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下水道クエスト2

 下水道の通路はそれほど細かくはなく、たいした広さもない。探索魔法でも半分以上が把握できる。うきうきしながらビッグスライムを追うディクソンを追いつつ、アビゲイルは探索魔法を切らさないようにして周囲を調べた。

「動いているのは1匹だけかな? 反対方向は遠くて見えないよ」

「塊はどうだ?」

「さっき見つけたのと他にひとつ、ビッグスライムの奥の道にあるよ」

「よし、さっさと片付けていこう」

「その通路だよ、右」

 通路の入り口に立ち止まり、中をのぞくと水路の真ん中に大きな膨らみが見えた、噴水のように水が湧き出ているように見えたが松明の光をかざすとぬるっと光ってスライムがぶるるんと震えた。

「うわあ、大きい」

「アビーは初めて見るだろうが、これはまだ小さいほうだぞ。それに人工スライムが集まったやつだからおとなしいもんだ」

「でも倒しておかないと駄目なんだよね?」

「ああ、大きくなると攻撃的になるし、下水のゴミじゃ足りなくて外に出ちまうからな」

 ビッグスライムはこちらに気づいているのかいないのか、同じ場所から動かずにじっとしている。よく見ると身体の真ん中にうっすらと核が見える、大きい分核もすこし大きくなっていた。

「倒し方はどうしたらいいの?」

「大きいから刃が通りにくいんだ、なので少しずつ削って小さくしてから核を破壊する」

「火は効く?」

「効くが小さいやつみたいに溶かすには高温で長時間焼かないと駄目だ。雷で核を破壊するって方法もあるがこれは技がいる」

 剣も魔法も通じにくい厄介な相手のようだ、今のアビゲイルでは太刀打ち出来ないかもしれない。

「ロイド、行け」

「えっ!」

「行け、訓練の成果を見せてみろ」

 アビゲイルもロイドも驚いた、ディクソンがメインで倒すのだろうと思いこんでいたからだ。自分よりはロイドのほうが戦えるとは思うが、倒せるのだろうかとアビゲイルは不安になってしまった。ロイドは突然の指示に慌てておろおろしている。

「どうやって倒すんだよ」

「今話してただろうが、聞いてなかったのか? 細かく削って小さくしてから核を突いて破壊だ」

「アビゲイル! 火でまず叩け!」

「私の火魔法じゃ弱くて相手を怒らせるくらいしかできないよっ。それよりも先制して切っていったほうがいいって。援護はするから頑張って!」

「くそっ」

 話を全く聞いてなかったのがわかってアビゲイルは呆れてしまったが、剣を構えてビッグスライムに向かっていくロイドを少しは手伝えたらと、探索魔法を弱めて火がすぐに打ち出せるように魔力を再度練り直す。ディクソンは軽く構えるだけでロイドとスライムの動きを見つめていた。

「おらぁっ!」

 ロイドは勢いよく上から剣を振り落としスライムを叩いた。おそらく叩き斬ろうとしたのだろうが剣はボヨンと跳ね返り、傷一つつかない。思っていたより固いようだ。その一撃でスライムは激しく上下に震えて酸を吐き出した。ロイドはかろうじて避けた、酸は壁と床に撒き散らされてそこから湯気が立ち上っている。大きく成長しているせいか酸も強力なようだ。あんなものが身体にかかったら軽いやけどではすまないかもしれない。

「うわっ・・・・」

 酸の強さを見てロイドはひるんだ、ビッグスライムはロイドに向かって体当たりをしかけてきたり、酸を吐いたりと見かけよりすばやい攻撃をしてくる。ロイドはそれを避けて逃げるだけで精一杯だ。

「びびるな! 力押しじゃあ太刀打ちできんぞ! 落ち着いて刻んでいけ!」

「ごぼうのささがきみたいにやるといいかも!」

「なんだよささがきって! うるせえぞ!」

 ディクソンとアビゲイルで助言や応援をするが、それは単にロイドを苛立たせているだけのようだった。ビッグスライムとうまく戦えない様子を見てため息をつきつつ、ディクソンはアビゲイルを見る。

「え?」

「ロイド引け! アビーと交代だ!」

「うそ!」

「行け! アビゲイル! ごぼうのささがきみたいに切るんだ!」

「面白がってるでしょ!」

 めちゃくちゃ嫌だったが言われたからには仕方ないとロイドの前に出る。スライムはまだロイドを攻撃しようとしていたのでアビゲイルはスライムの後ろにまわって斬りつけた。

(叩いて剣を引くときに切る!)

