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     …これって最初のイベントになるのかしらⅡ



 ギルドは丁度、町の中心地にあった。

 どのお店よりも人が多く出入りしている様子に、繋いでいたグレイ君の手に力がこもる。

 うん、ちょっと私も緊張しているから気持ちはわかるよ。


 屈強という言葉がまさにピッタリな筋骨隆々なお兄さん。

 鎧を身につけた気の強そうなお姉さん。

 自分の体よりも大きな武器を背負ったおじ様など……歴戦の冒険者って感じの人たちが忙しない様子で入口に集まっているのだ。


 この中に入っていくの、ちょっと勇気いるよね。


「もしかしたらグレイ君を探してここに来ているかもしれないし、ね」

「う、うん」


 どきどきしつつ、ギルドの方へ足を運ぶ。

 ちょっと視線を集めたけれど、何も言われなかったし、すぐに逸らされた。


「あの、すみません」


 たぶん受付かなって場所に立っていた若いお姉さんに声をかけると、にこやかに対応してくれた。


「はい。どうしましたか?」

「この子が迷子だったので保護したんですが……こちらに迷子の件で誰か訪ねてきていませんか?」

「そうですね……問い合わせは受けていません」

「そうですか」


 スムーズに対応してくれたし、私みたいに迷子を保護した人の対応に慣れているのだろう。だとしたら、ここにグレイ君のお兄ちゃんが訪ねてくるのも時間の問題かもしれない。

 念のためここで迷子を預かってくれるか聞いたら、可能だと言われたので、グレイ君に聞いてみる。

 見事に拒否された。


「そうしたら、もしここにグレイという名前の男の子を訪ねてきた人がいたら、伝えてもらえますか?」

「伝言ですね、わかりました」


 もう一度ギルドに足を運ぶことと、訪れる大体の時刻を伝え、ギルドを後にした。


 さて、後は地道に探すしかないよね。

 運良くギルドにもう一度戻るまでに見つかればいいんだけど……。


「この町で人が多く集まる場所ってどこかわかる?」

『このギルド以外だと、後はこの近くにある大きな広場です』

「じゃ手始めにそこに行こう」


 この近くって、本当に近かった。

 それにしてもすごく広いな……中央には大きな噴水まである。


 ギルドの近くだし、大きな町の中心に、ぽっかり広場がある構造なのかしら。


「確かに人が多いね」

『ここは南ゲートから町に入って真っ直ぐ進むと辿り着くので、人通りもかなり多いんです』

「南ゲート」


 シェーンが指した方を見れば、なるほど、めちゃくちゃ大きい道があるわ。

 まるで観光地の大通りのよう。かなり長い道のようで、遠いけれど奥に大きなゲートも確認できる。あれが南ゲートかな。


 一通り見渡してみて、グレイ君を見た。


「お兄ちゃん、いそう?」

「ええと」


 きょろきょろしている姿に、あ、そうだと繋いでいた手を離して、両腕を広げた。


「ちょっと見えずらかったね、ごめんね。抱っこするからおいで」


 戸惑ったように私の顔と、広げられた腕を交互に見て、おずおずと体を預けてきた。

 ああ、恥ずかしがっているのかしら、可愛い。


「よいしょ」


 このくらいの子供って意外と重量あるけれど、こっちの世界でスライムを狩りまくったからか、筋力が上がったみたい。

 軽々と抱き上げて、人が集まっている場所の近くを目指す。


 しばらく広場をぐるっと回ったけれど、残念ながらお兄ちゃんは見つからなかった。

 諦めず、場所を変えて町の中をぐるぐる巡ってみたけれど、一向に見つからない。

 あの南ゲートまで続く大通りも往復してみたが、残念ながら。


 うむ。困った。


 広場以降、グレイ君も頑張って歩いていたけれど、途中で疲れてしまったのか、歩くペースが格段に遅くなっていたので、取り敢えず今は抱っこしたまま町を歩いて回る。


「いないねぇ」

「……あにうえ」


 しゅんとした様子に、こっちまで悲しくなってくる。


「あ、グレイ君お腹すいてない?」


 そう言えば、そろそろ夕方じゃないか!

 私がこの町に来たのが丁度お昼だったから、そろそろ夕食といってもいい時間帯だろう。


「ううん、だいじょうぶ」

「ほんと?」


 いっぱい歩いたし結構お腹すいてるんじゃないかなぁ、と思った直後、きゅるるる、と鳴った可愛らしい音に、私は目を瞬いた。


「……あぅ」


 恥ずかしそうに俯いたグレイ君に、私は苦笑した。

 まったく、気を使わなくていいのに。


「広場に戻ろうか。屋台もいくつかあったし」

「でも……」

「お姉ちゃんもお腹すいちゃったから」


 どっちにしろ、ギルドに一度向かわないといけない時間になってきているしね。


 目に付いた屋台でパンを購入し、ひとつはグレイ君に、もうひとつはシェーンへ渡しながら、自分の分は取り敢えずしまっておく。

 やっぱりお腹はすいていたのだろう。申し訳なさそうにパンを受け取ったけれど、食べ始めるとあっという間になくなっていた。


「ふふ、おいしかった?」

「うん、とても……ありがとう、おねぇちゃん」


 はにかみながらお礼をいう姿にきゅんとする。


「もう一個あるよ?」

「え、でも、おねぇちゃんのが……」

「また買えば大丈夫だから、遠慮しなくてもいいんだよ」


 小さなパンだったし、ちょっと物足りなかったかもしれないね。

 私の分も差し出せば、グレイ君はありがとうと言って、再びパンに噛み付いた。


 そのままギルドへ向かい、受付にいたお姉さんに声をかける。


「すみません」

「ああ、お昼の方ですね」

「まだお兄ちゃんを見つけられていなくて……あの、訪ねてきた人はいますか?」

「それが、まだ」

「そうですか……」


 おおっと、まだだったか。

 どうしますか? とお姉さんに視線で訴えられつつ、私はちらっと外を見た。

 まだ明るいとはいえ、暗くなり始めると早いし……治安は良さそうだけれど、夜はわからないし、万が一ということも……。


「あの……ギルドは一応昼夜問わず開放しています。夜の間、お預かりすることも可能ですよ」

「あ、そうなんですね」


 つまり24時間体制ってことかな。

 私としては、夜の町を連れ歩くのに気が引けるから……。


「グレイ君、もうすぐ暗くなる時間だから、ギルドで待っていてくれる?」


 すぐさま不安そうな目を向けられた。


「もしかしたら、これからお兄ちゃんもくるかもしれないし、ね?」

「……おねえちゃん、は?」

「私もできるだけ一緒に待ってるね。だけど夜になったら宿の方に行くから、また明日の朝ここにくるつもりだよ」

「…………」


 きゅっと唇を一文字に結んだ。あ、やばい。


「あ、えっと」


 じわじわと空色の目に涙が溜まっていく様は、抱っこして顔の距離が近くなっているからよくわかる。


「……いっしょ、が、いいの……だめ?」

「うぐ」


 間近で見せつけられた、うるうるの上目遣いと小首を傾げる仕草プラス「だめ?」の破壊力よ……。

 おそらく狙ったわけではない――ないよね?――その仕草に、私は悶え、お姉さんは苦笑いを浮かべた。


 ――その後、グレイ君の可愛さに負けた私は、受付のお姉さんに明日の朝もう一度訪ねることと、泊まる予定の宿屋の名前を告げた。



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