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† 第三章 これって最初のイベントになるのかしらⅠ



 その町並みにテンションが高まったのは、認めよう。


「ふわ、あああ」


 だらしなく大口を開けてポカーンとした顔だったことも、認めよう――だって、だってヨーロッパの風景大好きなんだもの! 憧れていたんだもの!


 予定は全くの未定だったけれど、もし結婚して新婚旅行に行くなら絶対ヨーロッパと決めていた。

 ヨーロッパの旅行特集の番組とか見ては、いつかここに行くんだと夢見てた。


 そんな素敵な町並みが! 今! 目の前に!


『マスター?』

「はっ」


 心配そうに私を見つめるシェーンに我に返る。

 シェーンだけじゃなく、ちらちらと町の人たちからも見られていた。少し注目を浴びてしまったようだ。


 ひいい恥ずかしい。


 ごまかすようにコホンと咳をして、改めて町へ目を向けた。


「結構大きな町だね」

『ここは、北ゲートですね。マスター、この町にはふたつ入口があるのでご注意くださいね』

「うん、了解」


 ちらっと見渡して、北ゲートの回りの風景を覚えてから、私はうきうきした軽い足取りで町に踏み込んだ。

 やっぱり町だから、村よりも活気があって人が多いな。賑わい方が全然違う。


『マスター嬉しそうですね』

「こういう町の雰囲気に憧れてたからね」


 取り敢えず、定番の武器屋や防具屋を確認して――あれこれ今後お世話になりそうなお店などを見て回っている時だった。


 とん、と軽い衝撃が腰にきて、その後すぐに腰周りを締める力が加わって、驚いて足を止める。

 何事かと腰元に視線をやって、小さな子供が私の腰に顔を埋め、抱きついている姿が目に入った。


 ……え? 何事?


 道の真ん中で、見知らぬ子供に抱きつかれた私……いや、この場合抱きつかれているというより、しがみつかれていると表現した方が正しいかも、うん。


 いや、そうじゃなくて。


「えーっと……」


 身長から察するに、恐らく5歳か6歳くらいの子だと思うけれど。

 未だに私の腰に顔をうずめ、ぎゅうっとしがみついているから顔は伺えないが、格好からして男の子だろうか。


 驚きつつもその反面、この状況は何となく既視感があるというか……。


「お家の人とはぐれちゃったかな?」


 怖がらせないように優しい声音を意識しつつ、そっと声をかけた。

 返事はなかったが、その代わりに腰に回った細い腕にぎゅっと力が込められた。

 ……あれ、心なしか腰あたりが湿ってきたような。


「ちょっと移動するけど、いいかな?」


 少し間があったが、小さく頷いたので、子供が転ばないように気をつけながら道の端に寄った。

 ちなみに、歩きにくいのでやんわりと離れるよう促してみたが、いやいやと首を横に振られたので諦めた。


 ……まさか、こっちの世界でも“迷子ホイホイ”になるとは。


 未だに離れそうにない子供の頭を撫でてやりながら、私は遠い目をした。“迷子ホイホイ”は友人が笑いながら命名したあだ名である。


 何だろう、「私は無害ですよ~」みたいなオーラで出ているのだろうか。昔から、何故だか迷子の子供によく泣きつかれた。

 ショッピングモールや商店街やら、とにかく迷子になった子供が同じ空間にいた場合、何故か彼らは私の元へやってくる。私の隣に誰がいようとも、何故かやってくるのだ。

 それ故に、迷子の子供にいきなり泣きつかれるのは慣れているのだけど……。


 元の世界では見たことない綺麗な銀髪の頭を撫で続けていると、男の子がゆっくりと顔を上げた。


 ――……天使かな?


