薬草と討伐
初仕事は薬草収集となり、クエストを受ける。報酬は規定の量に達していれば銀貨1枚1000ゼム、足りなくてもその量に応じて報酬はでるらしい。
「ではでは初仕事がんばってください~」
「はーいがんばりまーす」
ナナの声援に答えるとじじばば達も拍手したり「がんばれぃー」と声をかけてくれた。なんとアットホームな冒険者ギルドなのか・・・・・。
奥の倉庫に行って準備していたディクソンが戻ってきた。
「ほら、こいつを持っていけ、ベルトに挟んでおけばいい」
渡されたのは木で出来た剣だった。
「おお・・・・ひのきの棒」
「メープル製だ、重すぎないか? いきなり重い剣は手首を痛めるからな。剣の長さはちょうどいいみたいだな、ちょっと振ってみろ」
言われるがままに2、3回振ってみる。
「剣は全く持ったことがないみたいだな・・・・・ふん、まあ教えがいがあるってもんだ」
楽しみが増えた、という感じでディクソンがニヤリと笑った。
「お手柔らかに」
「よし行くぞ」
街を北東に抜けると放牧地にでた、茶色の牛がのどかに草を頬張ったりのんびりくつろいでいる。
「おーい! 入るぞー!」
急にディクソンが大声を出して驚いたが、見ると遠くに男性が二人いる。こちらに気づいて手を振ってきた。
「あいつらはここの放牧地の持ち主だ、入るときに見かけたら今みたいに声をかけろ」
「勝手に入ったら怒られる?」
「怒られはしないが、みんなここに来たとき声をかけるのが自然と出来たルールなんだ。この村にある放牧地はだいたいのところで薬草を集められる」
「え、ここでも取れるの? 取ってもいいの?」
「いや、ここは本来予備冒険者用だ。老人や子供がむやみに森に入ると危険だろ? だからこうして放牧地や道の脇とかに生えた薬草を集めてもらうんだ」
「なるほど・・・・・」
今日集める薬草はモギ草というグリーンポーションに使われるもので、そのままでも血止めに使われる冒険者にとっては基本的な薬草だ。需要も高く、依頼も多いのだという。ディクソンが薬草採取の仕方を教えてくれて、さらに集めながら色々教えてくれた。
「このモギ草はこの村のどこに行っても見かける。道端にもあるし、各家の庭に植えてある。だが町中や放牧地の薬草は村人と予備冒険者のものだから俺たちはむやみに取らない。だが今日は初めてってことでこの放牧地で集めるぞ」
「でも予備冒険者の事故が少ないっていうのはこうして町中で薬草が取れるからなんだね」
「ああ、だがこれは前にいたギルドマスターと村人達で考えられたものなんだ、自然に生えた薬草をいきなり根っこから引き抜くとそれで終わりだ。そうじゃなくこの村では枯れないように新芽を少しずつ採っていくんだ、そうすれば薬草はそのまま育って来年も同じ場所に残る。大事に大きく育てていくんだ」
「へえー、他の薬草も?」
「だいたいそうだ。昔グリーンポーションが開発された頃にこのモギ草を取りすぎて無くなりかけたことがあるらしい。需要が一気に伸びて儲かったんだ。だが取りすぎて今度は森に入らないといけなくなってな、そこで何人か怪我をしたり死人がでたらしい。それで村で話し合って、森から薬草を集めて植えてそこから少しずつ採取するという方針にしたんだ。それからは死人は出ていない」
「怪我人はいるの?」
「ああいる。なんでかというと・・・・・ホレあそこ見てみろ」
指さされた方向をみると、半透明のスイカくらいの大きさのボールが勝手にぴょんぴょんと跳ねている。
「スライムだ、放牧地や町の周辺にちょいちょい出てくる。怪我の主な原因は薬草採りに夢中になってるときにこいつに襲われるからだ」
スライム。初めてみた。青色かと思ったらそうではなく、半透明に濁っていて小玉スイカくらいの大きさだ。こちらにはまだ気づいていないようでぴょんぴょんと楽しげに跳ねている。
「アビー、倒してみろ」
「えっ」
「木の剣でも倒せる。あのくらいならここのじじばばもやっつけるぞ」
「うそ・・・・・」
「フォローはしてやる、やってみろ」
ベルトに挟んでいた剣を抜いて構える、自分でもいまへっぴり腰なのがわかる。跳ねて向かっている方向がたぶん前だと判断して後ろに回りそっと近づく。両手でしっかり剣を握り、跳ねているタイミングに合わせて剣を思い切り振り下ろした。
「ふんっ!」
スライムは思ったよりも固く、そのまま地面に叩きつけたようになった。スライムはべしゃっと潰れたように見えたがまた元の形にもどり、上下にぶるぶると大きく震えだした。
「横に逃げろ!」
ディクソンの声を聞いてあわてて横に1歩移動すると、スライムが何かこっちに水を勢いよく吐きかけてきた。何度か吐いたあとまた上下にぶるぶると震える。
