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† プロローグ

初めての作品になります。至らない点も多々あるかと思いますが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。


 目を覚ましたら見知らぬ森の中だった――という始まりのファンタジー小説あったなぁ、と目を覚ました私はぼんやり思った。


 

 そよそよと心地よく吹いている風が、最近面倒だからと伸ばしたままにしている前髪を揺らす。

 眠る前、自分が何をしていたかは覚えている。

 発売前から話題だったゲームを、うきうきしながらプレイしていた――いや、厳密に言うと本格的なプレイはまだだった。チュートリアル前のただの設定を行っているだけだった気がする。


 その設定の途中、急に目眩がして気持ち悪くなって、それから、それから……?


 どうなったっけ?


「――……とりあえず、ここどこよ?」


 人の手が一切加わっていない立派な森の中で、私の疑問に答える声はもちろんないのだけど。



◇◆◇



 待ちに待ったその日――私はわくわくした気持ちいっぱいで、誰もいないリビングで小躍りしたい気分だった。

 短大2年生、就職先も無事決まり、学生人生最後の春休みに突入して1週間。

 やっと、やっと手元に届いた一枚のCD――発売する前から話題となっていた本格RPGゲームのソフトだ。


「はぁ、やっとプレイできる……」


 そこまでゲームをするタイプではないと思っているが、ゲームに無縁な姉からは「十分ゲームオタク」と評価される。一般的に見ると、私はゲームオタクなのだろうか……?


 とにかく、今回発売されたゲームは、予告映像を初めて見た時からプレイしたくてたまらなかった作品だ。

 学生人生最後の長期休暇は、このゲームをとにかくやり込むと決めている。


「さてさて……まずは設定しないと」


 ストーリーとしては、RPGゲーム王道の「主人公が仲間を集め、戦いの中で成長していきながら、世界を滅ぼす魔王からその世界を救うお話」だ。

 プレイヤーはもちろんその主人公を操ることになる。


「名前……そうだなあ」


 予告映像で観た世界観には、中世のヨーロッパみたいな風景もあったし、中華風の建物や、煌びやかな洋装をしているキャラクター、和装のような格好をしたキャラクターも見たし……。

 広大なフィールドマップもこのゲームの売りの1つだもんね。


「そうだ。あれにしよう」


 カチカチとコントローラーを操作し、名前を入力する。


『ミレイ・ヴァルトベルク』


「よしよし、かっこいいぞー私の苗字」


 私の苗字をドイツ語にするとヴァルト()ベルク()になる。何ともかっこいい響き。

 そのことを知ってからは、ゲームをする時に使おうと考えていたのだ。名前に関しては、そのままカタカナに変えただけだが、響きとしてはおかしくはないのでOKだ。


 世界観的にも、たぶん違和感ない名前になったんじゃないかな。


 満足しつつ決定ボタンを押して、次のメニューに進む。


「へぇ、始まりの地を選べるのかぁ」


 選択肢は3つ。

 ひとつめは森。本当、何もないただの森だ。

 ふたつめは村。これは王道の始まりの村って感じ。小さい村みたいだけれど。

 みっつめは町。村よりも広いし、ここから始めたら装備とかは充実しそうだ。


 ……それにしても、


「この選択肢の中で、明らかに森が異質な感じだけど」


 大抵の人は、森以外のどちらかを選びそうだ。

 大きい森ではないとはいえ、いきなりここから始まるのもどうかと……そもそも初期装備あるのかしら。


「うーん」


 私は首を傾げながら、選択肢を順番に改めて見ていく。


「町にしたら楽そうだけど、森っていう選択肢が気になるところ……」


 というか、なんで変わった特徴もない森を選択肢に入れたのか謎である。


「ま、いっか」


 きっと始めはチュートリアル。

 だったら難しいこともないだろうと、森を選択した。


「えーと、次は」


 次の画面に進むと、画面が一瞬真っ暗になった。

 すぐ後、暗闇から浮かびあがるように古書のようなオブジェクトが現れ、ひとりでにパラパラとページが捲れていく。

 やがてその動きが止まり、画面いっぱいに何も書かれていないページが広がると、不思議な形の文字のようなものと、何かの図形のようなものがじわじわと浮かび上がった。


 おお、かっこいい演出!


 文字のようなものの意味はさっぱりだが、図形はどうも魔法陣のようだ。

 そのまま成り行きを見守っていると、薄ぼんやりとした文字がテロップのように画面下に表記される。


「魔法陣に触れろ」


 テロップの文字をそのまま声に出してみたはいいが、急にどうしたんだ。

 さっきまで、「名前を入力してください」とか、丁寧な促し方だったのに……いきなり命令形だし。


 疑問に思いつつ、コントローラーのスティックを動かしたり、十字キーを押してみたが、画面に動きは見られない。

 試しに他のボタンも全て押してみたが、反応はなかった。


「え、どうしろと」


 ただの設定作業中なので、盛り上げるためのBGMも何もない。「あーでもない、こーでもない」と呟く私の声と、カチカチとボタンを連打する音だけが静かなリビングに響く。


「わかんないんだけど」


 この画面になってから、2分くらい経っただろうか。

 思いつく限り全部試してみたが――例えば、コントローラーのボタンというボタンを同時押しなど――画面に変化は現れない。

 まさか、バグ? チュートリアルすら始まってないのに……?


 困惑しながら、もう一度テロップを読む。


「……魔法陣に触れろ……触れろねぇ」


 テロップより少し上を見れば、開かれた古書の2ページ分のほとんどを埋め尽くす魔法陣。


 ぺたり、と。


 もう何も思いつかなくなった私は、何となくテレビの画面に掌を押し付けた。


「……って、ただの画面だってば」


 スマホならまだしも、ただのハイビジョンテレビの画面に触ったからといって何か変化があるわけでもなく。


 普段ゲームをする時は攻略サイトなど見ないのだが――発売してすぐなのに攻略サイトがあるかも怪しいというか、そもそも序盤も序盤で詰むとは何事か――何か進めるための方法がわかればいいなぁ、という気持ちでスマホの画面に触れた。


「――んえ?」


 触れた途端、急激な目眩を感じ、体勢を保てなくなった私は、気の抜けた声を漏らしながら床に倒れた。

 正座の状態だったため、特に痛みは感じなかったが、酷く気持ち悪い。


「な、に」


 普段目眩などないのに。ぐるぐると目が回り続ける。


「――だれ、か」


 だめだ、今は誰も家にいないじゃないか。

 ぐっと、気持ち悪さを耐えるように歯を食いしばり、目を閉じる。


 ぐるぐる回り続けた感覚が、次第に収まっていくのを感じながら、ほっと息を吐いた。


「治まった……急にびっくりした……」


 額に浮いた汗を手の甲で拭いながら、テレビの方を向いて目を見開く。


「――適正あり?」


 いつのまにか古書のオブジェクトが消え、真っ暗な画面に浮かんでいたのは「適正あり」という一言だけ。

 そういう演出なのだろうか……もしかして、魔法陣に触れろと指示はあるけれど、実際は何もせずに待てば自動的に進む仕様……?


「取り敢えずバグじゃなか、った、ん……?」


 かくん、と今度は急に体から力が抜けた。せっかく体勢を直したのに、また床に逆戻りだ。


「ぅん?……、」


 今度は一体何なの。

 手足がぴくりとも動いてくれなくて、声もでない。



 ――何が起こったのかわからないまま、急激な眠気が襲ってきて、そっと意識を手放してしまった。




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