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下水道クエスト

最近は更新が遅くて申し訳ありません

総合評価が1000ポイントを超えることが出来ました。本当にありがとうございます。

 今日から3日間、トココ村の下水道掃除が始まる。役場と冒険者ギルドの共同作業でこれに予備冒険者が加わる。なかなか規模の大きいクエストだ。アビゲイルは購入したばかりのバッグに念の為の着替えやタオルを詰めて、治ってきたばかりのコルセットを装備して早朝ギルドに向かった。

ギルドにはもうディクソンと村長がいて、二人でコーヒーを飲んでいた。

「おう、早いな」

「おはよう、アビゲイルさん」

「おはようございます、時間とか聞いてなかったから早めに来たんだ」

「いい心がけだな」

 ディクソンはアビゲイルにもコーヒーを注いでくれた。村長がそのコーヒーに蜂蜜をからめたスプーンを入れてかき混ぜ、手渡してくれる。

「ありがとうございます」

「今日は私達役場の人間とディクソンと君とロイド君で下水道に入るよ。初日は下水道の初期点検とスライム退治だ」

「午前中は俺たちが先行して3人で行く、午後は役場の奴らとだ、午後は警備に近いな」

「ふむふむ」

 今日は予備冒険者のじじばば達は参加しないらしい。彼らに主に頼むのは下水道の掃除なので明日以降の2日間の依頼となる。

「今日は下ごしらえって感じなんだね」

「そうだ、そして俺たちにとってはメインの仕事になる。気をつけろよ」

 強くアビゲイルは頷く、アビゲイルにとっては一度スライムに襲われたことがあるのでその恐ろしさは十分承知している。下水道のスライムはいつものスライムと違うかもしれないので油断は出来ない。コーヒーを飲みながらディクソンと村長の簡単な打ち合わせを聞いているとナナが眠そうにギルドに入ってきた。

「おはようございます~」

 アビゲイルはナナに蜂蜜入りのコーヒーを渡した。その様子を見ながらディクソンはギルドの入り口を眺めながら小さく舌打ちして険しい顔になった。

「ロイドのやつ、早めに来いと言ったんだがな・・・・。まったく、アビー一緒に来い。ロイドを叩き起こしてそのまま下水道に行くぞ」

「はいはい」

「皆さんお気をつけて~。いってらっしゃい~」


 ギルドを出て広場を抜けて南の道を下っていく、このあたりには店はなく民家が道沿いに並んでいる。その中に小さめの同じ形の家が並んだ道に出た。聞くとこのあたりは貸家なのだそうだ。そのうちの一軒にディクソンがずんずん進んでいく、他の家より庭が汚く雑草だらけでアビゲイルはすぐにここがロイドの家なのだなとわかった。

「ロイドー! 起きろ! 朝だぞ!」

村じゅうに聞こえるのではないかという大声を出しながらドアを叩く、ドアも壊れそうな勢いだ。

「起きろ! ドアぶっ壊すぞ!」

「借金取りみたい」

 すると家の中からゴソゴソガタガタと音が聞こえてロイドが出てきた。パンツ一枚で寝癖だらけで、朝日が眩しいらしく眉間にシワが寄っている。

「おはようロイド」

「ああ、おはよ・・・・・」

 ずいぶん素直に挨拶するなと思ったがまだ寝ぼけているようで、ぼんやりしている。だがアビゲイルに気づくと驚いて慌てだした。

「なっなんでお前がいるんだよ!」

 ディクソンがすばやくロイドの頭を叩く。

「あほ、お前が寝坊したから迎えに来たんだ。早く準備しろ。下水道に行くぞ。お前を迎えに来て時間が押してるんだ」

「えっ? あっ。いけね」

 言われて思い出したのかようやく眠気が覚めたのか、ロイドは部屋に戻りガタガタと準備を始めた。ドアが開きっぱなしだったのでアビゲイルはそのまま部屋を覗き込む。小さなキッチンにテーブル。その向こうにはもう一つ部屋があるらしく、そこからロイドが慌てて準備している音が聞こえる。キッチンの側にはトイレとお風呂があるらしい。小さいが庭もあって住心地は良さそうだ。

「部屋きったね」

 間取りや立地はいいがとにかく部屋が汚い。窓にはホコリが、床にはあらゆるものが散らばり、足の踏み場もない。

「うるせえな! 忙しくて掃除できねえんだよ!」

 アビゲイルのつぶやきが聞こえたのか、ベルトを締めながら部屋から出てきた。掃除する気があるのはいいが、前に掃除したのはいつなのだろうか呆れてしまう。

「さいですか」

「いいから早くしろよー」

 それからしばらくしてようやくロイドが出てきた。寝癖は治ってないがあとはいつものロイドだ。

「まったく、仕事の約束があるときは遅刻や寝坊するなよ、信用問題だぞ。お前だけの問題じゃない、俺たち全員悪く見られるんだからな」

「わーかったよ、わかってます! すいませんでした!」

ディクソンに説教されるロイドをアビゲイルは黙って眺めつつ、3人は下水道に向かった。だいじょうぶだろうか?


