…異世界ライフ楽しんでいますⅢ
自分の現在の状態、能力値などを確認することができる“ステータス”が存在することを告げられた私は、最早驚くというよりも「待ってました!」という気持ちの方が大きかった。
ステータス自体は簡単な魔法らしく、この世界の人ならば誰でも使えるそうだ。
シェーンに教わって、確認する方法がわかった私は、それは意気揚々とステータスを表示した。
立てた右手の人差し指と中指をくっつけて、その指先に少し魔力を込める。その後、2本の指をすっと軽く上から下に振り下ろすだけ。とても小さな動きだ。
それだけで、不思議な半透明の画面が目の前に現れたのだから、すごくテンションが上がった。
しかも、この魔法――取り敢えずわかりやすいからステータス画面って呼ぼう――他人には見ることができないので、プライバシーがしっかり守られている優れものだ。
アイテムボックスの時のように喜んだ私に、シェーンからまた何とも言えない目を向けられることになってしまったけれど。
でもね、こればっかりは大目に見てほしいの。
しかし、ステータス画面に記されていたのは、生命力を示すHPの数値と、魔力を示すMPの数値のみだった。
あれ? レベルは? と思ったが、この世界にレベルというものの概念はないようだ。
カンスト目指したかったなぁ……ちょっと残念な気持ちになったのは秘密だ。
ゲームでお馴染みのレベルという概念がないこの世界で、どうやって強くなっていくんだろう?
レベルが一段階上がるごとに、HPの最大値やMPの最大値が増える仕組みに慣れた私には疑問だった。
――では、どうやってステータスの最大値を上げるのか。
「よし」
本日15匹目のスライムを討伐し、私は拳を握った。
体が一瞬火照ったような熱さを感じ、すぐ収まる。その後にステータス画面を見ると、数分前に確認した時よりHP、MP共に数値の最大値が増えていた。
『どうですか? マスター』
「さっきよりも、HPはプラス70、MPはプラス120ってところね!」
『さすがマスターですね!』
レベルが存在しないだけで、経験値は存在する。
数値として目には見えないが、筋トレといった体力作り、魔法を何度も使って威力を上げる行為なんかでも経験値は増える。一番経験値が貰えるのは、魔物との戦いみたいだけどね。
経験値を増やすことで、それに比例してHPとMPが増えるシステムのようだ。
『マスターの身のこなし、どんどん洗練されているように感じます』
「そう?」
経験値を増やすことで、筋力や素早さといった身体能力も、確実に上がっているみたい。戦うごとに体が軽く、動かしやすいと感じたのも、気のせいじゃないってことね。
うーん、それにしてもHPとMP以外の能力値が確認できないのは残念だ。
実際に動かしてみないと、どれくらい自分が強くなったか確認のしようがないものねぇ。
試しに、その場で思いっきりジャンプしてみる。
ふわっと浮いた体は、自分の身長くらいは飛んでいるかもしれない。あ、確実にジャンプ力上がってるわこれ。
飛び跳ねる私をじっと見ていたシェーンが、ぽつりと呟いた。
『そろそろ次の場所へ移動しても問題ないかもしれませんね』
その言葉に、ふむ、と頷く。
「そうねぇ。確かにスライム相手ってのも味気なくなってきたものね」
『この村を出て北に向かうと少し大きなクロウスという町がありますよ。魔物も、ちょっと強くなりますが、今のマスターなら問題ないですね』
「町かぁ」
私が召喚され最初に目覚めた“始まりの森”、今身を寄せている“スレイブ村”、シェーンのいう“クロウスの町”が、恐らくゲームをプレイする前にプレイヤーが選ぶ“始まりの地”の3つの候補地なんだと思う。あくまで予想だけどね。
「そうね。この世界を救うためには、他の使者さんも探さなきゃだし、仲間になる守り人だっけ? その人も探さないといけないんだよね」
『はい!』
「ちなみに、私以外に召喚された人って何人くらいいるの?」
『正確な人数は今の時点で僕にはわかりません。母上様との交信がうまくいかなくて……ただ、最低でも後お1人は確実にいらっしゃいます』
「そっか……あ、じゃあ守り人の方はどう?」
『守り人の正確な人数は、僕たちには把握できないんです』
「ええ?」
『守り人は、召喚されるわけではなく、精霊に愛され、己自身も強くあれば、誰でもなれますので』
「えっ、そんな感じなの!?」
吃驚なんだけど。
てっきり守り人の人たちも召喚されているのかな? って思っていたわ。
そうかー、能力さえ認められればその称号が与えられるんだー、まじかー……。
『マスター以外の使者様に関しては、マスターがその方を一目見ればわかると思います。使者様の傍には必ず聖獣がいますし、マスターならば、使者様にしか宿らない特別な力を感じ取れますので。ただ……守り人に関しては、見て判断できるかというと、そうでもないので……地道に尋ねるしか方法がないですね』
使者さんに関しては、私が見たらわかるのね。けれど守り人については、それっぽい人を見つけたら、いちいち確認が必要ってことか。
どっちにしろ、どこの場所で会えるかわからないから、ひたすら見つけるまで探し回る必要はあるのね。
「ちなみに……守り人が集まる場所ってある?」
『守り人だけが集まる場所というのは、存在していないと思います。……魔物狩りを生業とする者や、傭兵などを生業とする者などを束ねた大きな組織があります。ギルドというのですが、そこに行けば情報が得られるかもしれません。あるいは、守り人自体が運良く所属している場合もあるかと』
「……うーん、なかなか難しいわね」
守り人の存在、使者に比べてふわっとしすぎな気がするのは気のせい?
