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ケチャップ

色々あってのんびり書いてます。忘れられた頃に更新されていきます。

「さてと」

 アビゲイルは台所のテーブルにケチャップの材料を並べた。アルから渡されたトマトの水煮、玉ねぎ、にんにく、スパイスはローリエ、クローブ、赤唐辛子。

あとは調味料、酢、塩、念の為の砂糖。

「これでよし」

「トマトだけで酸味があるのにさらに酢を入れるんだね」

 オスカーはケチャップ作りに興味があるようで、材料を眺めていた。

「煮詰めるとトマトの酸味だけじゃちょっと足りないんですよね、ようはトマトのドレッシングを作るので」

「なるほど」

 トマトの水煮が一度に全て入るだけの大鍋を用意してかまどに置く、そしてアビゲイルはトマトの水煮の入った瓶を一つ、赤ん坊を抱くように持ち上げてゆらゆらと揺すった。

「う~ん、1キロ…あるかないかくらいかな?」

 大きなボウルにざるを重ねてトマトを一瓶全て入れて、ヘラを使って丁寧につぶす。皮と種を取り除くためだ。

「この水煮の瓶すべてこうしていくのかい? なかなか重労働だね…」

「これが最後の食感に影響するんですよね…大事なとこなんですわ」

 オスカーが手伝おうかと言い出したとき、台所にカミラとエルマが勢いよく帰ってきた。

「ただいま! アビーさん何作ってるの?」

 学校カバンを椅子に放り投げてアビーのとこにカミラは走り寄ってきた。

「こら、カミラ。台所でどたばたするんじゃないよ」

 すぐにオスカーから注意が入る、カミラは生返事をしてアビゲイルが裏ごししているボウルの中をのぞいた。

「うえっ! これトマト? やだぁ!」

 苦虫を噛み潰したように顔をしかめてカミラはすぐにアビーから離れた。嫌いなことは知っていたが、かなり嫌いなのだなとアビゲイルは改めて知る。

「こんなにトマトをどうしたの? アビーさん」

「新しくケチャップっていうソースを作ることになって、アルさんから渡されたんだ」

「じゃあこれはアルさんのトマトなのね」

「良かったぁ! 食べなくていいんだっ」

 カミラがほっとしたのもつかの間。

「一応3人には味見してほしいんだけど、今日の夕飯に出す予定」

「えーっ! やだやだやだっ! 絶対食べないからねっ!」

「カミラ!」

 捨て台詞を吐いて台所から逃げ出そうとするカミラの襟を掴んでエルマが吠えた。

「トマトはまだしも宿題から逃げようとするのはダメでしょ!」

「うううぅ~っ」

 さらにカミラは抵抗したが、オスカーからも怒られて、しぶしぶ宿題を始めた。エルマもカミラを見張りつつ宿題を始めたので、アビゲイルは4人分のお茶を入れてテーブルに並べた。

「宿題が終わってからでいいからエルマたちに買い物を頼みたいんだけどいいかな?」

「いいわよ、ケチャップ作りを手伝おうと思ってたし」

 エルマはすぐに良い返事を返してくれたが、カミラはいい顔をしていない。遊びに行きたかったのだろう。

「じゃあエルマはこのままここでアビーさんを手伝ってあげなさい、カミラ、私と買い物に行かないか?」

「えっいいんですか?」

 アビゲイルは驚いてオスカーに聞いた。

「今日はもう仕事もないしね、構わないよ。どうする?カミラ」

 最初は買い物を渋っていたカミラだったがオスカーとなら買い物に行きたくなったようで、すぐに承諾した。

「よし、じゃあ宿題を頑張っておくれ」

 カミラはさっきよりも集中して宿題に向かった。


 買い物に行く二人を見送ったあとに、台所に向かい、中火でクツクツと煮えている鍋を見る。最初に火にかけるときより少しかさが減ってきて、トマトの色が濃くなったように見えた。

「お手伝いしたいとは言ったけど、あとは煮るだけだったのね」

「うん、なんだか騙しちゃったみたいでごめんね」

「ううん、大丈夫よ」

 先程裏ごししたトマトは大鍋に全て移され、そこに玉ねぎのみじん切りとにんにくを少し入れてからひと煮立ちさせて、スパイスを入れ中火で煮込んでいる。

時々焦がさないように混ぜる、そのたびに底から小さく泡がふつふつと湧いてくる。

「これはマヨネーズみたいに使うの?」

「そうだね、でもサラダにはあまり使わないかな? どっちかというと肉類に合うんだよね。ウインナー、ベーコン、豚肉、鶏肉…あとはねじゃがいも、野菜ならこれが一番合うかな?」

