてやんねぇ」

「言ってろ言ってろ。卒業することには今の宣言すっかり忘れてるだろうしよ! いやぁしかし、そんな盛り上がり方したのにそういうところまで持ち込めなかったんだからさ、これから益々チャンスなんてねぇんじゃねのかぁ?」

「ぐっ……」


 そればかりは耳の痛い話だった。

 どうやらエリナはその手の行為に恐怖心を抱いているらしく、雨宮がそういう方向性に持っていこうとすれば強引に軌道修正をしてくるばかり。結局互いにキスをする以上は何も起こらず、夜が明ければこのザマだったのだ。


 果たしてどうすればそういう雰囲気に持ち込んで、合意を得られるのか。これから長い間、頭を悩ませる事項の一つになるのは明白だった。


「とりあえず零央の人生はまだまだ俺と対等ってことが分かっただけでも収穫だったな」

「いやいや……、悠二は彼女いないだろ?」

「なに勘違いしてんだ。これでも既に四、五人とは付き合ったことあるぞ。どれも中学のときだけど」

「なんだそれ。初めて訊いたぞ」

「いままで言ったことなかったしな。まぁ、俺があまりに構ってなかったから全員に振られて今に至るわけだが」

「甲斐性がなさすぎだろ」

「モテるから女に困んねぇんだよな、別に」


 滅茶苦茶な贅沢に軽く殺意が湧いた。


「いやほんとマジでいっぺん豆腐の角に頭をぶつけて死ぬべきじゃねぇの?」

「悪い男の見本ってことで良い勉強代になれるならそれでよし。こちとら即物的な欲求を満たせるならそれ以上は求めない。こんなにもお互いwin-winなもんもねぇと思うけどなぁ」

「お前みたいな奴とセックスとか、俺が女だったら死んでも御免だわ」

「女ができた途端に言うようになったじゃねぇかよ」

 ほんの少し険の混ざった声音で夏目が言う。

「……悠二さ」

「あん?」

「なんだかんだでやっぱり羨ましいとか思ってるんだろ」

「うるせぇ!」


 そのあと恨み節を延々と聞かされて結局早退しそびれたのはまた別の話。

 素直に祝福してるようには見えなかったってのは、やはり正しかった。

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