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下水道掃除 再び

 魔力が尽きて失神してしまい、そのままシャイナとナナの家に運び込まれてから、とんでもなくくそまずい薬を飲んでさらに食べ物を胃に詰め込んでアビゲイルはひたすら眠った。そうしなければ翌日の下水道クエストには参加できないと思ったからだ。

半分でもいいから回復しておけば範囲魔法くらいは使えるだろうと思ったのである。

「おはようございます~。」

「おはようさん、早いね。昨日よりは・・・・うん顔色もいいね」

「今日から働いてもいいですかね?」

「スキルツリーを見て魔力が半分以上回復してりゃ問題ないよ」

 アビゲイルは言われてすぐにスキルツリーを開いてみた。魔力のところは「1021/1513」と書かれている。前に見たときよりも魔力がまた上がっているようだった。シャイナに伝えると

「思ったより良くなっているね、にしても結構な魔力を持っているじゃないか。ひひひ」

少しだけ褒められてアビゲイルはちょっとだけ嬉しかった。台所からナナが顔を出して朝食の準備ができたと言ってきた。

「残念だけど薬はもういらないね、あとはたっぷり食べて、たっぷり動きな」

 今日のクエストに出る許可がシャイナから降りたのでほっとしたのもつかの間、目の前に目玉焼きが3個と厚切りのベーコン。山盛りの生ハーブと野菜のサラダが並べられた。自分だけかと思ったが、ナナとシャイナも同じ量で驚いた。大食いなのはナナだけではなく血筋のようだ。

「さあ・・・・・たっぷり食べな・・・残すのは許さないよ・・・・ヒヒヒ」

食事の量に驚いているアビゲイルを見てニヤニヤしながらシャイナは丸パンを3個アビゲイルの皿に盛った。

「い、いただきます」

 クエストがもう始まっているような気分になったが、アビゲイルはそれ以上考えないようにして丸パンにかじりついた。


「それじゃあ、いってきます~」

「二人共気をつけるんだよ」

「・・・・・ハイ。シャイナさんありがとうございました」

 動きたくないくらいに食べさせられたアビゲイルを見てシャイナは愉快そうだったが、うんうんと頷いてから数回手を振ってすぐに家の中に引っ込んでいった。

「アビーさん、ここからでもホラ、教会が見えるでしょう~?」

「ん、あ、本当だ。それじゃあ一回着替えてからクエストに行くってディクソンに伝えておいて。そのまま下水道に向かうって」

「わかりました~」

 ナナとはそこからすぐに別れて教会につながる道を下っていった。ナナ達の家は少し小高い丘にあって、家の周りには大きな庭とハーブの畑があった。咲き始めたバラが甘い良い香りを庭から朝露で濡れたアビゲイルの歩く小道まで漂わせている。お腹がいっぱいで苦しかったが、バラの香りで少し気分がスッキリしてきた。

「腹ごなしにちょっと走っていくか」

 腕を数回ぶんぶんと回してから小走りに小道を駆け下りていった。


 教会の前でオスカーが掃除をしていた、エルマとカミラを見送ってからのオスカーの日課だ。走ってくるアビゲイルを見つけると大きく手を降って迎えてくれた。

「アビゲイルさん、良かった。もういいのかい?」

「すいません、昨日倒れちゃってそのままシャイナさんの家だったので、ご迷惑おかけしました」

「いやあ迷惑なんて。エルマ達が心配してたよ。カミラもシャイナさんが大嫌いなのに家に行きたいとか言い出してね」

「あらま」

 ずいぶん心配されたのだなとアビゲイルは驚いた。だが狼退治のときもアビゲイルが返り血まみれで帰ってきたときのオスカー達の驚きを思い出すと、カミラのその思いもわかる気がする。