 下水道の入り口は村の南側と北側にあるそうだ。入り口は川の側にあり、その横には鉄格子のかけられた小さめのトンネルがあって、中からざぶざぶと水が流れている。下水の水だが思ったよりきれいに見えた。ランプと松明を用意して中に入っていく。

 中は想像していたよりもきれいで、嫌な匂いもあまりしないし流れる水も案外きれいだった。

「もっと汚れてるかと思った」

「スライムがゴミや汚物を全部食べてくれてるんだ。水もきれいにしてくれる。人工スライムはゴミしか食わん」

「人工スライム?」

 人工スライムはその名の通り人が作ったスライムだ。錬金術の一種らしいが、野生のスライムから開発された家畜なのだそうだ。生ゴミや汚物を食べて成長するが繁殖率は低く、生ゴミや栄養価の高い物を食べてもすぐには分裂したり増えたりしないらしい。

「でもまあ増えないわけじゃないからこうして年に2回間引きするってわけだ」

「なるほど」

 探索魔法には結構な数のスライムが見える。松明を掲げながら奥に進んでいくと火に怯えたスライムが目の前をぴょんぴょんと跳ねて、下水の中を泳いでいく。

「松明は絶対手放すなよ、こいつらは野生のスライムより弱いが怒らせたら襲ってくるからな。もうちょっと奥に行くぞ」

 ディクソンを先頭にロイド、アビゲイルと続く。アビゲイルは初めての場所で少し緊張していたが。ロイドはあくびしながらだらだらと歩いている。何度も来ているので慣れているのだろう。探索魔法にはスライムはまばらにチラホラと反応していたが、奥に行くごとに増えていく。

「ひえー・・・どんどん増えてきた。ってアレ?」

「どうした? 何か見えたか?」

「この先の左の道に何か大きな反応が・・・・・なんだろう? 塊みたいな」

 ディクソンはすぐに早足で左の道に入り松明で照らした。そこには壁にびっしりと大量のスライムが固まって天井までくっついていた。カエルの卵がべったり壁に張り付いているようだ。たまにブルブルと震えて動き。気持ち悪い。

「うわあー。気持ち悪っ」

「今年は多いな。よしこの塊をほぐしていくからお前ら1匹ずつ退治していけ」

「火で炙ればいいじゃんか」

 ロイドが松明をスライムに近づけようとしたがディクソンがすぐに止めた。

「この量のスライムが火で驚いて天井から落ちてきてみろ。全員スライムの酸で火傷するぞ。火魔法で一気に焼くにはかなりの大魔法が必要だ。はじっこからコツコツやらないとだめだ」

 そう言ってディクソンは剣を使ってゴリゴリとスライムを壁から剥がしていく。アビゲイルは狭い通路で剣が人や壁にぶつからないように気をつけながら1匹ずつ退治していく。練習にと切ろうとしたが狭い場所で大きく剣が振れず、勢いをつけられないので仕方なくボコボコと叩いていると。

「アビー、剣を引くように叩け。そうすりゃ切れる」

「引くように・・・・やってみる」

 壁から無理やり剥がし落とされたスライムは慌ててぴょんぴょん跳ねて逃げようとする、動きを見定めて上から剣で叩きおさえるようにしてから一歩引いて剣を勢いよく引くと、ほんの少しだが切ることが出来た。

「おっ切れた」

「いいぞ、もっとすばやくやれ。スピードを上げろ」

「うん」

 そうして3人がかりでスライム溜まりを片付けるのに結構時間がかかった。

「アビー、ここから今みたいな塊が他にも見えるか?」

「ちょっと待って」

 目を閉じて意識を集中し探索範囲を横に広げる、広げた分だけスライムの反応は小さくなる。だが塊はそのまま大きくいびつな形で見えてきた。目を閉じたまま塊の見える方向を指差す。

「あっち、今みたいな塊が見える・・・・ん?」

「どうした?」

 何か大きなものが動いている、見間違いかと思い意識を向けるとやはり大きな塊が動いている。

「なんか・・・・羊くらいでっかい丸いのが動いてる。塊の側に」

「あー・・・・」

 それを聞いてロイドがめんどくさそうな顔をしてため息をつき、頭をボリボリとかいた。ディクソンは逆にちょっとうれしそうだ。

「今年も出たか」

「え?」

「ビッグスライムだ。狭い場所でスライムが過密するとたまにくっついて大きくなるんだ。ダンジョンによく出てくるやつだ。そいつから倒そう! よし行くぞ!」

「えー! 聞いてない!」

 目を輝かせてビッグスライムに向かおうとしているディクソンにアビゲイルは文句を言った。

「ダンジョンでは何が起こるかわからんからな! 仕方ない! さあ行こう!」

「ここ下水道だよ!」

 アビゲイルの言葉を聞かずにディクソンはビッグスライムのいる通路に鼻歌を歌いながら向かっていった。ロイドも何も言わずについていく、ディクソンのそんな行動にもう慣れているのだろう

(もっとちゃんとこのクエストについて聞いておけば良かった・・・・・・) 

 大きなため息をついて剣を持ち直し、アビゲイルはディクソン達を見失わないように追いかけた。

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