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     …異世界ライフ楽しんでいますⅡ

評価、ブックマークありがとうございます!


 ◇◆◇



 上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、私は日課になりつつあるキラキラ集めを楽しんでいた。

 主な散策場所は、私が目を覚ました森の中である。


 “始まりの森”といういかにもな名前が付けられているが、人の手が加わっていないただの森だ。

 名前の由来は、森の近くにあるスレイブ村が、始まりの村として親しまれたから便乗したとのこと。

 何だろうね、その適当な感じ。


 名前のことはさておき、このキラキラ集め、もとい素材集めが結構いい仕事になるのだ。


 ただの雑草かなって思っていた草は、実は薬になる薬草だったし、いい香りの花も疲労回復を促す作用を持った薬草だった。ちゃんとお店に持っていけば買い取ってくれるので、いいお小遣い稼ぎになる。


 そうとも知らず、取り敢えず目に付くキラキラを全て集めていた私に、シェーンはいろいろと教えてくれた。

 その過程で、キラキラエフェクトを振りまいている物は、大抵何かの効果や作用があり、お店で買い取ってくれる。集めておいて困ることはないってことがわかったわけだ。


「それにしても、便利よねぇ」


 今しがた採取したばかりの赤い木の実を、手の平の上で転がしながら、腰に装備しているものへ手を伸ばす。

 シェーンからプレゼントされた、一見するとウエストポーチのようなそれ。

 とても便利な使い心地から、私は勝手に「アイテムボックス」と呼んでるんだけどね。


「物の状態、形状、大きさ、重量……とにかく、何でもかんでも放り込めて、尚且つ中でぐちゃぐちゃにならず、取り出し方も超簡単……夢のようなアイテム」

『マスター、その道具を使うたびに同じことを繰り返していますよ』

「だって、本当便利なんだもん」


 この世界に住む人々には当たり前の道具でも、私にとってはまるで夢のような魔法のアイテムだ。

 一体どういう構造になってるんだろうね。謎だ。


「こういうのも含めて、すごくゲームっぽいんだよねぇ」


 ころん、アイテムボックスの中に木の実を転がせば、吸い込まれるようにして中に入っていった。


 おもむろに手を突っ込んで、今しがた転がした木の実を強く念じれば、自然と手の平の中に収まっている。中を覗きこんでも、真っ暗な空間があるだけなので、取り出す時はこうしないといけないのだが、全然不便だと思わない。むしろ楽で、私は助かってる。


 便利な使い心地に満足しつつ、また木の実を中に入れて、ボタンをしっかりとめた。


『この道具を初めて使った時のマスターの様子は、僕はしばらく忘れられそうにないです』


 その一連の様子を見ていたシェーンは、ため息交じりにそう呟いた。


「いや、まぁ……ちょっとテンション上げ過ぎたなって反省してるから……できれば忘れてほしいな」


 こほん、とひとつ咳払いをして、私は頭上を浮遊しているシェーンを見上げた。


 

 ――……シェーンの説明によって、この世界が所謂パラレルワールドっていうことは理解した。そして、特別な力を持つと認められ、この世界へ私が召喚されたことも。


 ……未だに、召喚の同意っていうのには納得いかないけどね。


 私が、この世界へ召喚されるきっかけとなったゲーム。あれこそが、召喚するための鍵だった。


 精霊や聖獣といった不思議な力を持つ生き物たちが愛する広大な世界。

 選ばれた主人公が仲間を集め、剣と魔法の技を磨き、強大な力を持った魔王軍に立ち向かう、笑いあり涙あり恋愛ありのファンタジーゲーム。

 

 そんな売り文句で発売された“セーファミルス~聖なる使者と世界の守り人~”というタイトルのそれは、この世界をモデルに精巧に再現されたシェーン曰く『擬似世界』。

 異世界にいる使者を、この世界へ召喚するために用意された媒体(ゲーム)なのだという。


 何でも、お互いに干渉しやすくするため、召喚魔法を発動しやすくするために、ゲームの内容はこの世界そっくりになる必要があったそうだ。


 ――異世界の住人が、どうやってあのゲームを作らせたのか。


 “セーファミルス~聖なる使者と世界の守り人~”は、有名なゲーム制作会社の新作だったから、純粋にどうやってゲームを作ったの? と不思議に思ったのだ。


『この世界のことを、げぇむの制作者にお告げとして届けていたと、母上様は言っておりましたよ』

「お告げ……」


 シェーンのいう母上様は、聖獣王という名前で、この世界にとって重要な、とてもすごい存在だという。

 そんな存在からのお告げ……それって神のお告げってことになるのだろうか?

