楽しい夕食
帰宅していただいた食材を食堂のテーブルに広げると、エルマ達は歓声をあげた。特にイチゴに。
「わぁー今年はじめてのイチゴね、こんなにたくさん!」
「それにしてもすいぶんもらったねえ」
イチゴの量はスーパーで売っているパックで数えるとだいたい5パックくらいだろうか? 粒が少し小さい分さらに多く見える。カミラがすばやく一粒口に入れた。
「あ! 駄目じゃない洗わずにつまみ食いするなんて!」
エルマはカミラのおしりを軽く叩こうとしたが、ひらりと避けてアビゲイルの背後に回った。
「へへー」
気づかないうちに持っていたもう一つのイチゴを食べつつエルマに挑発する。
「カミラ!」
「こら」
アビゲイルはカミラのお尻を軽く叩いた。
「今のは良くないよカミラ、みんなと仲良く食べようと思って持ってきたのに先に一人でつまみ食いして。しかもエルマに失礼なことして。駄目でしょ」
普段怒ることも手をあげることもしなかったアビゲイルに怒られて、カミラは驚いていた。
「そうだぞ、アビゲイルさんの言う通りだ。アビゲイルさんが普段怒らないからって甘え過ぎだぞ」
3人に怒られてようやく反省したのかしょんぼりしだした。無言でもじもじしている。ちょっと泣きそうだ。
「カミラは最近わがまますぎよ!」
エルマは普段のカミラへのストレスが溜まっていたのかさらに怒りつけた。
「イチゴは洗ってないから、そのまま食べるとお腹に虫がわくわよ」
「えっ!」
この世界では農薬なんてないだろうから、たぶんそのままでも問題ないだろうが虫がついててもおかしくはない。それを聞いてますますカミラの瞳に涙が溜まっていく。
「まあまあふたつくらいなら問題ないでしょ。でもイチゴのつまみ食いはもう禁止ね。今日の夕食のデザートに食べるときにいいもの作ってあげるから、ほらカミラも落ち着いて」
アビゲイルはなだめながらカミラの頭をなでる。オスカーもエルマの肩に手をおいてもういいだろうと落ち着かせていた。しつけと怒ることは違う。思い通りにならない子供の行動に苛立ちをぶつけてはいけないが、そんな仏のような心をもって子供と向き合える大人や家族はほとんどいない。子供は少しずつだが何度も叱られてこれはいけないことだ、これをやると嫌がれて嫌われるのだということを少しずつ積み重ねていくのを見守るしか無いのである。そのために何度もしつけて叱る。どちらかが死ぬまで続く家族関係のひとつだ。
うまくいくと子供が大人になり、親を叱るようになる。持ちつ持たれつである。エルマはアビゲイルがいない頃からカミラの姉で母親も担っているのだろう。といってもエルマもまだ子供だ。苛立って怒ってしまうのは仕方ない。
そんなことを考えながらカミラの頭をなで続けていると、落ち着いてきたのか涙をぬぐってお茶を飲み始めた。
「ごめんなさい・・・・」
「わかったなら、もういいよ」
「アビゲイルさん、イチゴのデザート作るの?」
「ああさっきのいいもの? いやデザートじゃなくてイチゴにつけて食べるものかな?」
「ふうん?」
「とりあえず夕食の準備しよっか。ラム肉食べよ!」
もらったラム肉の部位はロースともも肉だった。ロースの部分は骨がついている状態をフレンチラックと言われていて、これを助骨ごとに1本ずつ切ったものがラムチョップとなる。
「今日はロース食べましょうか、もも肉は仕込んでおいて明日に」
「楽しみだね」
ロース肉には余分な脂をとりのぞき、食べやすい大きさに切って塩コショウ、タイム、ローズマリー、細かく刻んだニンニク、オリーブオイルをしっかりと揉み込む。あとはこれを焼くだけだ。
「これでよしと」
そしてもうひとつのいいもの、練乳を作る。小鍋に牛乳を注いで砂糖をいれて焦がさないように弱火で混ぜつつ加熱していく。ただこれだけで練乳ができる。ものすごく簡単だ。
「これだけ?」