 さっき小さなスライムを退治しているときにディクソンから聞いた助言を心の中で反芻しながら力を込めて剣を引く。するとほんの僅かだがスライムを削ることが出来た。ぬるぬるした身体だったので剣がすべり、思ったより切ることが出来なかったが初めてスライムを切ることが出来た。

「切れた!」

「いいぞ! その調子だ! 削ってけ!」

 体当たりを火魔法で牽制しながらスライム上から少しずつ削っていく、だがやはりまだ不慣れなので切れたり切れなかったりとうまくいかない。アビゲイルはこのままでは倒すのに半日かかってしまう。

「ディクソン! 私だけじゃ倒すのに時間かかっちゃうよ、手伝って!」

「ロイド、手伝ってやれ。アビーを見てコツがわかったろ」

「お、おう!」

 さっきと同じように上からスライムに斬りかかろうとしたのでアビゲイルは大丈夫かと思ったが、今度はきれいに大きくスライムを削り落とした。

「いいぞロイド!」

「うおおおっ!」

 先程うまくいかなかった苛立ちを投げつけるようにスライムを切り刻んでいく、怒りにまかせているので動きは大きく雑だが力強い。ビッグスライムは前から後ろから二人に切り刻まれていって中央の核がようやくはっきり確認出来るようになった。

「よし! 核を壊せ、最後の締めだ油断するな!」

 剣を突き立てて核の中心を穿つ、パリンと高い音を出して核は2つに割れた。と同時にスライムはあっという間に溶けて水に流れていってしまった。水路には割れた核が水底に沈んでいる。その核を拾いながらアビゲイルはつぶやいた。

「うわあ・・・・核を壊すとあっけないものなんだね」

「小さい普通のスライムとそれは変わらんな。だが戦ってわかったと思うがかなりやっかいなやつなんだ。スライムってのは。二人共お疲れさん。よくやったな」

「今度からどこかに出かけるときはそこに何が出るかちゃんと教えてよね」

「わかるとつまらなくないか?」

 黙ってアビゲイルはディクソンを睨んだ。

 残りのスライムの塊を片付けに移動する。さっきのビッグスライムでアビゲイルはコツを掴んだおかげで最初よりうまくスライムを片付けていくことが出来た。ロイドも最初のときよりは丁寧になったような気がする。

「えーっと・・・・・塊があっちにもう一個。・・・・・まだいるよビッグスライム」

「なに? よし行こう!」

 また嬉しそうにディクソンが向かっていく。またロイドと二人で退治するように言われるだろうか? するとロイドも同じことを思ったのかアビゲイルと目があった。

「・・・・たぶんさっきよりはうまくいくと思う」

 アビゲイルがそう言うと、少し考えてからロイドが答えた。

「そうだな、俺もさっきよりはうまくやれると思う」

「よし、がんばろ」

「おう」

 ディクソンを追いかけるとビッグスライムを松明で照らして二人を待っていた。スライムも二人を待っていたかのようにおとなしくぶるぶる震えている。

「さっきよりちょっと大きいな、今度は俺がやろう。ロイド松明持っててくれ」

「あ? ああ」

「見てろよ」

 ディクソンは軽く顔を拭ってからスライムをスプーンですくうように剣を振るった。早すぎてよく見えなかったがぶるんと大きく削がれてスイカくらいの大きさのかけらがボチャンと水路に落ちた。

「うわ」

 間髪入れずにまた大きく削いでいく、その速さと削ぎ落としていく量が半端ではない。あっという間にスライムは削られて四角くなってきた。そして最後に核を入れたまま削り上げた部分が床に落ちる前に核ごと2つに切り落としてスライムを溶かしてしまった。

「ふう、ま、慣れりゃこんな感じだな」

「すごい速さだったね・・・・・酸を吐く暇もなかった」

「吐出口がわかればそこから削いでいくといいんだよな、これは経験がいるから上級テクニックだ」

 またロイドと目が合う、お互いの不甲斐なさというか弱さを痛感してしまう。

「訓練あるのみ」

「・・・・だな」

「残りの塊を片付けて早く帰ろう。たぶんもうすぐ昼になるからな。アビー場所教えてくれ」

 何もなかったようにディクソンはロイドから松明を受け取りすたすたと奥に進んでいく。

 アビゲイルもロイドもまだまだ冒険者としてはひよっこと言わざるを得ない。ディクソンはまだ若いのだが、どんな訓練と冒険をしたらこんなに強くなれるのか、アビゲイルにはさっぱりわからなかった。


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