「じゃがいも」

エルマはいつもつけている料理のメモに丁寧に書き付けた。

「あっ、あとねオムレツ。卵にも合うんだ。最高だよ」

「本当? じゃあ今晩オムレツにしましょう! 楽しみだわ」

オムレツはエルマの好物だ。そして今では得意料理のひとつになっている。

「あとは神父様たちに頼んだじゃがいもを揚げて…、あとはサラダかな?」

「朝にお父さんが畑から採ってきたブロッコリーがあるわ、カブと塩ゆでにしない?」

「いいね」


 ケチャップが半分くらいに煮詰まり、夕飯の献立が決まった頃にオスカーとカミラが帰ってきた。

 オスカーはじゃがいもの入った大きな袋を抱えていて、アビゲイルとエルマは驚いた。

「どうしたんですか、こんなに」

 袋にはおそらくだが、5~6キロほどじゃがいもが入っているだろう。よく八百屋から抱えてきたものだ。

「いや、八百屋さんが安くしてくれるというから…」

 それを聞いたエルマは大きくため息をついた。

「お父さんはこういう買い物が下手なのよね。久しぶりだから忘れてたわ」

「だ、大丈夫だよ。じゃがいもだし、地下室に入れておけば」

 オスカーはちょっと慌てつつ、台所の脇にあるドアを指差した。

「地下室ってそういえば入ったことないや」

「ああほとんど使ってないからねえ、ちょうどいいから見てみるかい?」

 そう言ってオスカーは地下室行きのドアを開けた。

「いいんですか?」

「でも掃除してないから、きっとホコリまみれよ。じゃがいもを置いてきたらすぐもどってくるといいわ」

 袋からじゃがいもを数個取り出して、エルマはまたすぐにオスカーに渡した。

「よし、じゃあ行こう。カミラも来るかい?」

「こわいからいいっ」


 地下室のドアを開けるとすぐに小さな棚があり、そこにろうそく立てがあって、ちびたろうそくが刺さっていた。アビーは火魔法でそのろうそくに火をともし、地下へ続く階段を照らした。

 階段は石造りだが、手彫りの石づくりのようで段差もまちまちだった。地下はそれほど深くなっているわけではなかった。すぐに階段を降りきって、地下室の奥にろうそくを向けると、縦長の部屋がぼんやりと浮かんできた。

「結構広いですね」

「うん、冬用の食料貯蔵庫なんだが、今までは私達3人で料理もほとんどしなかったから使っていなかったんだ」

 階段の脇にじゃがいもを置いて、オスカーは棚に置いてあったランプのネジをひねった。

するとすぐに明るく灯り、部屋全体が見渡せた。

「あれ? 火魔法ですか?」

「いやこれは太陽の光を集める石、日光石がはいってるんだよ。時々ランプを日当たりのいいところに置いておくと石が光を集めて、刺激を与えるとこうして光るんだ」

 ランプのネジを左右にひねるとさらに明るくなったり暗くなったりした。

「まだ日光が残っていてよかった。明日窓辺に置いておこう」

「へー便利ですね」

 オスカーのランプで見えた部屋の左右には天井までしっかりとした木製の棚があり、大量の蓋付き瓶が置いてあった。中は全部からっぽだ。

「みんなきれいにからっぽですね」

「先代のシスターがいらっしゃった頃はここは毎年いっぱいに食料が詰まっていたらしい。亡くなったときに遺言で村のみんなでここの食料を食べてと言われたそうだ」

「へー」

「彼女の作る料理や保存食はとても美味しかったそうだよ」

「気になりますね」

「私も食べてみたかったね」

 この地下室も当時は様々な保存食と食料が並んでさぞ賑やかだったのだろう。しかしこれだけ棚があるとこの棚すべてを何かで埋めたくなってくる。それにはどれだけの食料がいるのだろうか。

「今年はここにケチャップやトマトが保存されるのかな? さて、台所に戻ろうか」

「はい」


 台所に戻ってからケチャップの鍋を見ると先程よりさらに煮詰められてとろみが付いてきていた。アビゲイルはそこに塩と砂糖を入れて味を確認する。

「んー、こんな感じかな? これでもうちょっと煮詰めて完成だね」

「なかなか大変ね、時間がかかるから。お鍋から離れられないし」

「そうだね、今度作るときは一気に多めに作ったほうがいいだろうなあ…。さて、そろそろ夕飯の準備をしますか」


 アビゲイルはブロッコリーとカブを塩ゆでしたあと、じゃがいもの皮を向いて鉛筆くらいの細切りにして水にさらした。

「アビーさん、いつもとお芋の形がちがうわない?」

いつもは皮付きでくし型に切っている。今回はなんとなく前世のファーストフードでよく食べていた形に切った。なんだか無性に食べたくなってしまったからだったが、そこはエルマには話さなかった。

「うん、今日はこんな感じで手でつまめるほうが楽しいかなと思って」

「おやつみたいね」

 野菜を切って用意しているあいだにケチャップが完成したので、アルから預かったトマトの水煮が入っていた瓶を洗い、一度煮沸してから乾かしておいた瓶に熱いうちに詰めていった。5つの瓶に入っていたトマトは瓶一つに収まり、それでも満杯にはならず、7割くらいしかなかった。

「あれだけあったトマトがこれだけになってしまうんだね。これはなかなかに貴重なソースだなあ」

 鍋肌についた残りのケチャップをへらで丁寧に集めて皿に移した。これが今日の夕飯にみんなに試食してもらうぶんだ。オスカーがじっと見ている。

「みんなちょっと舐めてみます? 行儀が悪いですけど…」

 そう言ってアビーはケチャップを集めるときに使ったへらを差し出した。

「どれ」

 すかさずオスカーがついっとへらに指をすべらせてケチャップをすくった。

「もう、お父さんたら」

 父親がしたのでいいだろうとエルマも指ですくい、二人で味見をしてくれた。

「おっ…これは」

「美味しいわ!」

「よしよし、うまく出来ましたね。カミラも舐めてごらん」

 カミラは眉間にしわを寄せてめちゃくちゃ嫌がったが、オスカーが何度も食べているのを見て好奇心が勝ったのかようやくひとくち舐めてくれた。

「…おいしい」

「「えっ」」

 声を揃えてエルマとオスカーが驚いた。今までどうやってもトマトを食べなかったカミラがトマトを食べておいしいと言ったからだ。

「アビーさんの言う通りだったね、カミラがケチャップなら食べると言っていたがまさか本当に食べるとは…」

「へっへっへっへ」

 アビゲイルは得意げに笑った。


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