「本当に危なっかしくて申し訳ないです」

「元気になったならいいんだよ。カミラ達も学校から帰ってきたら伝えておくよ」

「お願いします、着替えたらこのまますぐにクエストに行くので」

「無理はしないようにね」

 アビゲイルは軽く水浴びをしてから着替えてすぐに下水道に向かった。着くと最後の清掃班と殿のディクソンが下水道に入ろうとしているところだった。

「おう! アビーもうだいじょうぶなのか?」

 ディクソンがすぐに気づいてすぐに声をかけてくれた、それを聞いてじじい達も気づいて振り返り、元気そうなアビゲイルを見て安心したのか笑顔になっていく。

「もういいのか?」

「うん、魔力も半分以上戻ったし。朝めちゃくちゃ食べたし」

「ナナの家ってなんでも大盛りだからな。念の為今日は魔法は使わないようにしとけ」

「探索魔法も?」

 確かにあまり魔法は使わないようにしようと思ってはいたが、全て使うなと言われて少し戸惑った。

「スライムはだいたい間引いたし、汚れも昨日お前の魔法でほとんどキレイになったから今日は必要ない。念の為俺かロイドの側を離れないようにしろ」

 それではいる意味もなさそうだが、言うと休めと言われそうなので黙って頷いた。

「アビーちゃ~ん。昨日はすまんかったのう。無理させてしもうて。後で心臓亭のイチゴタルトおごらせてくれい」

「私の魔力管理が良くなかっただけだから気にしなくていいですよ」

「わしらが悪かったから今日昼飯おごらせてくれ~。一緒に食べよ?」

 アビゲイルの手を握ってすりすりと撫でてくる、反省はしているようだが下心までは消えないようだ。イチゴタルトは魅力的だが、アビゲイルは丁寧に断った。

「今日はまだ本調子じゃないんでまっすぐ帰ります。すいません」

「う~ん、残念じゃの」

「本当に詫たいならそのスケベ心は捨てろよな・・・・・。ホラ、いつまで手を握ってるんだよ」

 ディクソンが呆れて注意する。

「へっへへ、そうじゃな。年をとると自分を贔屓するようになってしもうていかんな。まあ他のやつらと詫びについては決めておくわい」

「抜け駆けすると命にかかわるしの。ほほほ」

 自分と食事して死なれるのはかなり困る。ディクソンも苦笑いしている。

「お前はほんとじじい達に人気があるな」

「うーん、なぜなのか」

「よし、じゃあ俺たちも始めようぜ」

 松明を灯してようやく下水道に入っていく。昨日よりは中のニオイも弱まっているような気がする。壁も床もヌルヌルせず、歩きやすい。水路の中ではスライムが気持ちよさそうに水につかってゆらゆら揺れている。

「ずいぶんキレイになったね」

「昨日お前が倒れてから、じじい達が気合を入れだしてな。一応今日も掃除だが最終点検だけでもいいくらいだ」

「おお~」

 奥に進んでいくとロイドと村長がヒビの入った壁を点検しているところだった。

「お、アビゲイル。もうだいじょうぶなのか?」

「呼び捨てしないでよ。まあどうにかだいじょうぶ」

「おお、良かったねアビーさん。でも君のおかげでかなりキレイになったよ。今日は掃除も軽くでいいし、点検と修繕も午前中に終わりそうだよ」

自分が倒れてしまい、予定通りに掃除が進んでいないのではないかと不安だったが杞憂だったようだ。高圧洗浄の水魔法もだいぶ役に立っていたらしい、少しうれしい。

 村の左官職人が壁の修理をしている間、職人が襲われないように見張る。今は探索魔法を使っていないのでなんだか心もとない。

「魔法をつかってないと落ち着かないだろ」

ディクソンがアビゲイルの気持ちを見透かしてきた。

「そうだね、ぜんぜん落ち着かないよ。すぐ後ろが気になってさ」

「魔力が尽きるとそういうことになるから、魔法が使えなくても気配を感じるくらいにはしておいたほうがいいぞ」

 言われて確かにそうだとアビゲイルは思った。

「ふー、いろいろできるようにしてかないといけなくて大変だなあ」

「まあ、あせらずやれよ」

 見張りの間は水路のスライムを注意しつつじじばばの掃除の様子を横目に見ていた。何度もこのクエストに参加しているのかみんな掃除の手際がいい。そういえば初日の打ち合わせも非常に簡単で、たいした話し合いもなく始まった。

毎年行われていることだからみんな慣れていて、手際も良くなっているのだろう。

「なんでも積み重ねだね」

「そういうこと」

 そのやりとりを聞いて村長がニコニコしている。

「それ以上がんばるとまた倒れてしまうよ。アビゲイルさん」

「もうちょっと体力をつけろ」

「ディクソン、期待しているとはいえ言い過ぎるのも良くないぞ。アビゲイルさんは真面目だから」

 村長に軽くたしなめられてディクソンは肩をすくめた。

「よし、修理終わりましたぜ」

「早かったな、ご苦労さん。おーいみんな! 修理も終わった! 今年の下水道クエストは終了だ! 全員表に出ておくれ!」

 村長が声を張り上げて、みんなに声をかける。

「みんな忘れ物がないようになー!」

 さらに大きな声でディクソンが通路ごとに呼びかけていく。

「声でか」

「みんな耳が遠いからな。クエストの報酬はギルドで受け取ってくれよー!」

 下水道を出てから点呼確認し現地解散となった。今日はあまり働いた気がしないが倒れたあとだし無理もできない。太陽はまだ高いところにあり、午後の予定は何もない。

「報酬もらったらすぐに帰ろうかな」

「アビー、これから心臓亭でメシ食おうぜ」

 ディクソンとロイドに誘われた。アビゲイルは少し迷ったがオスカー達に心配をかけてしまったので報酬でイチゴタルトを買って帰ろうと思い、ディクソンの誘いについていくことにした。


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