 そう思わずにいられないほど、とても可愛い顔が私を見上げている。

 涙でキラキラしている大きな目は綺麗な空色で、目元が泣いたことでちょっと赤くなっているのが痛々しいけれど……こんな可愛い子いるんだなぁ、と関心してしまうほど、可愛い。


「落ち着いたかな?」


 まだ涙は溢れているけれど、私を不安そうに見上げる姿に、怖くないよーと笑顔を浮かべた。


「迷子になっちゃったのかな?」

「……、あ、あのね、あ、にうえ、が、」

「うんうん。ゆっくりでいいよ」


 所々つっかえながらも、一生懸命話してくれる姿に保護欲が増す。


「お兄ちゃんとはぐれちゃったんだね」

「い、っぱいさがして、でもわかんな、くてっ」

「頑張ったね」


 ああ、また目がうるうるして……目線を合わせるためにしゃがんで話を聞いていたから、そっと小さな体を抱きしめて背中をぽんぽんする。

 シェーンも男の子が心配なのか、忙しなく飛び回っていた。


「それじゃあ、お姉ちゃんがお兄ちゃんを探すの手伝うね」


 当然、この迷子の子を放っておけるわけない。

 ありがとう、という言葉の後に、天使のスマイル頂きました。眼福です。




「――さて」


 町についてからの予定は決めていなかった。

 なので、全然問題はないのだが――ちらっと右手側に顔を向けると、不安そうな顔で周りを見渡す様子が目に入る。


「お兄ちゃんとどこではぐれたかわかるかな? グレイ君」


 男の子の名前はグレイというらしい。

 名前を呼ばれて、こちらを見上げたグレイ君は、ふるふると首を横に振った。


「あの、ぼく……このまち、はじめてで……ごめんなさい」


 旅行か何かだったのだろうか。

 何にせよ、初めて訪れた町で1人ぼっちはそりゃ辛すぎるわ。


「ううん、大丈夫だよ」


 安心させるため慌てて言ったが、どうしたものか。

 どこではぐれたかわかれば、まずはその周辺を探るつもりだったんだけど……うーん、と悩みつつ、いつも私が迷子を保護したら何をしていたかを思い出す。


 ショッピングモールとかだったら、迷子センターに連れて行ったんだけどなー。

 しかし、ここは町中だ。それも異世界の。


「シェーン、えーと、警察署みたいな場所ってあるかな」

『けいさつしょ、ですか?』


 あ、こっちの世界では警察って言葉ないのか。


「えっと、町の安全を守るための人というか、警護を引き受けている人たちが集まる場所ってないかな?」

『それでしたら、ギルドがそれに当たりますね』

「あ、なるほど」

『ギルドの他にも、教会に行けば、迷子を探している者が訪ねているかもしれません。ただ、この町にある教会は祭り事以外無人だったと思います』

「うんうん」


 シェーンは私がどうして質問したか、その意図を汲み取ってくれたらしい。


「ありがとう。じゃあ取り敢えずギルドを目指そうか」


 もしかしたら、グレイ君が迷子になっていることに気づいてギルドに向かっているかもしれないし。

 ギルドに向かうことを伝えようとグレイ君の方を見ると、ぽかんとした顔でシェーンを見つめていた。


 おや、グレイ君、シェーンが見える子だったんだね。


「ふわふわ」

「シェーンっていうのよ」

「シェーン」


 シェーンもまさか見えると思っていなかったのか驚き顔である。

 精霊や、聖獣という存在は、誰もが目にできるわけではない。所謂選ばれた人のみが見えるってやつなのよね。


 それについては、村の中でしばらく生活してみてすぐに気づいたことだ。

 村人は、外で私とシェーンが話しているのを見て不思議そうにしていたけれど、「ミレイちゃんは精霊様が見える人なのねぇ」と勝手に納得されていた。

 村人たちは、みんなシェーンを認識することはなかった。


「かわいい」


 シェーンを見て笑顔を浮かべたグレイ君に、私とシェーンは目を見合わせた。

 ふわふわ宙に浮かんでいたシェーンは、ゆっくりグレイ君に近寄ると、小さなその肩に乗って甘える仕草をする。

 それにさらに笑顔になったグレイ君に、ほっとしながら、シェーンにギルドの場所を教えてもらいつつ歩き始めた。



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