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初仕事

 アビゲイルは朝に洗濯をすませ朝食を作り、三人に食べさせて後片付けをしていた。

服は昨日購入したものに着替えた。服屋では下着と着替えを数組買った。スカートを服屋の女主人に勧められたが断った。しばらく着る機会もないだろうし、無駄遣いになってしまうのが理由だった。

 余ったお金は神父に返そうとしたが断られた、また何か入り用になるかもしれないとそのまま持っているように言われた。

借りたお金は銀貨15枚、今は3枚と大小の銅貨が残っている。しかし収入があるまでできるだけ使わないでおこうと決めている。

(せめてクエストごとの日払いだといいんだけど・・・・頼めるかな? というか初心者のクエストでいくらもらえるんだ? 金銭のことまだあまりわかんないな・・・・にしても初仕事なんだろなー)

とぶつくさ考えながら皿を洗っていると神父が声をかけてきた。

「アビゲイルさん、念の為弁当を作っていくといい」

「弁当?」

「最初の仕事か訓練が何時までかわからないし、ディクソンのことだ興奮して君を色々なところへ連れ回したり午後まで訓練かもしれない。昼に帰ってこれるかわからないぞ」

「ええ・・・初日から」

「一応・・・・ね?」

神父のほうがディクソンのことをよく知っている。昨日のギルドでのやりとりを思い出すとなくもない。

「わかりました、そうします。一緒に皆さんのお昼も作っておきますね」 

「おお、頼んだみたいで申し訳ない」

「いえいえ」

 アビゲイルはパンに焼いたベーコンと畑のクレソン、そして昨日購入したチーズを薄切りにしてはさみ、簡単なサンドイッチを作った。

(マヨネーズかマスタードがほしいところだけどなさそうだからこれでいいか)

サンドイッチを作っているあいだに神父が革製の水筒と布製のショルダーバッグを用意してくれた。

「私のお古のバッグだが使うといい」

「何から何までありがとうございます」

「いやいや、さあ気をつけていっておいで」

「いってきまーす」


 冒険者ギルドにつくとすでにディクソンが入り口で腕組みして仁王立ちで待っていた。顔はひきつっていたがどうやら笑顔を噛み殺そうとして失敗しているようだ。

(わし・・・今日生きて帰れるんじゃろうか・・・・)

思わず口調が変わってしまったが、怯えつつディクソンのそばへ行く。

「オハヨウゴザイマス・・・・・」

「おはよう! よく来た! よし今日からやるぞ!」

勢いがすごい、朝からこんなにでかい声でるのか。ディクソンにぐいぐい押されてアビゲイルは冒険者ギルドに入っていった。


 左右のカウンターの前にはいくつかの丸テーブルがありひとつのテーブルに椅子が4脚ほどおいてあるのだが、その席がだいたい半分ほど埋まっていた。

昨日よりずいぶん人がいる。といっても老人ばかりだ。アビゲイルとディクソンが入ってきた途端老人たちの視線が一気にアビゲイルに集まった。

「ん?」

なんだこのじじばば達は。

「おめーがアビゲイルちゃんか、んーめんこいエルフだな」

「え、あ、おはようございます」

「んーおはようさんです」「おはようさん」「お~は~よ~」

アビゲイルが少し大きい声で挨拶すると、老人たちが挨拶してきた。

「エルフさん、こっちゃきて一緒にお茶でも飲まんかね」

おばあちゃんが手招きしてくる。ここはなんだ。老人ホームか。デイサービスか。おじいちゃんがアビゲイルの手を握って椅子に座れと促した。

呆然としているとディクソンがアビゲイルを引き寄せ、じじばばたちを追い払った。

「こらこらこら! こいつはこれから仕事なの! あんたたちの井戸端会議に参加しにきたんじゃないの! まったく・・・・・」

「これは一体」

「あとで詳しく話す、2階で話そう。行くぞナナ、お前も来い」

2階の部屋は学校の教室みたいな所だった。机や椅子は少なめだが後ろの棚には毛皮や骨、薬のようなものを詰めた瓶類、いくつかの武器やらなんやらが無造作に置いてあった。

「ほんとにあのじじばばども・・・・うちは集会所じゃねえぞ」

「あの人達も冒険者ですか?」

「んなわけあるか!・・・・・と言いたいところだがある意味冒険者ではある」

ガクッとディクソンはうなだれた。不本意らしい。

「元冒険者とか?」

「予備冒険者です~。あの人達は本業の仕事を引退された村の人たちなんですが時々冒険者ギルドの仕事を受けてくれてるんです~」

「ええ? あのおじいちゃんおばあちゃんが魔物を倒しに行くんですか?」

「素材収集や清掃だ! 魔物退治なんていかせられるか!」

 説明するとこうだ。

 冒険者ギルドといっても結局はなんでも屋なのである。

魔物退治やダンジョン攻略などが冒険者の仕事としては有名で人気があるが、トココ村のような辺境のど田舎ではそんな仕事はほとんどない。むしろ村の人手不足を補う仕事が多いのである。

