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楽しいデザート

 たっぷりとラム肉を堪能してからハーブティーで少しお腹を落ち着けていると、カミラがそわそわしている。

「早くイチゴ食べたいよー。アビゲイルさん」

 練乳が気になってしょうがないらしい。

「じゃ、準備しよか」

 イチゴはヘタを取って丁寧に水洗いしてからザルにあげておいた。このままみんなに出して練乳をつけながら食べてもらおうかと思ったが、アビゲイルはふと思い出した。

 昔息子兄弟がイチゴを奪い合ってひどい喧嘩になってしまったことがあった。次男は額にひっかき傷をつけられ、三男は次男に殴られて乳歯が抜け、長男は父親からゲンコツをくらってコブを作った。残った練乳は兄弟3人で留守中にすべて食べられて、また3人にゲンコツが落ちた。

(人生初っぽいし・・・・・、喧嘩は避けたい)

 アビゲイルはイチゴを4等分に皿に分けて出し、練乳は瓶に入れて好きにかけられるようにした。

「はい、どうぞ~。練乳は最初少しかけて味を確認してから量を決めてね、そして念のために言っておくけど!」

 最後語気を強めたアビゲイルに3人は驚き、見つめた。

「な、なんだい? アビゲイルさん」

「練乳は食べすぎず、使いすぎず、練乳だけで楽しまないこと」

「は、はい」

 アビゲイルがずいぶん真面目な顔で言うので、みんなおそるおそる練乳をイチゴにかけていく。

「では、いただきま~す」

 オスカー達は一粒だけ練乳をかけたイチゴをほおばる。

「わあ・・・・」

「おいしい・・・・とっても甘い。お菓子みたいね」

「うん、うん、これはいい」

 カミラはすばやく瓶を取り、スプーンで練乳をすくわずにそのままどぼりとイチゴにかけだした。

「あ、カミラ~駄目だよ。食べすぎず~使いすぎず~」

 注意しながらぱっとカミラから瓶を奪い、アビゲイルは自分のイチゴにとろりと回しかけた。

「次わたしね」

「はいはい」

 アビゲイルからエルマ、そしてオスカーに練乳は渡り、瓶はからっぽになった。それを見てカミラは鍋にまだ残っていた練乳をちらりと見る。

「鍋の練乳は食べちゃ駄目だよ、あれは明日ディクソンたちに配るやつだから」

「えー!!」

「明日の朝、パンに塗る分は残しておくけど。つまみ食いは禁止」

「まあ無くなっていたら誰が食べたか疑われるのはカミラだろうね」

 夕食前のつまみ食いを蒸し返されてカミラは黙った。

「練乳はいつでも作れるから、またイチゴ食べるときに作ってあげるよ」

「約束だからね」

「うんうん」

 3人は練乳をイチゴにたっぷりとからめたり、イチゴをスプーンでつぶして和えて食べてみたりとおおいに楽しんだ。カミラもおかわりが出来ないと知るとゆっくりていねいに食べだしてみんなの笑顔を誘った。

「ふー食べた食べた、それにしてもこの練乳というのはいいねえ。パンに塗ると聞いたけど他の果物にもあうかな?」

「どうでしょう? 他の果物に使うって聞いたことないですけど」

「木苺やベリーにも合うんじゃないかしら?」

 長年お世話になっていた練乳だが、イチゴ以外の使いみちは全く思いつかなかった。ひょっとしたらこの世界では新しい発見があるかもしれない。

「通年作れるものだから、いろいろ試してみたら?」

「そうね、でもこの練乳とパンさえあれば立派なお菓子になるわよね」

「明日パン屋さんにも持っていってみようかな?」

「いいじゃないか、喜ぶよきっと。果物のジャムは季節に影響するからね」

 オスカーが言うには果物は毎年採れる量と甘みに差が出るものなので、毎年のジャムの味と作る量にも差がでるのだそうだ。そして都と違い、流通する果物も少ないのでそれほど種類も無い。

