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練乳と冒険者バッグ

 酒場とパン屋に練乳を届けたあとに広場の掃除をした、だんだん暖かくなってきたからか先月掃除したときよりも雑草が伸びている。石畳の間から生えているので弱々しいがまた生えてくると面倒なので、できるだけ根っこから抜いていく。

雑草を抜くだけで結構かかってしまった。そのあとは箒で丁寧にはいて小さなゴミを集めていく。ちょっと埃っぽいので広場の真ん中の水場で箒を濡らし、その周囲だけ水をまいてゴシゴシとはいた。

(気休めだけどちょっとすっきりしたかな?)

 集めたゴミを袋に集めてギルドに帰る。

「お疲れさまでした~。これ報酬です~」

 前回と同様1200ゼムいただく、カウンターのナナの席をふとみると空になった瓶が洗って置いてあった。

「あれ・・・練乳食べちゃったの?」

「えへへ、コーヒー飲みながら食べてしまいました~。でも作り方は教えてもらったんで家で今日作ってみます」

 ナナは瓶をアビゲイルに返しつつ、照れながら答えた。

「美味しかったのは良かったけど、食べ過ぎないでね。太るよ」

「は、はい~。気をつけます~」

 少し早い昼食を終えてナナとコーヒーを飲んでいるとディクソンとロイドが帰ってきた。

「おかえりなさい~」

「おう、パン屋に新しい菓子パンが出てたから買ってきたぞ。アビーも食うか?」

 ディクソンはそう言うと紙袋からサンドイッチを一切れくれた。柔らかい白パンにクリームとレーズンをはさんでいる。もう販売しているのかとアビゲイルは驚いた。しかも朝に食べたクリームよりさらにおいしい。ラムレーズンを使って砂糖の量を調節し、さっぱりと仕上げている。

「アビーの作った練乳で出来てるのかこのパン」

「パンと言うかクリームがね。でもこんなに工夫してるのはパン屋さんすごいよ」

「たいしたもんだな、店にいたやつらみんな買ってたぞ。流行るんじゃないか?」

「へー」

 ナナは2個めのサンドイッチを幸せそうに食べている。ロイドも口の端にクリームをつけて口にたっぷりとパンを詰め込んで幸せそうだ。

「喉詰まるよ」

 アビゲイルはちょっと心配になってロイドにコーヒーを渡す。すぐに受け取りごくごくと飲み干した。

「うめえ、ほんと色々作れるんだなお前」

「お前言うな、まあ作れるみたいだねえ。なんで知ってるかは知らんけど」

 異世界から来てるのは秘密にしているのでちょっとごまかした。

「アビー自身食い気があるからどんどん思い出してるんじゃないか? まあ俺らはその恩恵を受けられて満足だけどな」

「ようございました。さて、昼すぎたしアルさんとこ行くか」


 朝に練乳を渡したときにまた来いと言われていたのだ。また同じように厨房の裏口から入って声をかける。

「こんにちは~。アビゲイルです~」

「おう、来たな。ちょうど出来たとこだ」

 調理台には生のイチゴがたっぷりとのったタルトがあった。カリカリに焼けたタルト生地にカスタードクリーム。その上にイチゴが美しく並んでいる。

「わあ~おいしそう!」

「春の名物さ。うちの人気メニューだよ。これにアビーさんの練乳を添えて出そうと思ってね」

「なるほど、おいしそうですね」

「よかったら試食してくれ」

「え」

 喜ばずに驚くアビゲイルにアル達が驚いた。

「腹でも痛いのか?」

「いえいえ、実は・・・・」

 アビゲイルは朝からずっと練乳攻めなのを説明した。朝はバタートーストに練乳、その後にパン屋で味見、昼はパン屋の新作のサンドイッチとお弁当と食べ続けていてお腹がいっぱいなのだ。

「ははっ、なるほどな。持って帰るか? 神父様達にも食べてもらうといい」

「ありがとうございます、あ、ウルバさんの食べかけ一口味見していいですか?」

「ああいいよ。ちょっと練乳をかけすぎちまったけど」

 お礼を言ってから一口食べる、アルの作るタルトはやはりおいしい。少し固めに焼いたタルトにカスタードがふんわりとからんでイチゴの酸味と練乳の甘みがさらにタルトの香ばしさを引き立てる。アビゲイルはうんうんと頷いて。

「やっぱり一切れいただこうかな・・・・おいしいです」

 3人に笑われたがアルは嬉しそうに一切れ皿によそった。

「熱い茶もサービスしてやるよ」


 アビゲイルは結局そのままタルトも一切れ食べてしまった。

(今日はホント食べ過ぎ・・・・それにしても練乳でこんなになるとはなあ、マヨネーズ並にすごいな)

