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失って初めて気付く恋心の小説  作者: 辻野深由
17/31

言わなくても分かる、この気持ちは少し嘘だ (2)

『ちょっと会おうよ』


 午後一番の化学の授業を終えて学校から抜け出すと同時、待っていたかのようにエリナからメッセージが飛び込んできた。


『どうしたのさ』


 打ち返す。エリナからの返信を待つ。そうしている間に駅に着く。


『相談に乗ってくれない? ケンスケのことで』

「……っ!!」


 字面が飛び込んでくると同時、スマホを地面に叩きつけそうになった。



 手元から離れそうになった寸手で、なんとか堪える。こんな馬鹿馬鹿しい感情で数万円もする大事な相棒をドブに捨てるなんて冗談じゃない。


 誰もいない、学校に最寄り駅のホームで、深呼吸をして激情を吐き出す。


『白澄に友達いるんじゃないの。というか、そういうのって女子に相談するもんじゃないの』

『アタシ、あんまり女友達いないし。それに、男との話を女にするの、なんか気が引ける』


 だからって自分を相談相手にするのだってどうなんだよ。

「…………っ、くそっ」


『暇だからいいけどさ』


 本当は、駄目なんだって分かっているけど。

 だけど……。


『それじゃあゲーセンの隣にあるファミレスに集合で。アタシ、先に待ってる』

『つうかさ、彼氏と別れたんじゃないの。なのに、なんで相談なの』

『来てくれたらちゃんと話すよ』

『分かった。話だけは聞いてやる』


 電車に乗り、地元の駅まで戻ってくる。明日からゴールデンウィークとあって、いつもは閑散としているみどりの窓口が混んでいた。

 どこかへ行く予定もない雨宮にとっては羨ましい限りの光景を尻目に、エリナが指定したファミレスへと向かう。


「ああ、良かった……」


 ファミレスの四人席に腰掛けていたエリナは、雨宮を見つけた途端、泣き出しそうな顔でそう零した。


「泣くことないだろ……」

「……ご、ごめん。なんか、姿を見たらほっとしちゃって」


 そう言われて、流石の雨宮も言葉がない。



 ――無理矢理セックスしようとしてきて、最悪だった。



 エリナとのチャットの過去ログに残っていたメッセージが脳裏を過ぎる。


「で、澤野……だっけ? そいつとのセックスが嫌だからって理由で別れたのか。恋人なんだからそれくらい覚悟してたんじゃねぇのかよ」

「だ……だって…………、心の準備とか全然できてなかったのに、急にホテルに連れて行かれそうになって……、アタシ、そういうのはもっと関係が進んでからだと思ってたからびっくりしちゃって……」

「で、振ったの? 振られたの?」

「……わかんない」

「なんだそれ。ヨリ戻したいの? それとも綺麗さっぱり別れたいの? つうか、いまどんな状況なんだよ」

「ラブホの前で、ケンスケに捕まれていた腕をなんとか振りほどいて、夢中で走って逃げてきたの。昨日。それで、今日は学校に行ってない。LINEも無視してる。メッセージと、着信はきてるけど、確認するのは無理。既読がついたら怖いし……」

「別れたって言わねぇじゃんかよ、それ」


 雨宮はがりがりと頭を掻きむしる。

 なんでこんな面倒事の相談相手になってやんなきゃいけないんだ。


 澤野も澤野だが、エリナもエリナだ。

 いっそのこと吹っ切れて絶縁すればいいのに、どういうわけか未練がましいものを引きずっている。嫌なことをされたのだからきっぱりと言えばいいのに。


 ただ一つだけはっきりしているのは、エリナが動かないことには事態が前にも後ろにも進まないということだ。


「ねぇ、レオ、どうしたらいいのかな、アタシ……」


 子犬のような眼差しで見つめてくるエリナ。

 知らねぇよ、と言えばそれで解放されるのだろう。


 けれど、そうやって突き放して問題が解決されるはずもないし、エリナとの縁が切れるわけでもない。


 まして中途半端に知らないフリをして、あとで余計な面倒に巻き込まれるのはまっぴら御免だ。


 こういう面倒を経験したことがない以上、適切なアドバイスなんて出てくるはずもない。

 友達に恋愛経験のあるやつがいれば……


「あ……、そうかその手があったか」

「もしかしてグッドアイデア思いついたの!?」

「ああ」


 雨宮は自信を持って頷く。

 少なくとも、こうして二人で唸っているよりはずっと良い案がある。

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