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     …光の聖獣との契約Ⅱ


「本当、やけにリアルな夢――」


 だこと、と続けようとした私の目の前に、突如何かが飛んでくる。


『見つけたああああああ!』

「ひぇ!?」


 その勢いのすごいこと。

 目の前を何かが猛烈な勢いで通り過ぎ――急ブレーキをかけて戻ってきた。


『勢いつけすぎました!』

「ひぃ!?」


 今度は私の目の前で止まり、何やらすごい興奮した様子でぐいぐい詰め寄ってくる。


『ああ! この日を今か今かとお待ちしておりっ、あ、何を! おやめくだっ、』


 むにっと指に柔らかな感触が伝わってくる。


「おお、柔らかい」


 むにむに、と突き出した人差し指に伝わる柔らかい感触。癖になりそう。

 詰め寄ってくるので、距離を離したい気持ちも込めてつついていると、『うにゃあああ! おやめください!』とそれは叫びながら指を押し返してきた。


『ひどい仕打ちです! ますたぁ!』


 ぬいぐるみが怒った。


 大きさは、たぶんバレーボールよりちょっと小さいくらい。


 短い手足に、長めのもふっとした尻尾。全身を覆う白い毛も長めで、全体的にもふもふなそれは、一見すると白い毛玉……大きな瞳は、綺麗な蜂蜜色で、猫のように瞳孔が縦長だった。けれど、猫じゃない。何だこのフォルム?

 ぱっと見、うさぎのようにも見えるけれど、それは耳がうさぎっぽいってだけで……一体何の動物をモチーフにしているのかさっぱりだ。


 じっくり観察していると、ぬいぐるみはそわそわしながらぷいっと顔を背けた。


『照れます』


 くりっくりの目をきゅっと瞑り、小さめの口も閉じて恥ずかしそうに顔を背ける姿はなかなか愛らしいのだが……。


 動くし(というか羽も無いのに浮いている)、喋るし、何よりも無駄にイケメンな声が、愛らしいぬいぐるみボディに合わず、可愛くないというか違和感すごい。


「……私、相当疲れているのかしら」


 こんなメルヘンな生物を夢に見るとは、生まれて初めての体験だ。

 思わず漏れてしまった心の声に反応したぬいぐるみが、心配そうに私を見つめてくる。


『ますたぁはお疲れなのですか?』

「……そのますたぁってのは一体何?」


 イケボの舌足らずな「ますたぁ」……ううん、コレジャナイ感。

 精神的に疲れているのだろうか。早く目覚めないと、起きた時体がだるく感じるかもしれないやつだ。


『ますたぁは、ますたぁです!』

「あっそう」


 ふふん、と得意げに返された。

 答えになってない答えを返され、相槌がやけに素っ気なくなってしまう。


『ますたぁ、お疲れのようならば、こちらをお使いください!』


 そんな私の態度に、果たして気づいているのか……いや、気づいてないなこれ。

 元の話題へ会話の流れを戻したぬいぐるみは、ふよふよと私の膝元までやってくると、その中のひとつを咥えて持ち上げた。


「……これを使う?」

『ふぁい!』


 きっと「はい!」と言いたかったんだろうなあと思いつつ、差し出されたそれを見る。

 それはいい匂いのする花だった。


「使う……?」


 取り敢えず掌を差し出すと、そこにぽとりと置かれた。

 ふわふわ匂う甘い香りは、桃によく似ている。ただ、見たことのない花だった。


 しかし、使うの意味がよくわからない。


 首を傾げつつ、そっと鼻の近くまで持ってきて、すうっと息を吸い込んでみた。

 あ、やっぱり桃の匂いがする。

 好きな匂いだなぁ、と呑気に思っていると、ぬいぐるみがわたわたと手を振った。


『ますたぁますたぁ、違いますよ』

「違う?」

『魔力を注ぐのです!』

「は?」


 魔力?


「ちょっと、何言っているかわかりませんが」

『ええ?』


 メルヘン要素追加ですか。

 メルヘンなぬいぐるみだけに限らず、魔力……。いや、そういうの嫌いじゃないんですよ、ええ。


『とても簡単ですよ?』

「いや、魔力とかないから無理でしょ」

『ええ!? そんなはずは……』


 取り敢えず話に乗ってあげたが、ほんとこの夢何があった。

 思わず花を持っていない方の手を額に当てて、ため息を吐き出す。


『ますたぁには、それはとてつもなく強い魔力が溢れていますよ!』

「うん、ありがちだけどそのチートな設定とかいいのよ……取り敢えずそろそろ目を覚ましてもいいんじゃないかな私……」

『ちーと? 設定とは?』

「あー、そこ律儀に反応してくれなくていいから」


 後半はボソボソと呟いたので、聞き取れなかったようだ。

 きょとんとした顔で、不思議そうに首を傾げる仕草はなかなか可愛いけれど……。


『ますたぁ?』


 いきなり立ち上がった私をそのまま不思議そうに見上げる。

 ぬいぐるみの様子には何も触れず、膝の上に乗せていた物を切り株の上に置いて、ごろんと草の上に寝転がった。


 だめだ、だめ。これ以上はもう本当にお腹いっぱい。

 せっかくメルヘンな感じなのだから、このままのんびり夢を終わらそう……。


 このまま呑気にぬいぐるみと喋っていたら、あの唸り声の主たちに突撃されるかもしれないじゃん。

 メルヘンからいきなりバッドエンドは本気で遠慮したいのよ。


『おやすみされるのですか?』

「まぁね」


 きっと、次に目が覚めたらリビングに大の字だろう。

 おそらくカーペットの上で寝ているはずだけど、背中を預けているこの草より柔らかくはないので、きっと体が痛くなっている。


「たまにはこうやって外で過ごすのも悪くないかもね」


 休みの間に、ちょっと自然にふれあいに足を運んでもいいかもしれない。


「……それじゃ、ばいばい、ぬいぐるみ」


 疲れる夢だったけれど、たまに見るくらいは許してあげよう。

 あ、でも次は身の危険を感じるような獣の登場は勘弁してもらいたい。姿こそ見ていないけど、出会ったら最後な気がするしね。


 ほのぼの系でできたらよろしくお願いします……ただ、同じような夢を見ることはないだろうな、とも思いつつ、一応会話をした手前、ぬいぐるみへ別れの挨拶を口にした。



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