「マーマレードの材料のオレンジは南の地方で作られてるから、この村まではめったに入って来ない。都でもまあまあの高級品だよ」

「へえ~、あ、そうか。運ぶ手間賃がかかるからですか」

「そういうこと、腐らないように運べる商人は少ないからね」

 逆にリンゴはこの村でも作っているのでジャムも作れるしたっぷり食べられるが、南では高級品となるらしい。

「なるほどねえ」

 煮沸した瓶に練乳を入れながらのオスカーの話をアビゲイル達3人は面白く聞いた。

「ジャム自体もトココ村では買うより作るものだから、安価な牛乳からジャムができるならみんな喜ぶはずだ。栄養もたぶん変わらないだろうし」

「じゃあパン屋さんやアルさんに作り方教えれば村に広まっていいかもしれませんね。あ、そうだ雑貨屋さんにも持っていこう。ちょっとお世話になってるし」

「あーん、明日のぶんの練乳がなくなっちゃうよお~!」

 そんなカミラの涙の訴えは笑いに変わってしまった。


 明日配る練乳の準備が終わってからは、オスカーと神魔法を教えてもらうことにした。といっても体内の魔力を安定化させる練習なので「魔法の練習」と言ったほうがいいかもしれない。

「うん、いいぞ。身体の中心で練るように集中して・・・・それを全体に流していく、そうそう」

 アビゲイルは集中しすぎて返事も曖昧だ、練りながら他のことがうまく出来ない。午前中の剣の練習でもうまく出来なかったことだ。

「今日何か練習したのかい?」

「朝にスライム退治しながら河原で剣を振りつつ、意識して練ってました。そのくらいですけど」

「なるほど、身体を動かしながらできるのもアビゲイルさんには必要だね。ディクソン達を剣を練習するときもやってみるといい。なんでも鍛錬になる」

「はい」

「ではもう少し続けよう、魔力が安定したら今度はそれを持続させる必要がある」

「わかりました」

 そのまま1時間ほど、魔力を練る練習をした。オスカーはあまり支持することはなく、アビゲイルの魔力をときどき読み取ってうまく出来ていないときに小さなヒントを与えてくれた。

「右腕に魔力が溜まってうまく流せないときは・・・・身体のどこかに他より魔力が少ないところがある・・・・・そうだ左足」

「身体の中央と一緒に身体の先端も意識してみるといい」

 オスカーはときどきアビゲイルを前から後ろからと様々な方向から眺めて魔力の流れを確認する。肩や手に触れることはない。

「離れていても魔力の流れって見えるんですか?」

「見えるよ、でもこれも訓練が必要だ。結構大変だよ。私の師匠はこういうのがとても上手でね」

「ある程度相手の強さがわかるってことですもんね、すごいなあ」

「師匠は体術にも精通しててね、組手をすると相手の魔力をいじってふっ飛ばしたり相手の動きを操ったりも出来たよ」

「ええー・・・・すご」

 確かにやろうと思えばできることなのかもしれないが、人を操ることもできるのかと知ると悪用もありそうだし、操られることもあるかもしれない。

「師匠に操られて変な踊りを何時間も踊らされたりしたねえ・・・・・」

「悪用されると変なことも言わされそうで怖いですね」

「訓練すれば操られる前に気づいて跳ね返せる」

「・・・・・ひょっとして神父様本当はすごい人です?」

 オスカーの顔を見ると首をかしげて考えている。

「いや、私はどこにでもいる普通の神父だよ。師匠がすごかったというだけだね」

「そうですか・・・・」

 神魔法は覚えると回復だけではなく、戦いにも役に立ちそうだと知りこれは鍛えたほうがいいなとしみじみ思った。人をふっとばしたり剣筋を変えたり出来たらかなり有利だ。

「こらこら、魔力が乱れているよ」

 オスカーに注意されて、興奮していることに気づき慌てて整えた。

「よしよし、落ち着いてきたね」

 とりあえず今はこの初歩の訓練をひたすら頑張るしか無いぞと改めて思い直し、アビゲイルはまた集中して魔力を練り始めた。

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