もうちょっと探す側に優しくしてくれてもいいと思うのよ……この先、ちゃんと守り人を探せるのか不安だわ。
「……ん? 守り人って、その人の能力で称号が与えられるんだよね」
『はい。ただ、守り人になるには高い能力が求められるため、志願する者は多いのですが、実際称号を与えられる人はほんの僅かですね』
「……それって、称号は誰が与えるの?」
『聖都市グレムガルドに住む、聖王です』
「聖都市、聖王……またベタな感じねぇ。ちなみに、その都市って一般人でも立ち入れる?」
『人間が普通に暮らす都ですから立ち入りは自由です。聖都市グレムガルドは精霊や聖獣に愛された地域なので、そのような名前になりました。守り人を目指す者たちは、必ず向かう場所です』
「なるほど」
守り人になるための場所ならば、そこへ行けば会う確率が一番高そうじゃない?
「そこを目指しましょうか」
『今すぐにですか?』
ぎょっとしたようにシェーンが目を開いた。その様子……もしや結構難易度が高い地域なのかしら。
私の考えは合っていたらしく、なかなか強力な魔物が多い地域だそうだ。またその周辺地域もなかなか手強い魔物がいるらしい。
単身で乗り込むには、かなり高い能力を持った者でないと危険な地域と聞いて、私は肩を落とした。
「それじゃあ、もう少し経験値を増やさないと危ないか」
『もしくはギルドに所属している手練の傭兵を、数人護衛に雇うかですね』
「……雇う」
ここ数日、森に出かけ採取した物を売って稼いだお金と、スライム狩りで稼いだお金を確認する。
こつこつ貯めてきたので、ここ数日だらけても問題ないくらいはあるけれど……。
「ここの地域の物価って、他の地域に比べたら格安なんだよね?」
『はい。今マスターの持っている金額ですと……厳しいですね。聖都市グレムガルドは辺境にある上、出くわす魔物が強力なので、かなり高い金額になってしまいます』
「……取り敢えず、まずは賃金を稼ぎつつ、私自身ももっと強くなってからそこを目指した方が賢明そうね……他の町とかで守り人が見つかる場合もある?」
『その可能性もあると思います』
少し考えて、うん、と頷く。
「じゃあ、グレムガルドを目指しつつ、運良く途中で見つかればいいな作戦でいこう」
自分で言っといて何だその作戦名って感じだけど、ぱちりと目を瞬いたシェーンが『おー!』と元気よく乗ってくれたのでよしとしよう。
それにしても、聖都市グレムガルドかあ。名前からして重要そうな場所みたいだし、周辺に出る魔物も強力だって言うし、ゲームだったら絶対中盤か、もしかしたら終盤に訪れる場所かもしれないわ。
いかんいかん、ちょっと浮かれすぎて自分のモットーを忘れるところだった。
まずは確実にレベルを上げて実力をつけ、装備も最大限まで強いものにして、徹底的な準備を整えてから挑む。それが私のプレイのモットーだ。
確実に勝ちにいかないと……ボスには勝ちたい、絶対負けたくない。
それに、これはゲームではなく現実なのだ。死んだら復活できるとか、リセットすればいいとか、そんな甘い考え通用しない。
あ、よくよく考えたらまじでやばいやつだわ。浮かれてたけど、本気で自分のステータス上げないと、あっさり死んじゃうやつじゃん。
「シェーン、確実にしっかりきちんと実力を上げようね……安全のために」
『はい! 僕も頑張ります!』
意気込む私に同調して、シェーンも力強く頷いた。
「じゃあ、クロウスの町に行こうか」
『はい』
「けど、町に行く前に森で素材をいっぱい集めとこう。いろいろ役に立つし」
今日のところは宿に戻って休もう。
明日、日が昇り始めると同時くらいに森に向かって、そのままクロウスの町に向かってもいいかもしれない。
「お世話になった人もいることだし、宿で休む前にみんなに挨拶してくるよ」
『そうですね』
新しい場所がどんなところなのか、ちょっとわくわくしつつ、私とシェーンは村までの道をゆっくりと戻った。