 お告げされた人が「ネタが! 湧き出てくる! そうだこれで次のゲームを作ろう!」的な状態になったってこと……? だとしたら、ちょっと面白いかも。


 お告げの結果か、聖獣王も驚く程、この世界を精巧に模したゲームが作られたそうだ。


 へえぇ~、と適当に相槌をうちつつ、大体の話は聞き流していたけれど、その後ちょっとスルーできない話題になったのよね。 


 それは、召喚の方法を教えてくれている時のこと。

 私は同意していないのに、どうしてか、同意した上で召喚に応じたことになってて、怒ったわけよ。


『この魔法陣は、召喚魔法の意味があります』


 そう言って見せられたそれは間違いなく、私がゲームのバグかな? と疑問を感じた時に、画面いっぱいに映っていたあの魔法陣だった。


『これに触れし者、選ばれし光の力の有無を確かめよう。力有る者、光の使者として世界へ導かん――と書かれています。この魔法陣に触ると選定が始まって、適正を認められると自動的に魔法が実行されるよう術式が組み込んであるんです』


 この魔法陣が表示されたあの時こそ、唯一この世界と繋がっていた瞬間だった。

 画面に映っていた魔法陣は本物、しかも誰かが触れた瞬間から魔法が発動可能な、準備万端の状態。ただ、読んだ本人の意志を尊重するために、魔法についての説明をちゃんと記載しておいたそう。


 説明をわかりやすく翻訳すれば、「この魔法陣に触れると、光の力の有無を調べる魔法が発動します。触れた者に適正があった場合、光の使者としてこの世界へ導くための召喚魔法が実行されますよ」という内容。

 触れる者の自己判断で、触れないという選択肢を選んでも問題はなかった……らしい。


「そういう大事なことはちゃんと日本語で書きなさいよ! 読めないわ!」


 しかし、こちらに気を使った説明も、読み手が理解できなかったら意味ない。


 まさかそんなことが書かれているとは知らず、日本語で書かれていた「魔法陣に触れろ」のテロップの指示を忠実に行った私の行動は……残念ながら同意した上での行動とみなされてしまった。

 その結果、適正者だったために、強制召喚されて今に至る……。


 シェーンとしては、魔法についてちゃんと説明の文章を書いているでしょ? と伝えたかったのだろう。

 ……そもそも読めたところでって話しなんだけどさ。まさか異世界へ召喚されるとは誰も思わないし、普通信じられないよね。


 だから同意の件については、思うところがある。


 宥められつつ、その後もいろいろと教えられて――最終的に、今の現状を受け入れることを決めた私は、シェーンに問うた。


「それで……私はどうすればいいの」


 光の聖獣だというシェーンと契約をしたらしい私には、特別な力があるという。

 召喚された理由は、世界を救ってほしいから、その力を貸してほしいから。

 じゃあ、私は具体的に何をすればいいのだろう。


 答えを求めて、光の聖獣(シェーン)をじっと見つめる。


『光の使者として、守り人をお導きください。そして、この世界、セーファミルスをお救いください』



 ――……そうして、私はこの世界(セーファミルス)を救うため、旅に出たのです。


 なんて、長い回想をし、ちょっとナレーションぽいことを考えながら歩いていると、ぽよん、と草むらから転がり出てきた物体に足を止めた。


 出たな。


 最初の魔物はスライムっていうのは、やっぱりど定番なのかしらね。


 細身のレイピアをぶんっと振って、飛びかかってきたぷよぷよの物体を斬る。

 本当は突き刺すのが正解なんだろうけれど、相手がスライムだからかいつも簡単に切り伏せることができるんだよな。


 ぺしゃっと地面に落ちたスライムは、しばらくもぞもぞ動いていたけれど、その動きはだんだん小さくなっていく。


『お見事です!』


 シェーンはそうやって褒めてくれるが、私は何とも複雑だ。

 攻撃らしい攻撃は体当たりだけだし、動きはとろいから簡単に避けられるし、褒められるほどではないと思うんだけど。ちなみにダメージを受けたことはない。


「あ、今回は別の何かもドロップしたのね」


 絶命したスライムの体がふっと消えた後に、この世界のお金と、水色の何かが入った小瓶が転がった。

 魔物とはいえ、最初は生き物を殺すという行為に躊躇したけれど、魔物に分類される生物は邪悪な力が寄り集まって生まれてくる存在なので、厳密に言うと生き物ではないらしい。