「移動しながら叩け!」
後ろに回ってまた数回叩いた。思い切り。するとスライムはぶるぶると震えたあと溶けてしまって、そこに水たまりができたがすぐに蒸発した。水たまりがあった所には半透明の平らな丸い小石が落ちていた。
「よくやった! その透明な石はスライムの核だ、持っていけ。ギルドで換金できるぞ、まあ100か50ゼムくらいだがな」
「おお」
アビゲイルは石を拾ってカバンに大事にしまった。
「こいつらはグミスライムといってちょっと固いんだ。あとさっきみたいに弱酸水を吐いてくる」
「え、あれ酸なの?!」
「そうだ、知らなかったのか? かかると軽い火傷になるぞ、特に顔にかからないように気をつけろ。戦い方はわかったな?」
「わかったけど・・・・酸て聞いてたらもっとびびってたな」
「知らなくて良かったな」
「もしもし・・・・・?」
話しているとまたもう1匹グミスライムが現れた。
「お、剣を貸してくれ」
アビゲイルは言われるままに木剣を渡した。受け取るとディクソンはそのまますぐにスライムと距離を詰めてスライムを切り裂いた。アビゲイルがさっき数回叩いてようやく倒したのにディクソンの切り裂いたスライムは一撃で溶けて、地面に落ちた。
「すごい! 木の剣なのに!」
「練習すればこれくらいできるようになる。さっき後ろから近づいていったのはいいぞ、跳ねてるときも気配を察知して酸を飛ばすときがあるからな」
「ひえ」
「このへんに出るグミスライムの酸は弱いからすぐに水で流せばだいじょうぶだ。だが一応軟膏くらいは持っておいたほうがいいぞ」
「水も大事だね」
「お前は水魔法が使えるから練習すれば水くらいは出せるだろう」
「あ、そうか」
「素材収集という簡単なクエストでも魔物にこうやって出くわす、油断するなよ」
「わかった」
その後も午後まで収穫を続けた。スライムはそのあとも1、2匹現れた、だがディクソンに訓練だと言われアビゲイルが倒していった。どうにか酸を浴びることなく倒せて核も回収した。
ギルドに帰るとじじばば達はまだ残っていた。
「おかえり~アビーちゃん初仕事どうじゃった? 今度わしと行こう二人っきりで~」
「おぬし抜け駆けするな! わしと行こう。な? モギ草がたっぷり生えておるとこ知ってるんじゃ」
「疲れたじゃろ~? お茶でも飲まんかね」
じじい達がわらわらとアビゲイルに集まってきた。ばばあ達は呆れたり苦笑いをして見ている。
どこの世界もいるんだなと思いつつ、できるだけ丁寧にことわる。うやむやにするとしつこそうだ。
「えー・・・あーまだ仕事終わってないんでだめです~。それにしばらくは訓練も兼ねてるんでディクソンと行くんで無理です~」
「なんじゃおぬし! ずるいぞ」
「うるせえ! すけべじじい共が! こっちは大事な仕事をしてるんだ! ナンパしてんじゃねえよ、年を考えろ!」
ディクソンが雷を落としても、どこ吹く風だ。じじいとディクソンが言い合っているうちにそこから抜け出してカウンターに今日集めた薬草を持っていく。
「お疲れ様です~。早速量りますね」
薬草の入った布袋をナナは受け取り秤にのせた。載せた勢いで針が左右にぐらぐらと大きく揺れている。落ち着いたところでナナが慎重に目盛りを読んだ。
「うん、指定量よりちょっと多いですね、計算すると・・・・・合計で1030ゼムです~」
「あ、スライムの核もあるんだけど」
ナナは核を受け取り、秤の上の薬草をよけて今度は核をのせた。
「えーと・・・・こちらは核は合計で210ゼムです~。では合計で1240ゼムになります。どうぞ~」
銀貨1枚と大小の銅貨を数枚受け取った。嬉しい初収入だ。
「はぁ~ありがとうございます」
「一日で1000ゼム分集めるなんてすごいです~だいたい2日か3日かかるのに」
とナナは感心していたが。
「じじばば共じゃ体力的に3日かかるんだろ、だとしてもお前は今日頑張ってたよ。今週はこんな感じでやっていこう」
「うん、わかった。今日はありがとう。明日もよろしくおねがいします」
「お、おう。よろしくな」
「あー何赤くなっとるんじゃおぬし~。まだまだ若いの~」
ディクソンが少し返事にどもるとじじい達が集まってきてからかいだした。
「うるさい! ちょっと慣れてなくて疲れてるだけだ! 日が暮れる前に早く帰れじじいども!」
文句は言うがちょっと心配しててなかなかやさしい。
(明日も素材収集か・・・それにしても色々必要なものが出てきたぞ。ますますお金がかかりそうだけど、頑張ろう)
アビゲイルの冒険者初日はこうして無事に終わった。