 少しもたれたお腹をすりすりとさすりつつアビゲイルは酒場をあとにして雑貨屋に向かった。

「へい、いらっしゃい。おう今日は何買ってくれるんだ?」

「こんにちは」

 雑貨屋の主人は挨拶もそこそこにすぐに商売を切り出した。

「今日はカバン買いに来たんですけど、その前にこれよかったら食べてください。ナイフのアドバイスとかお茶のお礼です」

 昨日作った練乳の最後の瓶を主人に渡した。

「牛乳のジャムか、イチゴとパンにね。早速使ってみるよ。ありがとな。で、カバンだったな」

 主人はそう言って奥に行ってしまった。カバンは店の中にも何種類かカウンターの後ろの棚に置いてあるのだがそれには目もくれなかった。不思議に思っているとすぐに戻ってきた。

「あんたが最初に買い物に来たときにカバンを欲しがってたから、念の為ひとつ取り寄せたんだ」

そう言って主人はカウンターに少し大きめのカバンを置いた。メッセンジャーバッグのような形だ。アビゲイルはバッグを持ち上げてぐるぐるといろんな箇所をチェックした。大きさを自分の腰に合わせてみる、少し大きいかもしれないが問題ない。

革製のショルダーバッグでポケットが前に2つ、後ろにひとつ。そして雨蓋の部分には2本の金具付きのストラップ、カバンの左右にも革製のホルダーがついている。

「冒険者バッグだ。これは通称でな、要は一人で旅するときに使う旅行カバンで、この形は冒険者がよく使うからそう呼ばれているんだ」

「へえ・・・・」

バッグの蓋を開けて中を見せてくれた。蓋やポケットは革紐で閉じられるようになっている。裏地は帆布のようだ。

「中は仕切りがついていて内ポケットがついてる。着替えや料理道具、食料を入れるんだ。ポケットにはその他細々したもん。まあ何入れるかは自由だがな」

「この蓋のベルトはなんですか?」

「ここにはテントや毛布を丸めたやつをこうして・・・・」

 棚からテントを出してきてベルトでカバンに固定して見せてくれた。なるほど。

「横のこのストラップにはナタとか手斧とかをこうやって挿したり、予備の剣とかな。魔法使いなら杖とかよ。ストラップの使い方も自由だ」

 登山ではこういうところにピッケルを入れたりするのだろう。水筒を下げてもいいかもしれない。

「おおー・・・なるほどなるほど」

「だいたいこれで2泊か1泊すぐ出来るくらいの装備を冒険者は普段から持ち歩くんだ、職業柄何があってもおかしくねえし、護衛とか討伐とか移動の多い仕事だからな。まあこの村じゃそんなことは少ねえだろうけど。これから他の街や都に行くこともあるだろうから最初に買っておいて損はないぜ」

「旅とかぜんぜん考えてませんでした、わざわざ取り寄せてくれてありがとうございます」

「いいんだよ、商売だからな。で、どうする?」

 正直いまの使っているオスカーから借りたカバン布製でお弁当と水筒を入れて少し余るくらいだ。買った野菜や肉は入らず抱えて持って帰ることもあった。それにこれから増えていくであろう私物を入れていくには小さすぎる。これから冒険していくにはこれくらいのバッグのほうがちょうどいい。

「おいくらですかね?」

「これは量産品だから、9000ゼムだよ。新米冒険者向け」

 アビゲイルは腰のポーチからお金を取り出し数えた。

「足ります、買います」

「お、即決だな。まいどあり。悪いなまた貧乏にしちまって」

「なはは・・・また稼ぎます」

「がんばれよ」

 買ったばかりのバッグにアビゲイルはアルからもらったイチゴのタルトをそっとしまった。ベルトを調節して腰の少し上あたりにくるようにしてバッグを背負う。背負ってみると思ったより大きくは感じなかった。まだ中身がからっぽだからだろうか?

「思ったよりちょうどいいですね」

「あんたが大きいからだな、背が高いからよ。横にもうちょっと増えたほうがいいんじゃねえか? 腰が細えから荷物を入れると重さで折れそうだぜ」

「太りたくはないですねえ・・・・」

 筋肉はほしいが脂肪は欲しくない。だが今日のように色々食べると危険だ。腰とお腹を両手でもみもみとつまむ。

「あんたも女だな」

 だっはっはと主人に笑われる。つられて笑ってしまう。これからこのカバンに色々なものを詰めていくことになるのだが、料理道具やお菓子、弁当と食べ物ばかりにならないように気をつけなければとアビゲイルは思った。


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