 だから、魔物が命を失うと体が跡形もなく消えてしまうのだそうだ。

 その際、絶命した魔物からお金と、時々アイテムが落とされる。それらは魔物とは違い、消えずに手に入ると教えられた――「ゲームかよ」という突っ込みは心の中に留めたよ。

 

 シェーンから魔物の話を聞いて、それからの戦いに関してちょっと気が楽になったものだ。


 スライムが落としたアイテムを手に取り、シェーンへ見せる。


「これは何?」

『スライムが時々持っている魔水(ますい)ですね。これ単体では使えないですが、ルルカの実をいれて魔力を加えると、魔力を回復する薬になります』

「それってポーション?」

『はい、魔力を回復するのでMPポーションといいます。マスターは物知りですね!』


 物知りも何も、ゲームでよく聞くワードだったからね。


「私の世界では、よくゲームに出てくるアイテムなの。意味合いは同じかな……体力を回復する薬はHPポーション?」

『HPポーションですね。昔は、魔力薬(まりょくやく)とか、傷を癒す薬とか、地域によっていろいろな呼び名があったのですが、ここ数年で共通の名前が付けられたのです。わかりやすいから、と』

「へぇ」

『恐らく、マスターの世界の言葉が元ですね。召喚された使者様の1人が伝えたと言いますし』


 きっとゲームする人だったのね、その人。


「その使者の人は今は?」

『戦いを終えた後、王都ミゼルバールの学園で学問を教えているはずですよ』


 シェーンはこの世界のことに詳しい。聖獣とはそういうものだそうだ。

 なので、取り敢えずわからないことがあったら聞いてみることにしている。


「……そう」

 

 ――……元の世界に戻れるか、否か。それは、私がこの世界で何をすればいいのか聞いた後にシェーンに質問した。


 答えは――前者だった(戻れる)が、条件付きである。


「聖獣王の力はどれくらいで戻るものなの?」

『1人の使者様をお迎えした場合だと……大体5年程です。……ですが、』


 しゅんとしてしまったシェーンは、絞り出すような声で続けた。


『長い歴史のあるセーファミルスにおいて、こんなにも強大で邪悪な魔王の誕生は初めてのことでした。母上様は、対抗しうるために、ご自身の持つ力を最大限まで使い……無理をして使者様を何人も召喚なさろうとしましたので』


 私と同じタイミングで召喚された人がいるかもしれないことに驚いた。


『本来ならば、母上様のお力は戻っていておかしくない時期でした。王都ミゼルバールの学園にいる使者様を元に戻すはずだったのです……ですが、それもいつになるかわかりません』

「聖獣王の力、ちゃんと戻る?」

『それは大丈夫です。母上様は、この世界に満ちる魔力を少しずつ受け取りながら力を取り戻していくので』


 つまり、時間が経てばちゃんと戻るということか。

 けれど、使者を召喚する行為、つまりこの世界と異なる場所へ干渉するのにかなり力を使ってしまった。その上、使者を一度に何人も召喚しようとした。

 過去、何人も一度に召喚したことはないようで、聖獣王の力がかつてないほど不安定になってしまっているらしい。


 いつ元の世界へ帰れるか、わからない。


 最初こそ、勝手に召喚され、勝手に契約され、使者として世界を平和に導いて欲しいと言われ、ふざけるな! と思ったが、今はもうすんなり状況を受け入れてしまっている。

 時間はかかるが、確実に元の世界へ戻してくれるという約束もしれくれたし――過去、召喚された使者たちが、元の世界に戻っているという伝承も村の図書館で確認済だ――ここは割り切ってこの世界を楽しむことにした。


 あ、ちゃんと平和のことは考えています。

 真面目に取り組むつもりだ。だって、私がだらけたせいで滅亡とか嫌だもの。


『僕がしっかりマスターをサポートしますので!』

「うん、頼りにしてる」


 誇らしげなシェーンに微笑み、柔らかな頭を撫でてやるとぐるぐると喉を鳴らして甘えてきた。やだ、可愛い。


 アイテムボックスに、スライムの落としたアイテムをしまい、元気よく腕を突き上げた。


「さて、午後も頑張ろう!」

『おー!』


 午前の予定は、「キラキラ集め」。

 午後の予定は、「スライム狩りしてステータスアップ」なのである。



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