 トココ村は北側に前人未到の大森林があり、薬草の宝庫でもあるので一番多いクエストが町や都からの薬草採取依頼である。素材収集はこの村で一番依頼の多いクエストでこの冒険者ギルドはほぼこの素材収集で維持されているのだった。

他には村からの依頼で村の周辺警備、町の清掃、街道の点検、馬車の護衛、下水掃除、春の種まき、秋の収穫、祭りの準備、薪割り、雪かきなど、とにかく地味な作業が多い。

 冒険者ギルド自体も人手が足りないため、町の老人や子供、そして大人たちも仕事の合間の小遣い稼ぎや村のために予備冒険者となってクエストをこなしているのだ。

(アルバイトみたいなものなのか、あの人達は)

「素材収集を依頼しているうちに、じじばばどもが仕事がなくても集まってきて午後までああして話したりゲームをしたりするようになっちまったんだよ。じじばばの家の奴らはやたらとウロウロされるより安心だといって暇ならギルドに行けばというくらいなんだ」

 本当にデイサービスみたいになってるな・・・・・・。神父や村長が言っていた「溜まっている」というのはこういうことらしい。

冒険者ギルドといえばならず者たちの集まりで、ギルドでビールを飲んだり喧嘩が始まったり、次のクエストを探す剣士や魔法使いのパーティがわいわいと活気あふれているイメージだったが、ここのギルドは病院の待合室みたいになっていた。

「なんか思ってたのとちがう・・・・・」

アビゲイルはポロッとこぼした。それを聞いたディクソンはあせりだした。

「ちがうーちがうんだー! 他の町の冒険者ギルドはもっと活気もあってじじばばなんか一人もいないんだ、ここが田舎すぎる、ど田舎すぎるんだよー! 大森林があるのに魔物もほとんどでない。平和すぎて冒険者が居つかないんだ!」

「まあ冒険者は基本お金と名誉を求めますから・・・・。素材収集しか仕事のないギルドなんて・・・・・ねえ?」

ナナはディクソンに同情しつつアビゲイルに同意を求める。

「ねえって言われても・・・・・」

うつむいていたディクソンは顔をあげて、アビゲイルの肩をたたいた。

「とにかく仕事はあるんだ、地味だけどな・・・・・だが全部が村には大事な仕事なんだ。素材収集に村からの依頼は冒険者の基礎を学ぶには大事なんだ。それにここはせいぜい狼かゴブリン、スライムくらいしかでてこないから、戦闘訓練するにも最適なんだ。でもじじばばや子供には危険な魔物だ、まだ事故がないってだけなんだ」

 いつこれから危険が起きるかわからない。それを防ぐにはちゃんと訓練を積んだ冒険者が仕事をするのが一番、だが冒険者になりたいものはおらず、わざわざ来る者もいないというわけか。

「ギルドの現状を改善するためには新しい冒険者が欲しかった・・・・と」

アビゲイルが言うとディクソンとナナは申し訳なさそうに目を合わせ、ため息をついた。

「そうだ、頼めるのは村の中の仕事だけなんだ。村の警備や護衛。魔物退治なんて頼めない、俺しかできないんだ」

「今までそれを全部一人でこなしてたんですか?」

過労で死ぬぞディクソン。

「いえ~もうひとり冒険者がいるんですけど、いろんな意味で使えないんです」

「いろんな意味で」

「簡単に言うと真面目に仕事してくれないのに仕事を選り好みするんです~」

「あー・・・・仕事ができないのに金と名誉を求めるという」

「そのとおりです~」

ナナもそいつを思い出すだけで疲れる、みたいな顔をしている。ちゃんとした頼れる冒険者仲間がいないことも「溜まっている」理由の一つか。ついでに精神的、肉体的疲労も溜まっているっぽい。

「初心者でもいいから信頼できる冒険者がほしいんだ。そうすれば俺も少しは他の仕事が出来るようになるし、じじばばに危険な仕事を頼むことも減る」

「なるほどなるほど・・・・」

 アビゲイルがうなずいたあと、しばしみんな無言になった。これはおそらく私の返答待ちなのだろう。ディクソンは目を閉じてじっと待っている。

「思ってたのとちょっと違うけど、まあ冒険者にはなりたいから全然だいじょうぶ」

「本当か?」

かっと目を見開いてディクソンは聞いてきた。

「うん、私は初心者ですし、仕事を選ぶなんて出来ないしディクソンが言うには初心者にはいい訓練になるっていうし、それでお金ももらえるならこんなにいいことないですし、あとじじばばと話するの嫌いじゃないですし」

「本当に・・・・アビ~! ありがとう! ありがとう! 一緒に頑張ろう! あ、もう敬語は使わなくていいぞ!」

「ありがとうございます~。私の仕事も少し減るかもしれないです~!」

二人が抱きついてきた、こんなにありがたがられるのもまんざらではない。

「でも私で役に立つかな・・・・」

「大丈夫だ、しばらく俺と一緒にクエストをこなそう、今日はこれから素材収集のクエストに行くぞ!」

「お、おう!」

初仕事はもう決まっていた。




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