エルマはいつもどおり新しい料理のレシピを覚えようとノートと鉛筆を構えていたが、書くことがほとんどなくて驚いていた。
「うん、これだけ。でも絶対に焦がしちゃ駄目。トロリとするまでひたすら混ぜる。だから手間はかかるよ。なんていうかな牛乳のジャムみたいなものだね」
「パンにつけてもいいの?」
「うん、おいしいよ。パンケーキとかにもね」
「だからこんなに牛乳を買ってきたのね」
「保存はあまりできないから、他のイチゴもらったみんなに明日あげようかと思って」
つきっきりで3~40分煮詰めるとトロリとしてきて、混ぜる木しゃもじに重みを感じたら出来上がりだ。これを鍋ごと水を張ったボウルに入れて冷やす。
「これでよし、これもつまみ食い禁止だからね。食べるまでのお楽しみ」
「はあい」
ぶすくれたカミラが返事をする、だいぶ懲りたようだ。よしよしとまた頭をなでる。
夕食の仕込みが終わってからまだ少し時間があったので、風呂敷の続きを縫い始めた。それを見てエルマも作りかけの巾着袋を部屋から持ってきてアビゲイルに教えを請いつつのんびりと縫い始めた。カミラは宿題が終わっていなかったそうでまずはそれを終わらせなさいとオスカーに言われてしぶしぶと計算式を解いている。特に会話するでもなく3人こつこつと作業を続ける。夕食までののんびりした時間は午前中に動かした身体を休めて、戦いで高ぶった気持ちも風呂敷に針を縫い進めることで少しずつ落ち着いていくように感じた。
(やっぱりこういうのがむいてるのかなあ・・・・)
剣や魔法も練習するのは楽しいが、長年付き合ってきた家事をするのもやはり楽しい。
(まあバランスよく楽しめばいいか)
「よしできた」
四方を縫うだけだったのだが、思ったより時間がかかった。広げて縫い目を確認する。問題はないようだ。
「大きなハンカチみたいね」
「ハンカチにもお菓子包んだりするから、同じようなものだよね。さて私も巾着作るか・・・・ってもう夕食作らないとだな」
「手伝うわ」
まずはラム肉のグリルの付け合せにレタスとルッコラのサラダを作る。ドレッシングはビネガーにハーブと塩コショウを混ぜた簡単なものだ。オスカーがこのドレッシングにパンを浸して食べるのが好きなので少し多めに作っておく。ベーコンとカブ、そして最近八百屋に出始めたグリーンピースを煮込んでスープに。
そしてラム肉を熱したフライパンに乗せてじっくり焼いていく。ラム肉の特有の香りが台所に漂う、だがやはり鮮度がいいのかアビゲイルが思っていたより臭みはは弱く、加熱したハーブが混じって濃厚な焼き肉の香りとなり食欲をそそる。
「うーん、いいにおい」
香りにつられてオスカーも食堂にやってきた。
「事務室まで漂ってきたよ、いい香りだ。ラム肉は久しぶりだね」
「お好きですか? ラム肉」
「うん、好物だよ。私の生まれ故郷はこの羊を結構食べるからね」
「へえ」
焼きあがったラム肉を皿に盛り、サラダを添えてフライパンに残った肉汁をかけていく。
「できましたよ~」
「いただきま~す」
カミラ達もラム肉は問題ないようで、おいしそうに食べている。食材としてあまり使ったことがなかったので少し不安だったが味に問題もないようでほっとした。アビゲイルもひとくちほおばる。
「うん、おいし~。旨味がすごい」
「これはいいラムだね、おいしい。塩加減もいいね」
新鮮なラム肉はこんなにおいしいのかとアビゲイルは驚いた。香りもまったく気にならない。
「おいし~、明日も楽しみだなあ」
「アビゲイルさん、もう明日の夕ご飯気にしてるの?」
エルマに言われて恥ずかしくなってしまい、照れているとみんなに笑われてしまった。
「でもアビゲイルさんらしいわ」
「わたしどんどん食いしん坊キャラになってきてるね・・・・・」
トココ村の食材はすべてがおいしい、食べすぎて太ってしまい本当の食いしん坊キャラにならないように気をつけなければとアビゲイルは思った。




